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第27話 〝コイバナ〟を所望する

 リオンから唐突に発せられた〝ミル、可愛いよな〟……。

 そんなリオンの言葉に、ラットの手は沈黙した。


「無口だけど、声はそよ風みたいで心地いいし」

「……」


「目はジトってしてるけど、あの大きな黒い瞳でまじまじ見られたらドキってするよな」

「…………」


「無表情だけど、童顔で可愛いし」

「リオン? ちょっと悪口も入ってない?」


「あと、胸も大きい!」

「リオン!!」


 ニシシ__とリオンが笑う。


「戦闘中、揺れるの気にならなかったのか?」


 ラットは視線を逸らす。


「……戦闘中なので」

「俺はちょっと気になった」


 一口、水を飲んだ。

 リオンが椅子に寄りかかり、両手を頭の後ろで組んだ。


「二人で王都まで旅してたんだろ?」

「そうだね」


「どんな感じだったんだ?」


 ラットは天井を見上げ、目を閉じて、二人での旅路を思い出す。


「アーティファクト……の話をしてたね」

「それだけ?」

「あと、アイテムの話を……」

「ずっと?」

「うん」

「ミルは?」

「無表情だった……」


 リオンが腕を組む。


「それ引かれてないか」


 ラットは目を伏せた。


「……ですかね」


「ラットはミルのことどう思ってるんだ」


 ラットは目を泳がせながら答える。


「可愛い……とは思う」


 リオンが机を叩いた。


「だったらもっと攻めろよ」

「攻める?」


「面白い話をするとか、この花綺麗だねとか、なんかあるだろ?」


 バン__

 リオンの言葉に熱が籠り、机をさらに叩く。


「ガンガンアプローチしろ」

「リオン、酔ってる?」

「水でどう酔うんだよ!」


 シラフで詰め寄っているらしい。

 ラットは眉根を寄せて首を傾げる。


「いや、可愛いとは思うんだけど、好き……と言うか、これが恋愛感情なのかよくわからなくて」


「おいおい、そんな悠長なこと言ってると誰かにとられちまうぞ」

「そう言うリオンはどうなのさ?」

「俺か?」

「まさか……ミルが、タイプなの?」

「俺はやっぱり年上のお姉さんだよ」


 リオンは不敵な笑みを浮かべ、語り出す。


「ミルやこの宿のポニさんもかわいいとは思うよ。だけど、年上のお姉さんのあの色気には敵わないかな」


 言ってやったぞと言わんばかりのドヤ顔を見せる。


「王都なら一番出会いがありそうな」

「……いるにはいるんだよ。だけど、話しがたいっていうか、高値の花って言うか……俺が手を出していいような、そんな雰囲気じゃなかったんだよ」


 リオンは俯き、コップを握る手に力が入る。


「リオンこそ、何もできてないじゃないか……」

 

 ラットはジトっとした目でリオンを見つめる。


「はは、違いない……。お互いがんばろうな………」


 リオンは少し間を置き、手をかざした。

 

「ポニさん、このチーズたっぷりミートパイってやつお願いしまーす!」

「は~~い」

「まだ食べるの!?」

「うまいからな。こうなったら、いけるだけいく」


 リオンは若干やけになっているように感じる。


「それにしても、ミルって本当に表情が変わらないよな~。あ、悪口じゃないぜ」


 慌てて手を振り、


「二人のやり取りは結構見てたんだけど、ラットばかりがリアクションしてて、ミルが退屈そうにしてるような、そんな感じにも見えたんだよ」


 言葉を選びながら続けた。


「もちろん感情がないからそういう裏がないってのは理解してるぜ。ただ事情を知らない奴から見たらって話だ」

「あ~、やっぱり他の人から見ると、そんな感じなのかな?」

「ん? どういうことだ?」


「確かにミルは表情の変化は少ないけど、完全にないって訳じゃないんだ」


 ラットは気づいていた。

 嬉しい時は柔らかい表情になったり、怒っている時は少しだけ頬を膨らませたり、悲しい時は顔の力が完全に抜けたような表情をしたりしていることを。


「よく見てるんだな。全然気が付かなかった。んん? でもそれじゃ、感情があるように聞こえるぜ」

「それなんだけど、ミルは起伏が少ないだけで、〝ない〟訳じゃないと思う」

「本人は感情がないって言ってたよな?」

「だから、ミル自身、自覚がないんじゃないかな」

「無自覚か……」


「ここからは推測なんだけど、おそらくミルは造られたばかりの頃は、もっとそれこそ完全にほとんど無反応だったんじゃないかと思う」

「それじゃあ……」

「きっかけがあったんだよ。長い間、博士と過ごす内に、今の状態になった」

「なるほどな」

「だからこそ、博士は最後に〝経験することで、感情は得られるかもしれない〟っ言ったんじゃないかって」

「よくよく考えれば、さっきの受付での時もそうだもんな。あれは俺でも動揺してるのがわかった」


 納得したリオンは、次いで訊いてきた。


「本人には伝えないのか?」


 ラットは少し間を置き、答えた。


「まだ確証がある訳じゃないから……」


 この話をすると、昔のことまで聞くことになる。

 そして、おそらく聞いたら教えてくれるとは思う。


 ただ感情がしっかりあれば本人の内に留めておきたいことも、

 今の状態のミルでは、すべて話してしまうんじゃないか。


 感情が未熟な状態であることに付け込んで、すべて聞き出したくない。

 本人が伝えてもいいと本当に思った時に聞きたい。


 ラットはそう考えていた。



 そんな話をしていると……


「お待たせしました! チーズたっぷりミートパイです!」


 ポニが料理を届けにやってきた。


「お~、これもうまそう!」


 リオンが早速料理に手を付けようとした、その瞬間。

 ポニが前屈みになる。

 

「さっきアプローチ……とか、好き……とか、話されてませんでしたか?」


 ひそ、と二人に耳打ちしてくる。

 

「私も〝コイバナ〟聞きたいです。興味あります!!」


 目を輝かせる彼女。


「誰ですか? 相手はミルさんですか? 好きなのはどちらですか?」

「実はさ……」


 悪い笑みを浮かべたリオンが口を開こうとする。


(まずい__)


 その時だった。


「ラット!!」


 ミルがついに、整備を終えてやってきた。

 ……助かった。


「ではポニさん、クリームシチューとミルクを二人分お願いします。あ、ミルクは先に」

「はい、すぐにお持ちしますね」


 ポニは残念そうだったが、即座に笑顔に切り替えた。

 ちぇっ、と面白くなさそうに舌を打ったリオンも、食べたミートパイに夢中になる。


「ラット!!」


 ミルの鼻息が荒い。興奮しているようだ。


「まずは座って。すぐにミルクが来るからね」

「こちらミルクです!!」


 ポニがすぐにミルクを持ってきた。

 目の前に置かれたミルクに目を輝かせ、即座に口へと運ぶ。

 ぐびぐび飲んだ彼女の顔は、ぽわんと満足そうな表情を浮かべていた。


「ミルなら喜んでくれると思ったよ」


 ポニと笑う。次いで、ラットは話した。


「実はここのミルクって、ヒーロの店で扱っているんだよ」

「!?」


 目を大きくしたミルは、


「味、違った……」


 的確に感想を伝える。


「日持ちさせるために殺菌処理をしてるからね。やっぱり搾りたては格別だったでしょ?」


 ミルはすごい勢いで首を上下させた。


「勇者様と言えば、ここしばらく姿が見えないんですよね」


 ポニが心配そうにラットに打ち明けてきた。


「怪我とかではないんですが、事情がありまして。しばらく来ることができなくなってしまったんですよ」

「そうなんですね。お怪我されてないようでしたら、よかったです」


 あえて心配させるようなことはない。

 ラットは詳細を語るのを避けた。


「おかわり」


 ミルは既にミルクを飲み干していた。


 くすっ……

 ポニが笑い声を漏らす。


「気に入っていただけてうれしいです。多めにお持ちしますね」


 それから料理も運ばれ、ラットとミルも極上のホワイトソースを遅れて味わった。 



 食事が落ち着いた頃。

 


「これからの話なんだけど……」



 ラットは真剣な表情で切り出した____


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


リオンだ!


どうだった?

ここの料理。


いや、うますぎだろ。

王都でも、こんなの食べたことないぞ。


でしょ!


ああ~……。

ここにいられるの、一日だけなんだよなぁ。

全部の料理、制覇したいぜ。


わかる!

気に入った一品に絞るのもありなんだけど……

その一品を決めるために、まず全制覇したくなるっていうか。


そう、それなんだよ!

朝にも三……いや、四品はいくか?

それでも、まだ全然足りないな……


あ、実は……


ん?

なんだよ。


明日の朝、食事取れないかもしれないんだよね……


……まじか?


あくまで可能性なんだけどね。


……今のうちに食っとくか。


リオン、完全に戦闘前の発想になってるよ。


次回は、ロックについて語ります。


よろしくな!


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