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第106話 交わる剣理

 シールから撃ち込まれる猛攻。


 その一方で、リオンはずっと見計らっていた。

 カウンターを差し込むタイミングを。


 先程の地を割るほどの一撃。

 あれほどの威力を放ちながら、シールの体勢はほとんど崩れなかった。


 重心が安定しすぎている。

 どの姿勢からでも、すぐ次の攻撃や防御へ移れるよう身体が完成されていた。


 シールは隙が少ない。


 それは単純な体勢だけの話ではない。

 攻撃しながらも、常に反撃を警戒している。


「まさか、あの状態で反応するとは思わなかったぜ……」


 シールが地面を割った直後。

 体勢こそ崩れなかった。


 だが、あれだけの攻撃を放った直後なら、大抵の者はその威力を警戒し距離をとる。

 すぐに反撃してくることはない。


 シールは経験則からそう考えるだろう。


 だからこそリオンは、シールにもほんの僅かな気の緩みが生まれると思っていた。

 そして、それが隙になると考えた。


 しかし、リオンが攻撃の姿勢を見せた瞬間。


 シールの身体はすでに迎撃へと動いていた。

 おそらくあのまま踏み込んでいれば、手痛い反撃を受けていただろう。


(これが……石城岩峰ストーンクレスト流か)


 リオンは内心で息を呑む。


 地へ根を張るような安定感。

 あらゆる衝撃へ対応する体幹。

 攻防を切り替える速さ。


 さすがは地の国の将軍だ。

 その流派を完全に体得してる。


(ただの一撃じゃ、駄目だろうな……)


 リオンは感じ取っていた。

 仮にカウンターを当てても、中途半端な威力では意味がないことを。


 シールの鎧は硬い。

 しかも、多量の魔力で覆われている。


 それに対して、リオンの武器には魔力が纏われていない。


 魔力を纏った防具とそうでない武器。

 その差がどれほど大きいか。


 ブルンネンで、リオンはその差を痛感していた。

 生半可な一撃では弾かれる。


 もし倒し切れなかった場合。

 今度は渾身の一撃を弾かれたこちらに隙が生まれるだろう。


 その一瞬をシールが見逃すはずがない。

 弾かれ、動きが止まったところに、次の重撃が容赦なく振り下ろされる。


 カウンターのため、接近した状態であれを躱すのは困難。

 その上、相手の腕力は遥か上だ。


 掴まれてしまえば、逃げることはできない。

 最悪、そのまま叩き潰される。


「一撃……か」


 リオンは小さく呟いた。


 自分がやるべきことをもう一度整理する。


 必要なのは。

 確実に通す、一撃。


「なら……」


 思考を巡らせる。


 今の自分にできること。


 使える技術。

 数々の経験。


「あれを試してみるか」


 リオンは、一つの答えへ辿り着いた____。



 それからも攻防は続いていた。


 あるとき、攻撃の直後にシールが構えたことで、一帯の空気が変わったような気がした。


(今までと違う……?)


 リオンは思わず息を呑む。


 次の瞬間、シールは盾を振り上げ地面へと突き刺した。


 ドオォン____


 地面が爆ぜる。


 足場が崩れ、リオンの態勢が揺らぐ。


 そこへシールが踏み込んだ。


(決めにきた!?)


 踏み込みだけで土が抉れ、砕けた石が跳ね飛んだ。

 そして、巨大な盾が唸りを上げる。


 押しのける風の音。

 まるで岩盤そのもののような重撃。


 足場が崩れ、回避することもできない。

 受ければ終わる。


 そう言わんばかりの圧力だった。


「ここでやるしかない!!」


 迎え撃つ。


 リオンもまた前へと踏み込んだ。

 しかし、迫る巨大な盾の軌道とは違う。


 盾が押し退ける空気のように、斜めへと身体を滑らせた。

 盾との接点をずらし、その軌道へ剣を差し込む。


 絡め取るように力を流し、反撃へと転じた。

 剣が唸る。


<__鏡>


 ヒーロが使っていた返し技。

 受け流した力をそのまま返す、ヒーロの得意技だ。


 シールは即座に察する。


「ヒーロの技か!」


 だが、シールもまた理解していた。


 ここまでの攻防で見抜いている。

 リオンの武器には魔力が込められていない。


「そんな剣では……」


 シールが笑みを浮かべる。


「鎧に傷すらつかんぞ!!」


 まるでどう切り抜けるのかを問うように、シールは叫んだ。



 水の国での戦闘後。


 リオンは水の国の護衛隊シルヴァン・ガードの隊長、ベルゼルへと尋ねていた。


「ベルゼルさん。水流螺旋アクアスパイラル流について教えてくれよ」


 ベルゼルは少し驚いた顔をした。


 そして、リオンが自分たちの流派に興味を持ったのが嬉しかったのか、笑みを浮かべた。


「構わないが……なぜだ?」


「俺って魔力がほとんどないだろ?」


「だから相手に魔力を使われると、どうしても力負けするんだよ」


 魔力を纏った一撃。

 あの重さは今でも覚えている。


 幼少期、超えることができなかった壁だ。


「でも、あんたたち妖精族フェアリは魔力があるとはいえ、力が強いわけじゃないだろ?」


「そうだな」


「だから参考になるんじゃないかと思ってさ」


「なるほど……」


 ベルゼルは納得したように頷いた。


「だが、できるか?」


「ん?」


「水流螺旋流は魔力で剣を扱う流派だぞ」


 水流螺旋流は本来、剣を握らず操ることを前提としている。

 代わりに魔力で剣を扱うのがこの流派だ。


 長い歴史の中でも、手に持ってそれを再現した例など、ベルゼルでさえ聞いたことがない。


「あくまで参考にだよ」


 リオンは感じていた。

 水流螺旋流のあり方が、勇者の剣術に近い気がすると。


 その剣術への理解を深める上で、水流螺旋流を知りたいということだった。


「いいだろう」


 ベルゼルは木剣を手に取った。


「私たちは身体が小さい」


 軽く剣先を揺らす。


「力だけなら各種族の中でも最弱だろう」


 木剣の軌道が円を描く。


「だからこそ、力任せに剣を振ったりしない」


 身体の周囲を旋回させ。


「わざわざ苦手な分野で勝負する必要はないからな」


 クルクルとその場で回転させた。


「水の流れを意識するんだ」


 流れを止めず、勢いを乗せ続ける。


 曲線を描き。


 回転させ。


 力を乗せる。


 木剣の動きが徐々に速くなる。


「そして、その勢いを一撃へ乗せる」


 ヒュンッ____


 鋭い風切り音が鳴った。


 力強く振ったわけではない。

 それでも十分な威力を感じた。


 剣を止めずに動かし続けることで、威力を高めていく。

 戦闘時、エレをはじめとした護衛隊の全員が、武器を旋回させていた。


 今なら理由が分かる。

 あれは威嚇のような類ではない。


 この流派でいうところの〝構え〟だったのだ。


「ただし、弱点はある」


 圧倒的な力。

 爆発的な速度。


「作り出す流れを踏み潰してくる相手だ」


 多少速い程度なら避ければいい。


 だが、ミルほどの避けきれない速度。

 そして、力があれば受けざるを得なくなる。

 防御を強制されるわけだ。


 そうなってしまえば、


 流れは止まる。

 回転が途切れる。

 積み重ねた勢いが消える。


 悪循環に陥ってしまう____。


「そういう場合、本来なら魔法と連携して対応する」


 魔法で動きを制限し、間合いを制圧する。


 流れを作る時間を稼ぐ。


 それが水の国の基本戦術だ。


「だが今回は違った」


 ベルゼルは苦笑する。


「完全にしてやられたよ」


 苦手なミルの戦い方だけではない。


 極めつきはラットだ。


 見慣れない数々のアイテムによって翻弄される護衛隊。

 戦場そのものを組み立てるような戦い方。


「あれは予想できなかった」


 ベルゼルはため息を吐く。


「おかげで怪我が治ったら一から訓練のやり直しだ」


 そう言いながら苦笑した。


「その代わり、受け流しや返し技との相性は抜群だ」


 一瞬表情が消えたかと思った。

 だが、ベルゼルはすぐに笑みを浮かべる。


「相手の勢いを自身の流れへと巻き込めるからな」


 相手が強く押し込んでくるほど、その力を利用できる。


 自身の力を重ねて。


「相手の流れを切るように剣を打ち込むんだ」


「流れを切る?」


 リオンが首を傾げる。


 ベルゼルはもう一本、木剣を取り出した。

 それを縦に高速回転させる。


「この木剣を攻撃する相手だと思え」


 それに対して、木剣を打ち込みながら説明をはじめた。


「例えば、この高速で回転する木剣を突くとする。回転が激しい表面に行うと、その衝撃を横へと逃がされてしまう」


 実際にベルゼルが回転する木剣を突く。

 その突きはいとも簡単に横へと逸らされ、空を仰いだ。


「だが、この回転は木剣全体に掛かっているわけではない」


 木剣を反転させると、回転の軸になっている場所がある。


「狙うべきはここだ。ここを捉えさえすれば、衝撃が逸らされることはない」


 ベルゼルがそれに対して突いた。

 突きの衝撃は逸れることなく伝わり、回転する木剣を大きく弾いた。


「そして、もう一つ」


 ベルゼルは再び木剣を回転させる。


 ベルゼルは高速回転する木剣に対して、突くのではなく斬った。


 ガキィッ____


 回転する木剣の横から垂直に、流れを分けるように刃を通した。


 木剣は二つに斬られ、大きく弾かれた。


「流れを分断するんだ。分岐する川のようにな」


 真っ直ぐ流れていた水も川に沿って左右へと別れていく。

 自然と方向を変えていくのだ。


「流れを切るってのは、そういうことだ」


 相手が受け流せない方向。

 力を逃がせない角度。


 そこへ流れを掌握することによって、勢いを乗せ、渾身の一撃を叩き込む。

 そうすることで、水流螺旋流のカウンターは完成する。


「なるほどなぁ……」


 リオンは感心したように呟いた。


「地の国の〝力こそ正義〟みたいな連中には結構刺さるぞ」


 ベルゼルは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


 くくくくく______


 和解して恨みがなくなったとはいえ、長い間歪みあってきた仲だ。


 対抗心はあるのだろう。

 ベルゼルの不敵な笑いは怪しく響いていた。



 リオンには剣を旋回させる魔力はない。

 水の国の剣技をそのまま使うことはできなかった。


 起点となるのは、勇者の技だ。


 勇者の技である〝鏡〟は、相手の攻撃を受け流して隙をつくり、自分の攻撃を打ち込む技となる。


 リオンはこの〝鏡〟により、シールの攻撃を受け流した。

 しかし、それだけではない。


 受け流した強大な力を、今度は自分の流れへと巻き込んでいった。


 身体を回転させる__。


 力を乗せる__。


 そして、流れを加速させていく。


 リオンは二つの技術を組み合わせた。



 そして。


 剣の軌道を徐々に変えていった。


 相手の流れを断ち切る角度へ。


 衝撃を逃がせない一撃で。


 シールの死角を穿つために____。



 伸びきったシールの腕の影。


 微かにシールの脇腹が覗かせる。


「そこだ!!」


 剣を振り抜こうとしたその瞬間だった。



 盾が近づく。


 伸びきった腕は方向を変え、盾ごとリオンへ迫ってきた____。



※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


リオンだ!


いよいよシールとの腕試しも大詰めだね。


そうだな。

一撃、なんとしてでも入れたいぜ。


僕たちと旅を始めてから、ここまで積み上げてきたしね。


ああ。

最初はロックさんと戦って。

旅は甘くない。

生き残るためにも腕を磨かなきゃって思ってたんだ。


そうだったんだね。


でも、今はそれだけじゃない。

仲間として戦いたい気持ちがあるんだ。


……リオン。


なんだ?


きっと大丈夫だよ。

僕もミルも、リオンが一撃を入れるのを祈ってる。


ははっ。

それは心強いな。


それに、ここまで頑張ってきたのはリオン自身だよ。


だから、自信を持って。


おう。

やれるだけやってくるぜ。


次回は、いよいよ決着です!


よろしくな!


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