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第24話 逃げない理由

 戦況は、ロック・スネイクの予想外の展開だった。


 ロックの魔銃は射程が長い。

 射程において、他の追随を一切許さないほど。

 この距離ならば、一方的に攻撃することができる。


 いくらラットと言えど、この開けた場所だ。

 近付くまでに、ロックなら確実に捕捉できる。

 捕捉してしまえば、撃ち抜くだけ。

 簡単な作業だった。


 __そのはずだった。



 最も予想外だったのは、傍にいる黒髪の少女。


 この少女が、とにかく速い。

 動きこそ、まだぎこちなくはあるものの、最高速度だけなら突き抜けている。

 数多の戦いを潜り抜けたロックの中でも、

 勇者パーティのラピ、

 魔王軍四天王のネーシス、

 それに次ぐ速さといっても過言ではない。


 間違いなく、見た目のままの可憐な少女ではなかった。

 一瞬でも攻撃の手を緩めれば、一気に距離を詰めてくるだろう。



 ラット。

 相変わらずの判断力。

 少女を囮に攻撃を引き付けさせ、煙幕で障害物を作り、前衛を送り込もうと行動する。



 手強い少女とラットの行動。

 その対処に追われたせいで、

 寸前まで気付けなかった__。


 もう一人の青年の姿を見ていないことに__。



 影に射す光。


 剣__。


 襲いきた刃を危ういところで躱す。

 絶えない斬撃を長い銃身で受け止める__。


 防ぐ。

 防ぐ。

 防ぐ__。


 刀身に響かせた一撃で剣戟が途切れた瞬間、踏み込んだ。

 蹴った感触は硬い__。


 防がれた。剣で。

 全力で蹴り飛ばし、飛び退く。

 開く距離。

 同時に、銃口を向けた__。


 逸れる弾道。

 刹那の弾さえ、弾かれた。


 風が、ロックの目の前をふわりと捲る。

 黒い外套から現れたのは、

 ラットのもう一人の仲間。


 赤茶色の髪の青年__。


 思わず、笑った。


「君、若いのにすごいね」


 弾を刀身に当てる反応速度にも驚いたが、何より貫通弾を弾いた。

 本来なら武器を貫通し、対象を撃ち抜く貫通弾を……だ。


 目の前の青年は無傷で、武器は折れてすらいない。

 しかも、剣には魔力を纏っていない。


「ミルさんとラットくんのおかげさ」


 マントがゆれる。


「それは……〝カメレオンマント〟か」



 __カメレオンマント

 周囲の色を取り込んで擬態・迷彩するマント型の魔具。

 羽織り魔力を流すことで、背景と同化し、目視では捉えづらくなる。


 あくまで見えづらくなるだけなので、いるとわかった上で注意深く見られると効果は薄い。



「やられたね。煙幕は囮か」


 ラットは、最初の時点で煙幕に潜り込ませることで、

 その中に潜んでいると思わせた。

 別の方法で近付けるために……。


 ラット自身は煙幕を作り続けることで、

 本来のリオンの位置から意識を反らしていた訳だ。


 やはり、ラットは侮れない。


「それにしても、すごいな。俺だって接近戦は比較的得意でないとは言え、下手なA級冒険者より強い。それをここまで優勢に進めるなんて、大した剣の腕だ」


「最高の武器を造るには、使い手の感覚も知らないといけないからな」


「造る?」


 と、いうことは、


「君は鍛治師か何かかい?」


 青年が口角をつり上げる。


「リオン・スマイト。〝最高の鍛治師〟になる男だ」


 冒険者かと思ったが、まさか鍛治師とは……。


「ロック・スネイクだ。握手はしないぜ? 野郎とは仲良くしたくないからな」


 仲良くするのは、美女だけと決めている。


「リオンくんは、好きを極めたいタイプか。まるでラットだね」


 だからこそ、わかる。

 油断できない。


「なんで魔力を纏わせない?」


 その身体能力に魔力を加えれば、もっと楽に近付けただろうに。温存か?

 それにしては、先のやり取りでも纏っていなかったが。


「纏わせられないからだよ」

「……あ?」


 纏わせない、ではなく。纏わせられない?

 リオンは視線を落とした。


「俺は魔力の総量が少ないんだ。使おうものなら、ものの数分で空になる。回復も遅い」


 風と戯れる土埃を眺めていたのは束の間。光を宿した瞳で、剣を構え直す。


「すぐ動けなくなるくらいなら、使わないで戦う」

「ビビってるのにか?」


 その柄を握る手の震えを、見抜いた。


「怖いんだろう?」

「ああ、怖いよ」


 リオンはあっさり認めた。


「ぶっちゃけ、今すぐ逃げたい」

「なら逃げればいいだろう?」


 策もなければ、度胸もない。ラットのようだと評したが、違う。


「俺が節穴だったよ。君はラットとは別物だ。男は好きじゃないが、臆病者を殺すほど俺は冷たくない。二度と鍛治ができなくなる前に、消え……」


「けどっ!」


 疾風。斬りかかってきた剣を銃に噛ませる。

 薙ぎ払い、リオンへ叩き込む。


「あるんだ、夢がっ!」


 膝。


「簡単に逃げ出すような奴にっ、叶えられると思うか?」


 肘。


「何よりっ!」


 蹴り。


「俺を信じて送り出してくれた親父にっ! ……顔向けできねぇんだよ!!」


 距離を取って射撃に切り替えた瞬間、見切られた。

 弾を斬り捨てたリオンが一気に駆け、振りかぶる。


 斬撃が、ロックの髪を切った。


(魔力なしで、この強さ……!? こいつ、魔力なしで、B級レベルはあるぞ!!)


 前言撤回だ。


(同じだぜ、ラットと。……厄介だ、この上なく!)


 直後、黒髪が滑り込む。風を殴るのは、ガントレット。


「おっと!」


 追い付いた少女の一撃を躱した。


「さすがにまずいか……。またな!」


 影へ飛ぶ。

 溶けるように潜り、逃げた__。





 リオンは逃がすまいと剣を振るうも空を切り、草が裂けるだけだった。

 

 逃げられた__。


 次の瞬間、後方の少し離れた影から現れる。

 殺到する弾丸。


 逃げた。

 距離を取るまでの間、攻撃は来ない。


 そう思わせてからの、心の隙間をつくような奇襲。


 避け切れず、ミルとリオンは被弾した。

 だが、倒れない。


「ロックなら、そうすると思ったよ」


 晴れた土埃の中から、ラットは言った。

 目の前の二人は、無傷とはいかない。

 だが、立っていた。

 

 ロックが舌打ちする。


「胆力の水……魔力防御を上げたか」


 二人が被弾する直前。

 ロックの行動を読み、

 先に空気銃で胆力の水を放っていた。


 距離を取るロックを見て、ミルが突進する。

 被弾を覚悟で__。


「いけない!」


 止めるが、遅かった。

 ロックの散弾がミルを襲う。


 誘われた__。



 ミルは魔導機械人形だ。

 多少の魔法攻撃ならば意に介さない。

 その上、アイテムで魔法防御力を上げている。


 だから、当たっても問題なかった。


 散弾だけなら__。


 〝ピアスレイ〟


 腕を貫いた一発に、ミルの身体が揺れる。

 ロックの後退は、追撃を誘い込む、罠だった……。


「ミル!!」

「ミルさん!!」


 ミルは倒れない。だが腕が落ち、動きが鈍る。

 ラットは即座に煙幕を投げた。

 白い煙が広がり、ロックの発砲を妨害する。


 駆け寄ったリオンがミルの肩を支え、煙の中を歩く。

 尚も撃ち込まれる弾に注意を払いながら、

 ラットは鞄から魔力粘度を取り出した。

 地面に押し付け、岩のように盛り上げる。



 出来上がった即席の障害物の影に、鞄を置いて。



 中へ、潜んだ__。





 魔法鞄マジックバックの中__。

 機械が剥き出しになったミルの腕に、ラットは顔をしかめる。


「これじゃあもう、戦闘は無理だね……僕とリオンさんで何とかこの場をやり過ごすから、ミルは鞄の中で休んでて」


 ミルは首を振る。


「平気」

「けど、その怪我じゃ……」


 再度、怪我の状態を見るが、とてもではないが戦えるようには思えない。


「き、機械!? え? どういうこと?」

「そういえば、まだリオンさんには伝えてませんでしたね。ミルは魔導機械人形なんですよ」


「ラット、ポーション……もらっていい?」


 ラットはその言葉に疑問を感じざるを得なかった。


「いいけど……」


 鞄の中だ。ラットは走り、いくつかのポーションを抱えて戻ってくる。


「ここにかけて」


 ミルは傷口を差し出した。


「失礼します」


 ラットは膝をつき、疑問に思いながらも、言われるがままミルの腕を取る……。


 改めてミルを見るが、彼女はやはり頷いた。


「大丈夫……」


 促され、ラットは小瓶を傷口へ傾けた。


「!!」


 液体が触れた瞬間、信じられないことが起こった。ミルの皮膚が、ゆっくりと塞がり始めたのだ。


「驚いたよ。魔導機械人形にも、効くんだね」


 こくん__

 ミルは頷いた。


「普通の塗り薬は効かない……。だけど、身体を構築しているナノマシンに、ポーションの魔力が作用する」

「魔導機械人形って確かあれだよな。魔導科学の……。魔法としの文献で見たぜ。あれ? でも、あれって確かまだ……」


「僕もミルと出会って知ったんですが、完成していたんですよ」


 ラットは簡単に説明した。そして、気付いた。


「……強化薬も同じ原理?」


 今まで何の疑問も抱かずに使用していたが、身体の細胞を活性化させ、能力を上げる強化薬とて、ただの機械ならば効果がないはずだ。


 ミルは頷いた。


「だけど、人ほど強く作用しない。回復の時は時間がかかる」


 確かにそうだ。

 今、使用したのは上級ポーション。すべてかけて、なんとか傷口が塞がってきたかと思う程度だ……。本来なら完治はしないまでも、もう少し回復していてもいい。


(今までの強化薬を使用したときの違和感はそういうことだったのか……)


 回復の度合いを確かめるため、ミルの手首を軽く曲げる。ミルも小さく息を吐き、腕を上げる。まだ傷口は残っているが、動く。ミルは拳を握り直した。


「ミル、まだ本調子じゃないと思うから無理はしないでね」


 ラットは、その姿を目で追うが。


「行く……」


「よっしゃ、俺も!!」


 ミルは鞄の出口へ向い、リオンはそれを追いかけた。



「待ってください!!」



 二人の前。


 ラットは立ち塞がった____。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです!


ミル……


最近はずっとヒーロとの雑談が多かったから、ミルとのこのコーナーは久しぶりだね。


ん……


それにしても、魔法薬がちゃんと効くって驚きだったよ。


魔導機械人形ギアノイドは……

人と同じように生活できるよう、設計されてる……


そうなんだ!

だから、ごはんとかも食べられるんだね。


そう……

あと、少しだけ痛みもある……


そうか。

痛覚がないと、鈍感になりやすいって聞くしね。


うん……

でも、少しだけだから……最後まで戦える……


なるほど……。

痛みが強すぎると、戦いづらくなるもんね。

すごく考えられてるんだ。


ん……


ほかにも、何か人間と同じところがあったりするの?


う~ん……

成長する……


成長……!?


年齢を重ねられる……


ああ、なるほど!

そっちの意味か!


そっち……?


あ……


どうしたの……?


……次回は、二章完結です。


ラット……?

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