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第195話 奪われた制空権

 閃光が、次々と軌道を変えていく。


 その光景を、ラットは呆然と見つめていた。


「これ……中級魔法だよね?」


 アリエスが使ったのは、中級魔法で間違いないはずだ。

 それが、上級魔法を受け流している。


「まさか、上級魔法に対抗できるなんて……」


 ラットは目を疑った。


「何を言っているのよ」


 アリエスは、呆れたようにラットを見る。


「あなたのパーティには、初級魔法で特級魔法を消し飛ばす人がいるんでしょう?」


 その言葉に、ラットは一瞬だけ言葉に詰まった。


 確かに、そうだった。


 彼女の魔法は、あまりにも常識外れだった。

 そのせいで、初級魔法を使っているという印象が、すっかり薄れていたのだ。


「先生からよく聞かされたわよ!」


 彼女は、魔法学校を卒業している。

 勇者パーティでの活躍は、魔法学校では特に有名な話だ。


 なにしろ、自分たちと同じ学校から英雄の一人が出たのだから無理もない。


 そして、在学中の彼女も何かと目立つ存在だっただけに。

 話題には事欠かなかったのだろう。


 その魔法学校に通っていたアリエスが、その話を耳にしていても不思議ではない。


「はは……。そうだったね」


 ラットは、苦笑した。

 かつて共に冒険していた頃のことを思い出す。


「あ、でも、この魔法はね。その人みたいな力技じゃないのよ」


 アリエスは、どこか自慢げな表情を浮かべながら、魔法の仕組みについて語り始めた。


「魔法の理論に基づいているものなの。端的に言うなら力を逸らしたのよ」


 同様に上位の魔法に対抗する二人の魔法だが、その干渉の仕方には大きな違いがあった。


 ラットの知る人物は、真正面から上位の魔法とぶつかり、その力を相殺する。


 それに対して、アリエスの魔法は、魔法の流れへと干渉した。

 そうすることで、その進む方向を変えたのだった。



 __スパイラルム


 対象に回転する力を付与する魔法。

 付与された対象は、魔力によって一定方向へ流れるようになる。


 武器や攻撃に付与すれば、

 回転によって攻撃の軌道を安定させ、力を一点へ集中させたりすることができる。

 地面などに付与すれば、そこを通過する物体の動きを誘導させることも可能。



 魔法の規模だけで、すべてが決まるわけではない。


 魔法の性質を見極め、その特性を理解することができれば、下位の魔法でも上位の魔法と渡り合うことができる。


 アリエスは、それを証明してみせたのだった。


「それにしても、これ便利ね!」


 アリエスは、衣服につけた魔具(ルーリック)へと目を向ける。

 それは、ラットがヘイストスペルとともに渡していた、もう一つの魔具だった。



 __エレミアブローチ


 各属性の魔力を蓄えておくことができる魔具。

 取り付けられた宝石には、それぞれ異なる属性の魔力を蓄える性質がある。

 蓄えられた魔力は、魔法の発動に必要な属性の魔力を補填することができる。

 そのため、自身が持っていない属性の魔力を必要とする魔法でも、

 蓄えられた魔力を利用することで発動できるようになる。


 ただし、あくまで属性の不足を補うための魔具だ。

 魔法の規模を変化させたり、

 氷魔法のような複合属性の魔法を使えるようになるわけではない。


 魔力を蓄えるには、その属性を持つ者が魔力を込める必要がある。

 空気中に漂う魔力を吸収し、自然に蓄えることもできるが、

 その場合は蓄積するまでに何日もかかってしまう。



 この魔具をアリエスへ渡したのには、理由がある。

 アリエスが使用する付与魔法には、様々な属性の魔力を必要とするからだ。


 自身の持つ属性だけでは、使える魔法は限られてしまう。

 しかし、この魔具を利用することで、本来なら自分では扱えない属性の魔法であっても、発動させることができる。


 先ほどの軌道を逸らした魔法は、この魔具に蓄えられていた魔力を利用することで発動することができた。


「これがあれば、使える魔法の幅がずっと広がるわ」


 そう言って、再び戦場へと視線を向ける。


 この魔具に蓄えることのできる魔力には限界がある。

 そして、使い切った魔力を、魔力ポーションなどで補充することはできない。


 それでも、戦闘中に属性の違う魔法を使えるという利点は大きい。


 この魔具があるからこそ、アリエスは様々な付与魔法を最大限行使することができるのだった。


*


 アルトヴェルが放った無数の閃光。

 それは、切り札となるべき魔法だった。


 本来なら、パーティが壊滅していてもおかしくはない。

 それほどの魔法だった。


 それを、いとも容易く退けられた。


 普通なら、動揺してもおかしくない。

 だが、アルトヴェルは違った。


 魔法を防がれた直後には、すでに次の行動へと移っていた。


「まさか、この魔法を防がれるとは思わなかったぞ」


 その声が聞こえたとき。

 アルトヴェルはすでにラットたちの頭上へと移動していた。


 背中から伸びた白い翼を大きく広げ、空中からこちらを見下ろしている。


「だが、私たちは負けない」


 そう言うと、アルトヴェルは剣を掲げた。


 握り締めた剣へ、魔力が流れ込んでいく。

 刀身を包むように風が集まり、次第にその勢いを増していった。


「上だっ!」


 ラットが叫ぶ。


<切り刻め__エアカッター>


 発生した風の刃が、剣へと集約されていく。


 ギュルルルルッ____


 鋭く渦巻く風が刀身を覆い、耳を裂くような音を響かせる。

 剣そのものが巨大な風の刃へと変わったかのようだった。


「……これは」


 アルフェンの表情が変わった。


 この技には、見覚えがある。

 剣に魔法をまとわせ、その斬撃へと魔法の力を乗せる高等技術。


 ヒーロが〝風刃〟と呼んでいた技だ。


 そして。

 その技を使うヒーロに、アルフェンは敗れたことがある。


「くるよっ!」


 アルトヴェルが、剣を振り抜く。

 風の刃が、斬撃とともに飛来した。


 ただでさえ、この技は距離をものともせず攻撃を届かせることができる。

 しかも、それを扱っているのは騎士団長アルトヴェルだ。


 洗練された剣技に、魔法まで組み合わされることでより強力なものとなっていた。。


 アルフェンは、次々と飛来する風の刃を躱していく。


 アルトヴェルは空中を移動しながら、攻撃を続けた。

 その風の刃は、アリエスたちにも降り注ぐ。


<守れ__アクアバリア>


 アリエスが魔法を発動すると。

 ラットたちは、ドーム上の水の防壁に覆われた。


 だが。


「ダメだっ!」


 ラットがアリエスを掴み、横へ跳ぶ。

 風刃は、水の防壁を吹き飛ばし、アリエスがいた場所を切り裂いた。


「なによ……。これ……」


「アリエス。この技は、同規模の魔法じゃ防ぐことはできないよ」


 風刃は魔法を圧縮し、剣技を合わせることで、威力が底上げされている。

 対して、防御魔法は同規模の攻撃魔法を防ぐことを目的としてつくられている。


 だからこそ、防御魔法では技を防ぐことはできなかった。


「……無事でよかった」


 アルフェンは、二人が無事なのを確認して安堵していた。

 そして、再びアルトヴェルを見据える。


「確かに、すごい攻撃です。ですが、勇者ほどではないですね」


 勇者はこの技を、無詠唱で行なっていた。

 その上、風詠や返し技を組み合わせることで、アルフェンを確実に捉えてきた。


 それに比べ、アルトヴェルは数発放つごとに、詠唱を必要としている以上、多少なりとも手数が減っている。


 攻撃も単発だ。


「これくらいなら、充分に捌き切れます」


 アルフェンには、その技を防御する手段がない。

 しかし、ナイフや短剣を扱うアルフェンは、もともと防御をほとんどしていなかった。


 回避することを主としていたからこそ、その優位性は半減していた。


 風刃の軌道を見切り、身体を滑らせるようにして避ける。


「問題は……」


 それを確かめるように、アルフェンは一本のナイフを取り出した。

 柄には、魔力で作られた細い紐が繋がっている。


 アルフェンは、ナイフをアルトヴェルへ向けて投げた。

 ナイフが宙を走る。


 だが。

 届かない。


 アルトヴェルの手前で大きく失速する。

 地上からでは、こちらの攻撃を届かせることができないのだ。


 かといって、不用意に近づいてしまえば、魔法で迎撃されるだろう。

 アルフェンは、苦々しく空を見上げた。


 先ほど、シルロスとの戦いで懸念していたこと。

 その問題が、今まさに現実となっていた。


 空中で戦える者が、こちらにはミルしかいない。

 しかし、ミルは別の騎士と戦っている。


 こちらへ加勢する余裕はない。


 シルロスとの戦いでは、地上での戦闘だったからこそ、アルフェンたちも対処することができた。


 アルトヴェルは、その戦いを見ていた。

 だからこそ、自ら降りてくることはないだろう。


 地上へ降りれば、自分も同じように反撃を受ける可能性がある。

 それを理解しているからだ。


「言っておくが、油断などしていないぞ」


 アルトヴェルは、空中から一方的に攻撃を仕掛け続けていた。


 上空を飛びながら、アルトヴェルが剣を振るう。

 風の刃が地上へと放たれる。


 アルフェンが身を翻す。

 そのすぐ脇を、風の刃が通り抜けていった。


「我々にも、騎士としての誇りがある」


 アルトヴェルは、再び剣へと風を纏わせる。

 次はアリエスへ向かって放たれた。


「勇者や魔王に敗れるというのなら、まだ分かる」


 アリエスは、それを辛うじて躱した。

 しかし、その表情は芳しくない。


「だが、我々は各国の騎士団と競い合う立場にある」


 ラットは、体力ポーションを使用した。

 だが、これは一時凌ぎでしかない。


「そして、我々こそが、この国を守る要だ」


 アルトヴェルの剣に風が集まる。

 風の刃は次々と放たれていた。


「たった四人の族に、敗れるわけにはいかないのだ!」


 アルトヴェルの声が、大聖堂に響く。

 その言葉には、強い怒りが滲んでいた。


 これまで、ラットたちは数多くの騎士を倒してきた。


 もちろん、人数差に油断していた者もいただろう。

 だが、その大半は違ったはずだ。


 突然、戦場を砂漠へと変えられた。

 足場を奪われ、連携を崩され、思うように騎士たちは戦えなかった。


 それでも。

 これほどの人数を失ったことに変わりはない。


 騎士団にとって、すでに大きな汚点だった。


「これ以上は、許されない」


 翼が大きく羽ばたいた。

 アルトヴェルの身体が、さらに高く舞い上がる。


「どんな手を使ってでも、貴様らを倒させてもらう!」


 そして、そこから再び剣が振り下ろされた。

 風の刃が、雨のように降り注ぐ。


「くっ……!」


 ラットは、とっさに身を伏せた。

 頭上を風刃が通り過ぎていく。


 アルフェンも、アリエスも、必死に攻撃を躱している。


 だが、アルフェンはともかく、アリエスはそう長く持ちそうにない。


 必死に平静を保っているものの、手は震え、動きも明らかに鈍くなっていた。

 このままでは、いつ攻撃が直撃してもおかしくない。


 ここにきて、戦いにおける経験の差が出始めていた。

 アリエスは、実戦に慣れていない。


 最初のうちは、想定以上に戦いを優位に進められていた。

 その興奮が、戦いへの恐怖を押し込めていたのだろう。


 だが、戦闘が佳境に入った今。

 アリエスは、自分たちが置かれている状況を強く意識し始めていた。


 自分たちがしているのは、殺し合いだ。

 もともとそれはアリエスも覚悟していたであろうが、やはり現実は違う。


 しかも、相手は騎士団長。

 本来なら、一般人であるアリエスは守ってもらう立場の相手だ。


 そんな相手と、命を懸けて戦っている。


 その恐怖は、決して小さなものではないはずだ。

 このままでは、まずい。


 もしアリエスが倒れれば、先ほどの魔法に対処できなくなる。


 相手が空中にいる以上。

 詠唱を止めることさえできない。


 追い詰められているのは確実だ。


 ラットには、この状況を変える一手が求められていた____。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。




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― 新着の感想 ―
読了しました!! アルトヴェルの魔法をアリエスが止めたというのに、まだ底があるのか!? いくら騎士団長とも言えど、強すぎませんか!? そして風刃……アルフェンでも厳しいよなぁ……ラット、どうにか出来…
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