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第19話 次に目指すべき場所は?

「それじゃあ、これからどう動くか決めていこうか……と、その前に今後の王都の動きからかな」


 閃いたように、切りだす。


「おそらく俺の国家転覆を謳っているってことは逃げ切れたとしても指名手配にしてくるよね」


 ヒーロは作業台の前に立ち、


「そうだね。ここまでやっておいて逃げられたらそのままってことは考えられないし」


「指名手配にされてもラットなら問題にはならないと思うけど、陛下の口ぶりだとラットをかなり軽視していたよね」


 ラットは頷く。


「となれば、ラットは指名手配にされない可能性がある……。俺の発言を止めたのはナイス判断だったね」


 話をしながら簡単な地図を広げていく。

 ラットはその横から、ミルは少し離れた位置から、地図を覗き込む。



 広げられた地図。

 この世界、精霊界(スピリエラ)の世界地図だ。

 この世界は、まず大きな四つの大陸に分かれている。風の国、水の国、地の国、火の国だ。


 地図の左上に位置して、交差する剣の中央に大きな盾が置かれた形をしている大陸が〝風の国〟だ。


 その隣、地図の右上に位置して、大きな弓に矢を通したような形の大陸が〝水の国〟。この国は陸地が他よりも少なく島国とも言えるかもしれない。


 その下、地図の右下に位置して、鎚の形をしている大陸が〝地の国〟だ。


 その左、地図の左下に位置して、火を吹く竜(ドラゴン)の形をしている大陸が〝火の国〟となる。


 これら四つの中央に位置し、小さいながらも国として成り立っているのが、完全中立の国とされる〝天の国〟だ。


 この地図や世界共通の通貨である〝ファーマ〟を発行しているのはこの国だ。そして、最も大きな宗教である〝ファーマメント教〟の聖地であり、総本山があるのもここである。



「それを踏まえた上で、これからの動きなんだけど、まず仲間の場所を整理しようか」


 ヒーロの指先が風の国の右下の位置を叩く。


「トトがいるのは、俺たちと同じ風の国。獣人の首都である〝八牙の都シュトルム〟だ」

「獣人たちをまとめる八人の長、その中の一人の娘だからね」


 ヒーロは頷き、水の国の中央右へと指先をずらす。


「エレは水の国、〝聖樹の街フルーテン〟」


 さらに、地の国の右下へと滑らせる。


「シールは地の国。ドワーフの首都である〝大地の城塞アートベーベン〟だ」


 地図の上で指が止まる。


「ラピは……」


 地図から指を離し、首を振った。


「相変わらず放浪中なんだよ。だから俺も居場所を知らないんだ。こんなことならこまめに連絡をとっておけばよかったね」


 沈黙__。

 ラットは唇を引き結び、地図を見つめた。


「しょうがないよ。今後は定期的に連絡をしていこう」


 頷いたヒーロは、地図に再び指を置く。置いた先にあるのは風の国の中央だ。


「そして、俺たちがいるのが風の国の首都、〝ヴィントホーゼ〟。まずここから北東に向かい、水の国への連絡船が出ている〝ヴィントシュティレ〟を目指す」


「これが、ヒーロが向かえない最大の理由だね」

「王都管轄だし。規制して、勇者の渡航なんて絶対に阻止してくるよ」


「密航はできるかもしれないけどね。でも、辞めた方がいいね」


 ヒーロは目立つ。海の上で見つかろうものなら目も当てられない。


 両手が降参するように持ち上がる。

 だが、ラットなら。


「指名手配されていないラットなら、いや、例え指名手配されたとしても問題なく抜けられる。海を渡れば、水の国だ。フルーテンまでは険しい道だが、俺と共に旅を続けたラットならいけるだろう」


 ヒーロの言う通り、まずは隣接する水の国を目指すのが効率がいいだろう。


 だが、理解しているが、頷けない。


「けど……もし敵の目的が勇者パーティの襲撃だった場合、もっとも危険なのはシールだよね」


 ひた、とヒーロの視線が顔に止まる。


「理由は?」

「水の国にはエレだけじゃない、護衛隊がいる。危険な状態とは考えにくい」


 ラットの意図を口にしたのは、ミルだった。


「……守りが厚いってこと?」


 頷いたラットに、ヒーロが息をゆっくりと吐いた。


「アートベーベンにも強力な騎士団はいるだろう?」

「でも、シールは大怪我をしている」

「俺の回復魔法で致命傷は治したとも言ったよね?」

 

 バーでのやり取りが頭に浮かぶ。

 

「山を越えて、今は徐々に回復してきているはずだよ」


 それでも、ラットは首を横に振る。


「もう一つ、理由があるんだ」


 ヒーロの視線が先を促す。

 

「彼の性格や戦闘スタイルだよ。エレは精霊魔法使い。つまり、後衛だから倒すためには護衛隊を掻い潜る必要がある。だけど、シールは前衛の盾使い(フォートレス)の上、進んで敵に立ち向かっていく。それに、追い詰められた際は率先して殿を請け負うのが彼だ」


 静かに、しかしはっきりと告げる。


「騎士団はもちろん、強力だ。だからこそ__狙うなら、その主軸が弱っている今を逃さないと思う」


 ヒーロは目を閉じた。

 思案するようにしばらく瞑った後、開く。


「__水の国は素通りして、シールとの合流を優先する」


 わかってくれたヒーロに、ラットは笑う。


「よし、これで当面の方針は決まったね」



 だけど……


「一つだけ懸念点があるんだよね」



「なんだい?」


 ラットの言葉に、ヒーロは続きを促した。


「連絡手段かな。シールと合流できれば、マナベルを借りて連絡できるけど、それまでは長い期間、別行動になる。状況の変化に気づけないし、対応できない」


 マナベルを持つ勇者や他のメンバーは皆、マナベルを持っているから連絡が取れさえすれば、状況の変化に対応できる。しかし、ラットは違う。マナベルを持っていない。


 移動している間に

 

 __ヒーロに何かあったら?

 __仲間たちが移動していたら?


 ラットたちはそれを知る由がない。



 __にやり

 それを聞き、ヒーロが不敵に笑った。

 腰の革袋から、小さな箱を取り出す。


「これを渡そうと思ってた」


 受け取った箱を開くと、耳飾りが収まっていた。


「これは?」

「マナベルだよ。それも魔法都市で出たばかりの最新式だ」

 

 一瞬にして、視界が輝いた。


「マナベル!? これが!? っすごい!! まるで装飾品じゃないか」


 マナベルということは、耳飾りのように見えて連絡ができるのだ。通信魔法と技術の結集。あまりの素晴らしさに、手が震える。


 ヒーロは笑いを堪えながら、自らの耳をちょいちょいと指す。


「耳にかけることで両手がフリーになるだろ。戦闘中でも使うことができるってわけさ」

「いいの? もらって」

「もちろんだよ!」


 破顔した彼は、次いで、いつもの大きなマナベルを取り出した。

 

「本当はもっと早く、陛下から預かったこのマナベルを渡すつもりだったんだ」


 ヒーロの話には、覚えがある。


「だけど、ラットの故郷……ウィアベルへ行っても、〝ラット・クリアノートなんか知らない〟って。そのまま渡せず仕舞いさ」

「来てたの?」

「何度もね。けど行くたびに誰に話を聞いても同じ返答。そうこうしている内に最新版が出た訳さ」

 

 苦笑する。

 あの村では、幽霊扱いだったのだから、会えなかったのも無理はない。


「……王さまからのプレゼント?」


 話が見えなかったらしいミルが、久しぶりに口を開いた。


「プレゼントと言えば聞こえはいいんだけど、実際は陛下が有事の際にヒーロたちを呼び出すための物だね」


 ヒーロは王都にいるため、直接呼び出されることも少なくないが、他のメンバーへはこれを使用して呼び出すことになっている。


「面倒事を押し付けられる呪いのアイテムさ」

 

 ヒーロが冗談めかして言う。


「ラットは受け取らなかったの?」

「……存在感がなくて」

 

 視線を逸らし、頬をぽりぽりと掻く。口ごもるラットの代わりに、ヒーロが後を継いだ。ふふっと笑って。

 

「マナベルを発注した人がラットを人数に入れてなかったんだよ。余分がなくて、後日ってことになったんだ」

「ラット……」

 

 ミルの呟きに、あるはずのない痛々しさを感じた。


「ちなみに……こっちの古い方も、もらっていい?」

 

 ヒーロは笑みを強くした。


「ラットらしいね」


 いいも何も、元々ラットの物だよ。そう笑って手のひらにのせられた重みに、幸せの溜め息が漏れる。

 

「これはこれで趣があって素晴らしい!! ぜひ僕のコレクションに加えたい!」


 右に新型、左に旧型。陽光と重なって輝く両方の魔具(ルーリック)を、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。


「ミルさんにもあげる」

「わたしにも?」


「うん。さっきもいったように戦闘にも便利だからさ。それでラットを助けてあげて」

「……ありがとう」


 ミルも、マナベルを受け取った。


「あと、予備用ね」

「まだあるの!?」

「綺麗な装飾だろ? 色々迷ってる内に買いすぎちゃって」


 ヒーロは頭を掻いて苦笑する。

 

「ミルさんみたいに仲間も増えていくかもしれないし、それにパーティのみんなに会った時に新しいのを渡してあげてよ」


 手渡される大量の箱。

 一つ一つ見たい衝動を抑え、鞄に詰めた。



 そのときだった。

 ヒーロの体から魔力が溢れ出し、輝きだす。




『ヒーロくん、大変大変たいへーーんっ!!』




 部屋の中は、光と叫び声に包まれた___。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ヒーロだ。


マナベルって、ヒーロの世界にもあったんだね。


俺の世界だと、スマフォって呼ばれてるかな。

もうかなり一般的な道具だよ。


そんなに広まってるんだ。

やっぱり、遠くの人とも簡単に連絡が取れたりするの?


できるね。

通話したり、文字を送ったり、映像を送り合ったりもできるよ。


映像まで!?

便利すぎない!?

羨ましいな~~~。


次回は、騒がしい人が登場します。


よろしくお願いします。

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