第30話 二人の日常
__コンコン
「ミル、起きてる?」
扉はすぐに開いた。
現れたミルの身体越しに、机の上の様子が見える。多種多様の工具と、様々な魔導機械が置かれている。
「ミル、今日も魔導機械を修理していたんだね」
「ん……。早く直したかったから……入って」
ヴィントミューレで破壊された魔導機械は多い。ミルは旅をしながら少しずつ、修理を進めていた。ミルの日課である。
ミルは椅子に座り、作業を再開する。ラットは少し離れた位置で、その手元を覗き込む。
「今日は何を修理してたの?」
ミルは手を止めずに答える。
「さっきの作戦……」
小さな部品を持ち上げ、魔力を通す。
「こういうの……」
瞬間、目が眩んだ。
光__
魔力を通された部品は、部屋を明るく照らした。
「光を放つ魔導機械……ロックの影対策かな?」
「回り込む……障害物に強い」
そうだ。王都での戦闘で使用した光玉は、障害物の少ない平地だからこそ効果的に働いた。だが、そうでなければ、逆に影を作ってしまう。
ミルはそれに気づいたのだろう。
「いいね。光玉は障害物があると防がれやすいから」
障害物に対しても回り込んで照らすことのできる魔導機械。これならば、障害物が多い場所でも関係ない。さすがミルだ。
それにしても、話を聞き、一から造るにしては早い気がする。
「これは何かを改良しているの?」
ミルは短く答えた。
「洞窟用……」
どうやら元々は、洞窟を探索できるように光を灯すための魔導機械らしい。確かに、障害物が多い洞窟を探索するにはうってつけだ。
「あ、でも……ロック対策となると、射撃の対策を考えないとすぐに撃ち落とされてしまうかも」
ミルの手が止まる。
ラットは考え込み、言った。
「魔導機械自体が光るんじゃなくて、発光する魔力をいくつも放つ……とか?」
一瞬の沈黙。
「できる」
ミルは頷いた。
部品を早速外し、別のパーツへと差し替えていく。よどみない手腕を、ラットはじっと見つめる。目の前で、組み上がっていく。魔導機械が、滑らかに。
まもなく、完成した。
「光を放出するようにした」
ふわりと浮かび上がる、無数の小さな光。輝きが集まり、部屋の中が輪をかけて白くなる。
「すごい……」
浮遊する光が視線を次から次へと惹く。
「これだけの光の中なら、本体はまず見えない。それに、それぞれの光を撃ち破られたとしても、またすぐに作り出せる……ということだね」
「自動の防御魔法もつけた」
ロックは広範囲の射撃も可能だ。
本体に偶然にも攻撃が被弾したときのために、自動で発動する防御魔法もつけた、と。至れり尽くせりだ。
文句なしの出来栄えなのに。ミルはなぜか、少しだけ、困ったような顔をした。
「……消費が多い」
元々が洞窟用で、光を灯して移動するだけのものだ。それを放出し、さらにこれだけの数の光となれば、そうなるだろう。
「最大まで魔力を貯めたとして、どの程度保つ?」
「五分くらい……」
ラットは顎に手を当てた。
「五分……使い時が重要だね」
顔に、ミルの視線が留まる。
「大丈夫だよ。それだけあれば、十分戦えるから」
ミルが少し、微笑んだ気がした。
「ラット、他には?」
突然質問され、咄嗟に口から漏れた。
「そうだなあ。もしまた洞窟探索でも使うなら、切り替えができたら便利だよね」
言うや否や、ミルがさらに弄り出した。
「いや、ミル? 言ってみただけだよ。そこまでやらなくても」
「大丈夫……」
無言で手を動かし続ける。小さな音が重なり、重なり。程なくして、改良版が出来上がった。
「これでどう?」
フワ____
ミルの指先が魔導機械を操作する。光が一つに収束し、また分散する。
「すごい、完璧だよ!」
すごいという意見と共に。ここまでさせてしまったことに、少しだけ胸が痛くなった。
「ごめんね、いろいろ注文が多くて」
ミルは首を横に振る。
「実用的意見、大事……」
杞憂だったようだ。ミルは気にしていないらしい。
「名前……魔導機械の……」
「名前? 元々あるんじゃ?」
「魔道ライト……でも変わった」
ミルの言うように、ここまで生まれ変わると、確かに別物だ。となれば……。
「太陽……ロックには当てはまらないけど、本来吸血鬼が苦手とするそれをもじって、〝ソルミナ〟なんてどうかな?」
ミルは親指を立てる。
「ナイス……」
どうやら気に入ってくれたようだ。
「ソルミナ……」
ミルは出来上がったソルミナを起動させ、夢中で試運転を行っている。
そんな彼女の、どこか浮かれた様子を最後まで瞳に刻み付けながら。ラットは、部屋を出た。
*
冷え切った、相変わらず暗い廊下を歩いていく。
ロックとの戦闘用に改良してもらった魔導機械。
本来であれば、あれだけ素晴らしいものを、血生臭いことなどに使いたくはない。
戦闘にならなければいいのに__。
だが、きっと、思い通りにはいかない。
それでも。
立ち止まり、ミルの部屋を振り返る。
灯り続ける優しい明かり。
笑みが零れる。
それでも__足を止めたりしない。
明かりに背中を押されるように、ラットは暗がりへと進んでいった。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
ミル……
今日作ったのは、〝ソルミナ〟だったね。
……ん。
いいものができたね。
これなら、もし明日戦闘になっても、ロックの影対策はばっちりだよ。
……ぐっ!
それにしても、二人でヴィントミューレを出てから、いろいろ作ったね。
……ん。
でも、まだまだ未修理の魔導機械がたくさんあるんだよ。
ちょっと鞄の中見る?
ジ_____
…………たくさん。
全部修理するには、まだまだ時間がかかりそうだね。
……ん、ずっと一緒……
……
……ラット、顔赤い……
い、いや、何でもないよ。
次回は、とうとう……。
……ラット?




