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第107話 届いた一太刀

 リオンはシールの渾身の一撃を受け流し、そのまま懐へと入り込んだ。

 反撃の一撃を放つ寸前。


 シールは振り抜いた盾の軌道を、その体幹と筋力で捻じ曲げた。


 迫り来る大盾。

 勢いを増していく。


「マジかよ!? あの状態から軌道を変えるのか?」


 力と防御に特化した流派。

 その鈍重さこそが弱点だと思っていた。


 そして、何かしらの対策がされているとも考えていた。

 でなければ、カウンターに対してあまりにも無力だからだ。


 先程、反撃へ転じようとした瞬間のシールの反応。

 何をしようとしたのか気にはなっていた。


 まさかカウンター殺しの技だとは……。


 鈍重な攻撃を餌にして。

 反撃を誘い。

 隠された一撃で仕留める。


 長い歴史の中で磨かれてきた技。

 流派の重みを感じた。


「くそっ! 逃げ道がない……」


 巨体であるシールを覆い隠すほどに縦に長い大盾。


 本来、縦に構えられるそれは、攻撃のために横へ倒され、逃げ道を塞いでいた。


 このまま回転を横に繋げれば、回避することはできるかもしれない。


 だが、それをすればカウンターは成立しない。

 せっかく掴んだ好機が消える。


「どうする? また振り出しに戻るのか?」


 一瞬のうちに思考が巡る。


 このままでは吹き飛ばされる。


 そう思った瞬間。

 リオンの脳裏に、ある記憶が蘇った。


 魔導大図書館で読んだ本の内容だった。



『魔力が少ない者の魔力の活用方法』



 もし君が魔力に恵まれなかったのなら。


 まず理解しなければならない。


 戦場は平等ではないということを。



 魔力を持つ者と持たぬ者。


 その差は大きい。



 魔力があれば取れる手段も増える。


 身体能力の強化。


 魔法。


 魔具ルーリックの運用。


 戦いの選択肢、そのものが変わってくる。



 だからといって、諦める必要はない。


 どれほど魔力が少なくとも。


 正常な生物である限り、魔力は存在する。


 生命を維持するために必要だからだ。



 ならば、その僅かな力を決して無駄にするな。


 必要な時だけ使え。


 必要な部位だけに使え。


 必要な量だけ使え。


 ほんの一瞬。


 それだけなら消費は微妙で済む。



 だが覚えておいてほしい。


 僅かな魔力も積み重なれば消耗する。


 乱用は死を招く。


 使うのは本当に必要な時だけだ。


 その一瞬のために。


 繋げろ。



 足りないのなら知恵で補え。


 足りないのなら工夫で補え。


 足りないのなら準備で補え。



 鍛錬だけではない。


 策を巡らせろ。


 相手を観察しろ。


 地形を利用しろ。


 隙を作れ。


 騙せ。


 そして、その一瞬を掴みとれ。



 おそらくこの戦い方はあなたの命を危険に晒すだろう。


 紙一重の戦闘になるだろう。


 魔力に恵まれた者たちのように、力でねじ伏せることはできない。



 だからこそ。


 知恵を巡らせ。


 機を窺い。


 勝負の一瞬へ全てを懸けることになる。



 だが、それを乗り越えた暁には。


 きっとあなたの力になるはずだ。


 恵まれなかった者たちへ。


 健闘を祈る____。



 そう書かれていた。



 リオンは吹き飛びそうになる軸足へ意識を集中させた。


 魔力を流す。

 本当に僅かだけ__。


 次の瞬間。


「っ……!」


 足へ力が入った。


 地面を掴む感覚が変わる。

 吹き飛ばされそうになる身体を、無理やり踏み止めた。


 ぐぐッ____


 地面を削りながら耐える。


 だが、止まらない。


 大盾は尚もリオンを押し込んでいく。



 極限まで研ぎ澄まされた意識。


 その中で、手に伝わる感覚だけが鮮明だった。



 流れを繋ぎ、力と勢いを乗せ続けた剣。


 脇腹を狙うため、大きく下方へ迂回させていたその軌道。


 遠心力が剣を引く。



 リオンは直感した。


 この力に身を委ねる。


 剣に引かれ。


 大盾の下へと身体をねじ込んだ。



 ここまでの低い姿勢。


 本来なら膝を突き、崩れてしまうだろう。


 流した魔力が、それを許さない。


 踏みとどまる。



 大盾を抜けた先。


 シールの懐。


 リオンは剣を振り抜いた。



 ギィンッ____



 激しい金属音。



 シールの鎧へ、深い斬撃痕が刻まれた____。



 激しい金属音が鳴り響いた。


 はぁ……はぁ……。

 リオンの荒い息遣いだけが場に残る。


 その場の空気が止まった。


 誰もが言葉を失っていた。


 シールの鎧には、確かに深い斬撃痕が刻まれていたからだ。


 あの勇者パーティの盾。


 鉄壁と謳われた男。


 その鎧に……だ。



 静寂を破ったのはシールだった。



「見事っ!!!」



 ガハハと豪快に笑う。



「二人とも合格じゃ!」



 シールが宣言した。



「しゃーーーーー!!!!!」



 リオンが叫んだ。



「まさか、二人とも一対一でワシに一撃入れてくるとは思わなんだ」



 ミルは盾を吹き飛ばした。


 リオンは鉄壁を掻い潜り、一撃を入れて見せた。


 方法こそ違う。


 だが、どちらもシールの予想を超えていた。


「しかもじゃ」


 シールは鎧の傷跡を指でなぞる。


魔具リーサルガードがなければ、今のは完全に斬られておったぞ」


 その言葉に護衛としてついてきていた兵士たちがざわついた。


 リオン自身も驚いていた。

 本当に届いたのだ。


 勇者パーティの一角へ。

 自分の剣が。


「二人ともすごかったよ!!」


 ラットが笑う。


「むふぅぅぅ____」


 ミルがかつてないほどに、誇らしげだ。


「二人をよくここまで導いたな」


 シールはラットに語り掛ける。


 ラットがいなければ、この結果はなかった。


「いえ、僕はなにも。二人が自分で考え、乗り越えたんですよ」


 ラットは否定するが。


「何言ってんだよ。みんながいたからだろ!!」


 今までの旅がここまで二人を強くした。


 ラット自身の役割も大きかったはずだ。


 その場にいた全員が、この結果に湧き上がった____。



「話は終わったか?」


 そこへ低い声が響いた。


 振り返ると、一人のドワーフが腕を組んで立っていた。


 入り口で出会った職人だ。

 いつの間にか戦いを見届けていたらしい。


 ドワーフはシールを見てニヤリと笑う。


「ちょうどいい」


 長い療養で弱った今のシールの状態。


「武器を調整しようかの」


 それを見た上で言った。


「鎧もじゃな」


 傷跡の残る鎧へ視線を移す。


「今のお前さんに合わせて、なおしてしてやるわい」


 その言葉に、シールは深く頷いた。



 武器も鎧も、まだ手を入れる余地がある。



 再び戦場へ立つ準備は、着実に進んでいた____。



※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ミル……


とうとうリオンが一撃入れたね。


……すごい。


そうだね。

実際、シールに一撃を入れた人なんて、今まで十人もいないと思うよ。


……!?


そう。

だから、ミルもすごいんだよ。


……ふふん。


リオンも、人間族ヒューマで技術だけで一撃を入れたのは初めてなんじゃないかな。

怪我をさせた人も、それは王幹ありきだったみたいだし。


……ん。


今まで積み重ねてきた成果が実ったんだね。


……わたしも手伝った。


二人は、いい練習相手だよね。


……ん。


それに、同じ前衛職だし。

ライバルみたいな感じなのかな?


……リオンにも譲らない。


ははは。

やっぱり対抗心あるんだ。


……ん。


でも、あれだけ張り合っているのに。


……?


道中の魔物討伐だと、二人とも息ぴったりなんだよね。


……どう動こうとしてるかわかる。


ああ、なるほど。

一緒に練習してるからなんとなくわかるんだね。


……ん。


次回は、地の国の鍛冶事情。


……よろしく。


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