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第15話 仕組まれた国家転覆

 三日後の昼__。


 せっかく会うなら、魔王軍の暗躍の可能性を国王にも共有しておこうか。

 当事者のラットの方が詳しく話せるだろうし、一緒に行こう。


 そういったヒーロの誘いに乗り、ついていく形で登城する。

 ミルには町に残ってもらい、二人で王城の謁見の間へと向かった。


 国王からの呼び出しの理由を、ヒーロは〝きっとまた面倒な頼み事だよ〟と苦笑し、ラットも同調していた。


 そう、だから、ヒーロもラットも思わなかった。


 謁見の間へと到着してまもなく__




『勇者、ヒーロ・ドラグニル! 国家転覆を企てた罪で、捕縛する!!!!!』




 国王の怒号と共に、ありもしない罪を突きつけられるなんて。



「陛下、一体何のことでしょうか?」


 頭の切り替えは、ヒーロの方が早かった。張り詰めた空気に怯まず、踏み込む。


「この期に及んで、とぼける気か?」


 だが、国王は玉座からヒーロを冷たく見下ろす。


「ある者から、勇者が国家転覆を企てているという密告があった」



 加護の力である転移門を利用して各国を飛び回りながら、

 他種族の仲間を集め、王都を滅ぼして、自分が国王になるつもりだろう。


 その証拠に、日中は街から姿を消し、夜は自分の店で諜報活動。

 実際に転移門で移動するところや、店で情報を探っている様子を何度も確認できている。

 勇者パーティの他のメンバーにも協力を持ちかけていることも、すべて知っているぞ。



「これでもまだ、シラを切るのか?」

「国家転覆など、そのようなことは断じて企てておりません」


 ヒーロは視線を逸らさず、言い返す。


「確かに、転移門で各地を周り、店で情報収集もしています。……しかし、それは元の世界__ 勇界ヴァリオンへと帰るためです」


「つまり、密告が間違っていると?」

「女神様に誓って」

「……では、君の仲間に確認すれば、無実は判明するかね?」

「もちろんです」


 頷くヒーロ。


「そうか。__では入ってきたまえ」


 謁見の間の重厚な扉が、待っていたかのように開く。


「……ロック!?」


 入ってきたのは、勇者パーティの一人、〝ロック・スネイク〟だった。

 茶色のスーツに長い赤髪をなびかせながら、仲間の青年は歩みをしなやかに進めてくる。


(何故ここに?)


 そう思ったが、ちょうどいい。彼なら、ヒーロの無実を確実に証言してくれるはずだ。


「密告に嘘はありません」


 耳を疑った。理解できなかった。

 あまりにも予想とは違いすぎたんだ。



 ヒーロが国家転覆を企てているのは事実です。

 私も協力しないかと誘われましたが、お断りしました。

 口外すれば命はないとも脅され、その場では従うふりをしましたが……。

 それでも、多少なりとも世話になったこの風の国を裏切ることはできません。

 そのため、無礼を承知で進言させていただきました。



 いつも通りだ。

 赤い瞳。女好きのする甘い相貌と声。黒いシャツの襟元に咲く、彼らしい気障な薔薇のブローチも、いつも通りだ。


「それに、道を逸れてしまったのなら、正しい道に戻すのが仲間ですから……」


 その唇だけが、裏切る。

 考えすらしなかったその言葉に、ヒーロは目を見開いたままでいる。


 だから、ラットが前に出た。


「僕も勇者パーティの一人ですが、そんな話は聞かされていません」


 もちろん、ロックもヒーロの事情は知っている。苦楽を共に味わってきた仲間を裏切るようなことを、彼はしないはずだ。こんなあからさまな嘘を吐くのは、何か、止むに止まれぬ事情があるのかもしれない。


 だが、今はあらぬ罪を被せられようとしているヒーロへの誤解を解かなくては。


「ヒーロ・ドラグニルは、勇者は、常に人々の笑顔を願う、誰よりも優しいひとです。国家転覆などという、人々の幸せを壊す事態を望むはずがありません」


 ……ぽん、と肩を叩かれる。

 振り向くと、ヒーロが進み出ている。


「ここに〝マナベル〟があります。他のメンバーにも確認させてください。ロックの証言が誤りだとわかるはずです」



 __マナベル

 通信用の魔具。

 遠方にいる者と、同様の魔具を通し、会話をすることができる。

 最新の技術で造られているため、持っている者は王や勇者など限られた者のみだ。

 ギルドなど、遠方との連携が必要となる組織も持っていたりする。



 真剣な瞳で、ヒーロは国王に挑む。

 ラットも同じ考えだ。ロックとラット、意見は一対一。国王はまだどちらの意見が正しいか、判断しかねるはずだ。


「……よかろう。連絡してみるがいい」


 許可を得て、ヒーロが通信の魔具__マナベルに魔力を送る。


 ザザッザ__________


 応答する。砂嵐が、無情に響く。


「反逆者に応える者は誰もいない、ということだな」

「ちが、」

「口を慎め、運搬兵!」


 国王の罵声がラットの反論を塞ぐ。


「お前の証言など当てにならん。子供や弱小種族がやる荷物持ちを、国家転覆の仲間に入れる訳がないだろう」


 誘われていないのは当然だと、国王は言う。


「おこぼれで金やS級の称号をもらって調子に乗ったか? 口答えするなんて、いいご身分だな」


 国王に倣うように、周囲に控える側近たちもせせら笑う。


「そもそも、私たちは反対だったんです」

「魔王討伐時は勇者を立て、賞金を出し、S級の称号も与えましたが、財源とて無尽蔵ではないですからな」


 大臣がいう。


 つまりは、王都側はラットのことなど、パーティの一人として認めていなかった。名目上は勇者パーティの一人とされているから、ヒーロたちと同様に賞金を出し、冒険者として最高の称号である〝S級〟を与えたが、実際は承服していなかったということだ。


「国民の血税ですよ、血税」

「勇者の一言で何の成果も上げていない者にまでポンポン報酬を出していては、国は成り立たんのです」


 重なる嘲笑を遮ったのは、ヒーロの背中だった。


「聞き捨てなりません!! 陛下、ラットは命がけで……!」


 頼もしいそれを、しかしラットは手のひらで止めた。

 振り向いた不服そうな顔へ囁く。


「もう、何を言っても無駄だよ。__全部、仕組まれてる」


 ここまで来れば、さすがにわかる。


「ここは一旦逃げて、何が起こってるのかを調べるべきだ」

「だけど……!」


「いいよ、僕のことは。言わせておけばいい。油断してくれてた方が、やりやすいしね」


 状況が状況だ。時間はかけられない。渋々納得したヒーロは、国王に向き直った。


「……陛下の言い分はわかりました」

「やっと罪を認めたか」


 ヒーロは首を横に振った。そして……


「話すことなどありません。私たちはこれで失礼します!」


 ヒーロが横に手を掲げ、転移門を開こうとする。


 が……


 バチッ__


 こめた魔力が弾ける。


「……!?」


 常なら展開されるはずの門が、現れない__。


 それを見た二人は目を見開いた。

 しかし、すぐさま切り替える。


「ラット!」

「うん」


 二人同時に走り出す。開かない理由は後回しだ。転移できないなら、扉を使って物理的に逃げるまで。


「逃がすな! 反逆者をひっ捕らえよ!」


 国王がすかさず命令する。

 立ち塞がる騎士たちをヒーロが聖剣で蹴散らす。見出した活路を抜け、扉を体当たりで開ける。


 国王の叫びが後を追ってくる。


「追え! 絶対に逃がすなーー!!」



 絶叫と、騎士たちの荒々しい足音から二人は逃走した____。





 国王の隣。

 辺りが騒がしい中、ロックは静かに立ち尽くす。


「まさかラットが合流してるとはね……」


 逃げる二人と、追いかける騎士たちを見送った後、国王へと進言する。


「……王様。騎士たちじゃ、おそらく逃げ切られてしまうでしょうね」


 落ち着き払った声音で、ロックは淡々と続ける。


「二人を指名手配して、国内に閉じ込めた上で、精神的に追い詰めていくのが得策かな~」

「無礼だぞ。陛下への口の利き方に気をつけろ」


 大臣が鋭く声を飛ばす。

 しかし、ロックは表情一つ変えなかった。


「勘違いしないでほしいな」


 冷えた視線が大臣へ向けられる。


「俺はおまえたちに忠誠を誓った覚えなんてないんだよ。騎士たちの手前、最低限取り繕っていただけだ」


 場の空気が張り詰める。


「本来、俺が膝を折る理由なんてないんだよ」

「貴様……っ!」


 国王が大臣に掌を掲げ、それを止める。


「これだけの包囲網を突破されるというのか?」


 怒気を滲ませる大臣を無視し、ロックは国王へと視線を戻した。


「勇者だけなら問題なかった。俺もいたからな」


 そこでロックは僅かに目を細める。


「ラット・クリアノート……。あいつが合流していたのが想定外だった」

「運搬兵が一人増えた程度で、何も変わらんだろ」

「あいつは侮れないよ」


 ロックは即座に否定した。


「油断すれば、必ず足元を掬われる」


 国王はしばらく考え込むように黙り込む。


「……わかった。本当に逃げ切られるようなことがあれば、指名手配にしよう。ただし、勇者だけだ」

「はぁ~」


 ロックが深くため息をついた。


「荷物持ちごときに懸賞金をかけられるか。そんな者より勇者だ。お前も追え!」


 大臣が口を挟む。そして、取り付く島もなく言い放つ。


「……王様、後悔するぞ」


 声だけを残し、その姿が揺らぐ。

 次の瞬間には、ロックは影の中へ溶けるように消えていた。



「所詮は〝魔人族〟……いや、今は〝魔族〟と呼ぶ方が主流でしたかな。品性の欠片もない野蛮な種族だ」

「まったく信用に足らん連中だな」


 誰も、ロックの言葉を本気にはしていなかった。

 勇者一人が逃げたところで、どうにでもなる。

 そう思っていた。




 後に彼らは思い知ることになる。


 軽視していたその存在こそが、最悪の誤算だったことを____ 。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ヒーロだ!


何かあるとは思ってたけど、

まさか、あらぬ罪を着せられるとは思ってなかったよね。


そうだね。

まあ、大臣には相当嫌われてたから。


大臣が決めたメンバーに従わず、自分で仲間を集めちゃったしね。


しかも、その仲間がよりにもよって、風の国以外の出身ばかり。

他種族だらけで、何なら魔族までいたし。


前代未聞だって、すごく怒ってたよね。


あれ、結果を出せなかったら……たぶん処刑されてたと思うよ。きっと。


でも、そのおかげで魔王を倒せた。

しかも、犠牲も最小限で済んだからね。


結果を出されて、大臣も黙るしかなくなっちゃったんだよね。


ぐぬぬってなってる人、初めて見たよ。


次回は、城から逃げます。


よろしくっ!

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