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第2話 重度のアイテムおたく

 風車の町ヴィントミューレを襲った大型の魔物。戦争時に魔族が使用した〝魔獣兵器〟だ。魔物の扱いに長けた魔族が、戦闘用に訓練し、強化したものとされている。


 この脅威に勝つには、A級の冒険者パーティが複数組必要とされている。が、すぐに動けたのは、A級とC級の冒険者パーティが一組ずつ。これでは倒しきれないと判断され、住民の避難が終わるまでの時間稼ぎを、このA級とC級の混成パーティで行うことになった。


 本来は倒せるはずのないこの魔獣兵器を……、苦戦の末、倒すことに成功した。


 そして、今に至る。



 僕は〝ラット・クリアノート〟という名前だ。

 故郷の店ではアイテム屋を営んでいたが、ある目的があり、今は王都に向かっている。その途中で立ち寄ったのがこの〝風車の町ヴィントミューレ〟だ。


 本来は〝アイテム屋〟である僕だが、一年ほど前はある冒険者パーティに所属して旅をしていた。


 それが〝勇者パーティ〟だ___。



「勇者パーティの七人目〜? なんだそりゃ? 聞いたことがあるか?」

「ないな……」

「本当のことをいえよ。さっきからなんで隠そうとするんだよ?」


 沈黙が走る。


「おい……、なんかいえよ………」


 度重なる沈黙の末、ラットが冒険者へと近寄った。


「胡散臭いからですよぉぉぉぉぉ! えぇえぇ、どうせほんとのことを言っても信じてもらえないと思ったんです。実際に信じてませんよねえええぇぇぇぇぇぇえ?」


 顔を近づけ、捲し立てた。


「う……」

「わかってますよ。パーティの誰かがいるならまだしも、唐突に〝勇者パーティの七人目〟を名乗る人間が現れて、信じられるわけがありません」


 急な変化に冒険者たちも呆気に取られている。


「お、おい……」

「別に名声がほしいわけじゃないんですよ。大事な仲間たちと一緒に扱われないのが、〝ちょっと……〟いやなだけなんです!」

「悪かった。俺たちが悪かったから。落ち着け……なっ!」


 意外にも、目の前の冒険者たちは理解してくれたらしい。この少年の言っていることは本当だと。聞いたことのないような〝七人目〟だけでも胡散臭いのに。


 それでも名乗るのが、筋骨隆々の大男や大魔導士だったら信じる者もいただろう。しかし、ラットは真逆も真逆。おおよそ冒険者と言われても疑わしい風貌であることは痛いほど自覚している。


 話しても信じてもらえないなら口を閉ざす。当然の行動として染み付いていた。


「まぁ、実際に助けられた」

「その実力。……勇者パーティの一員なら納得だよ」


 騒ぎを聞きつけ、他の冒険者たちもやってくる。


「なぁ、おまえの力ってさ。どういう類の〝加護〟なんだ?」

「そうか、勇者パーティの一員なら持ってるよな」

「あ、それ私も聞いてみたい。女神さまから授かった〝加護〟って噂でしか聞いたことなかったから」


 冒険者たちはその伝説的な力に興味津々である。無理もない。誰しもが噂では聞いたことがある。だが、実際にそれを見たことがある人間は、勇者パーティと共に戦った者たちくらいで、すごいという噂ばかりが一人歩きしている状態だ。


「あ〜、それはですね〜」

「それは?」


 ゴクリ……

 唾を呑み、冒険者たちが声を揃えて聞き返す。


「持ってません……」


 ラットは目を泳がせた。


「は? だって勇者パーティといったら女神から加護をもらったって有名だろ。それに所属していたんだったら……」

「あっ、わかった! 強すぎる力だから他言無用なんでしょ。きっと!!」


 冒険者たちは、好き勝手言い放つ。


「六つだったんです……」

「六つ?」

「確かにパーティとして女神様から〝加護〟をもらったんですが、六つだったんですよ……」

「え……、それって…………」


 冒険者たちは察したようだ。

 ラットが話した〝七人〟という言葉が意味すること。


「ええ、だから……僕はあぶれたんです…………」


 痛い……。冒険者たちの憐れむような視線が…………。


「じゃあ、あの力は?」

「あの力?」

「戦闘中、姿を消してただろ?」

「あ〜、ただ単に存在感がないだけですね……」


 冒険者たちの顔に書いてある。


 なんだこの少年は……?

 さっきからやたらに〝不遇だ〟と……。


 質問するたびに、冒険者たちも申し訳なさそうな空気を出してくる。


 しかし、それも一つの言葉で転機を見せる。


「あの〝アイテム〟は?」


 ピクッ__


「加護を使って、アイテムの効果を強化したんじゃないのか……よ?」


 ……。


 …………。


 ……ラットは眼鏡を輝かせた。


「アイテム……。それはまさかアイテムの説明をご所望ですかあああぁぁぁぁぁ!!!!!?」


 バサッ

 鞄から布を取り出し、地面に広げた。


「いいでしょう!! 説明して差し上げましょうとも!!!!!」


 トトトトトトトトンッ

 リズミカルに一瞬で並ぶ八つの薬品。


「まず皆さんに使用させていただいたのは、こちらご存じ〝強化水シリーズ〟です!」


 口早に、一気に話していく。


「〝体力の水〟は体力を向上させ疲れにくく………………です。〝腕力の水〟は筋力を向上させ攻撃力を……………………。〝守力の水〟は防御力を向上させ肉体的な強度を…………になります。〝理力の水〟は魔法攻撃力を…………。〝胆力の水〟は魔法防御力を…………。〝速力の水〟は素早さを…………。〝気力の水〟は精神力をアップして…………してくれますね。〝覚力の水〟は五感を………………………………………………」


 話す。話す。語る。

 強化水の魅力を、全て!

 一般には知られていない細かな雑学まで、熱烈に、猛烈に__


「つまりは、っだ! 前衛職には攻撃と速度を上げて攻撃が通るように。魔法職には魔法攻撃力を上げて効果的に。弓使いには正確に弱点を狙えるように集中力を上げた。極めつきは魔物が強力な炎を放っていたから、全員に魔力耐性を上げたってことだなっ?」


 ハァハァ___

 冒険者の一人が割り込んだ。呼吸を忘れ、一息に大声で言い放つ。


「これで終わり……だよな?」


 ボソリ……

 誰かが呟いた。


「ご名答!!

…………………………で………………………………………………………………………………………………………………………………が……………………………………………………………は…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………!!!!!」


 素晴らしい要約を相槌に、説明を続ける。完全に強化水の虜になったのか、冒険者たちは今度は口を挟まない。

 放心した顔で聞き入ってくれていた。


 ……が、それも第三者の声により、唐突に打ち切られる。


「おい、どうなってる? 魔物がなんで倒されているんだ?」


 気を失っていたリーダーが、目を覚ましたのだ。


「リーダー、もういいんですか?」

「戦闘後、急に眠っちゃってたから驚きましたよ!」

「戦闘後? 俺は魔物に剣を突き刺した後、反撃に遭ってからは……記憶にない。それからどうなったんだ?」

「何をいってるんですか。〝魔物も深手を負っている。あと少しだぞ〟って俺たちを鼓舞してくれたじゃないですか」

「そうですよリーダー。それでなんとか折れずに戦い抜けたんです」

「いや……。それは俺じゃない」

「え? だって……。なあ?」

「はい。みんな聞いているんですよ」


 ラットはおずおずと手を上げた。


「実はそれ、僕でして……。皆さんを奮い立たせたかったので、この魔導機械アーティファクトを使わせていただきました」

魔導機械アーティファクト~?」


 冒険者たちが顔を見合わせる。


「わかるか?」



 魔法使いを見る。



「魔導機械って確か……。勇者の世界である勇界ヴァリオン。そこから伝わった科学という技術を、魔法の学問である魔導学と組み合わせたのが魔導科学。その技術を使って生まれた人工物……だったかしら? 最新技術よね……」



「さすが魔法使い。博識だな」


「まあね! ……で、その魔導機械がこれ? これであなたがリーダーの真似をして、みんなを鼓舞したってこと?」


「はい、〝ヴォイスミミック〟というものですね」



 __ヴォイスミミック

 声を模倣する魔導機械。

 調節して出したい声を設定したり、発せられた声を解析して真似たりすることができる。



「あ、あ~~、私はリーダーだ!」

「ほんとだ。リーダーの声になった……。面白いなっ」

「まんまと騙されたぜ~」

「なるほどね。これで騙すために、あのとき煙玉をつかったのね」



 __煙玉

 叩きつけると煙幕が発生する。

 範囲は大体数十メートルくらいを覆うことができる。



「あっ、じゃあ、あのオブジェもそうなのか?」


「〝テンタクルヘイター〟ですね。あれも魔導機械ですよ」



 __テンタクルヘイター

 魔物に効果的な触手状のヘイトを集めるための魔導機械。

 うねうねしたオブジェだ。



「魔導機械ってスゲーんだな」

「確かに、このオブジェみたいなのだけ見ると、ただの〝ガラクタ〟だよな」

「ハハッ、〝ガラクタ〟といえば、この町にもあるよ。ガラクタ置き場みたいのが。まったく、あれとは大違いだよ」

「私……。ちょっと興味湧いてきちゃった。これってどこで売っているの? やっぱり王都とかで買ったのかしら?」

「おいおい、そんなスゲーもん売ってるとこなんて、王都しかないだろ? 聞くまでもないさ」

「そうそう。うちらが手にするのはまだまだ早いよ」


「いえ、手に入れたのはこの町ですよ」


「え!? あんたこの町出身よね? そんなすごい店があるの?」

「クエストにも役立ちそうだろ。なんで言わないんだよ?」

「え、え~と、どこだったかな~。ちょっとど忘れしちゃってさ。場所……、教えてくれない?」


 ラットは説明した。


「え!? それって……」

「どこなんだよ」

「え~と……、あの〝ガラクタ置き場〟だよ…………」

「あれなの!?」

「この町の人間なら誰しもが知る、奇人変人の博士の店……」


 次第に言い淀む地元の冒険者。


「いいじゃないか。これのおかげで、こいつらが生き残ったんだろ? 今度、案内してくれるよ……な?」


 ガシッ

 散々な悪口を言っていた地元の冒険者の肩に、リーダーは腕を回した。強靭な腕に、彼はたちまち萎縮する。


「は、はい、もちろんです」

「その店……。なんていったらいいんだ? 〝ガラクタ置き場〟ではないんだろ?」

「ガラクタなんてとんでもない! 魔導機械屋、略して〝魔機屋まきや〟です」


 眼鏡を再度輝かせ、リーダーの問いに答える。


「じゃあ、その魔機屋の店主に今度伺わせてもらうって伝えておいてくれ」

「ぜひ! 魔機屋さんも喜びます!!」


 ラットは満面の笑みで答えた。アイテムだけではない。魔導機械についても広めることができたのだ。


「すまんな少年。こいつらも魔物との戦闘で疲れてるんだ。今日はこの辺で解放してやってくれないか?」

「あっ! すみません。僕も悪い癖が出てしまいました。アイテムのことになるとつい夢中になってしまいまして……」

「まっ、疲れが取れたら、好きに使ってくれ」

「先輩っ!?」

「いいじゃないか。しっかりと学んでこい」


 笑い合う冒険者たち。

 そこへ。


(……お~い、無事か~~…………)


「やっときた。これで怪我人を運べるぜ」

「こっちだ~!」


 合図を送った。


(やっぱり、いいなっ)


 ラットは思った。これが〝仲間〟なんだと。


「なあ、ほんとに〝加護〟は持ってないんだよな」

「ええ、そうですよ。特に隠す必要もないですしね」

「いくら魔法機械があったとはいえ、声を変えたり、攻撃の矛先を変えたりしただけだよな? 他のアイテムは一般のものだし……。なんでそんなもので戦況を変えられたんだよ……」

「ただの工夫ですよ」


 ラットは微笑む。


「ははっ、すげえな。ただの工夫か……。俺も強くなれるかな」


 彼は、今はまだC級の冒険者。それも、一度は圧倒的な脅威に屈しかけた。


 その手は震え、死の恐怖は未だに薄れていない。


「なれますよ」


 ラットは笑顔で、自信に満ちた表情で……

 それを告げた。


 少しずつ……、その震えは姿を消していった。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。


ラットです。

今回はこの方に来ていただきました。


旧版で村の皆さんにご迷惑をおかけした冒険者、〝ブレイブ〟です。


俺も来た。

A級冒険者パーティのリーダーだ。前回に引き続き、見張り役としてな。


今回は、皆さん最初からいい関係を築けているようで安心しました。


ほんとだよ。

旧版では途中からいいやつになったかもしれないけど、遅かったな……。


さあせんっしたあああぁぁぁぁぁ!!


反省は伝わったが、音量を下げろ。皆さんに迷惑だろ。


……すみません。


次回もよろしくお願いします。


よろしくな。


さあせんっしたあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!


だからうるさいって言ってるだろ。


………。


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― 新着の感想 ―
ラットの口調がオタクそのものですごく共感できました。ただの工夫で強くなれるのか?→なれますよの流れが、高みから見ているようでかっこよすぎます。すごく読みやすく、序盤から世界に入りやすかったです。
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