第105話 立ち塞がる石城岩峰
シールへの度重なる攻撃の末、リオンは一つの結論に至った。
攻めては無理だ____と。
防御に徹したシールを崩すには、今の自分では力不足。
そう判断したリオンは、逆にシールの攻めを誘うことにした。
「あんたは攻めてこないのか?」
リオンは剣を構え直し、シールへ問いかける。
「もし俺の役目が〝足止め〟だったら……目的を達成しちまうぜ?」
リオンは架空の戦場での状況を思い浮かべていた。
シールは自分より遥か格上だ。
もし自分一人でシールを引きつけられるのなら、大きな意味が発生する。
引きつけている間、他の仲間たちが動けるのだ。
前線の負担を減らすことができる。
戦場では、それだけでも十分戦果になるのだ。
シールとしては、足止めされたままとなるのは不都合となる。
だからこそ、突破するために自分から攻める必要が出てくる。
「いいだろう」
リオンの考えを察したシールは、ニヤリと笑った。
確かにその通りだ。
これを実際の戦場と考えるなら、十分あり得る状況だ。
そして、リオンは明らかに攻撃を誘っている。
自身からの攻撃では、突破は難しいと考えた上での行動だろう。
確実に狙いは、カウンターだ。
「いくぞ!!」
その瞬間、空気が変わった。
防御を主体とした構え自体は変わらない。
だが、纏う圧がまるで別物だった。
巨大な盾を前へ突き出し、腰を深く落としこむ。
先ほどまでの〝城塞〟のような重厚な雰囲気とは違う。
今そこにあるのは。
押し寄せる雪崩のような圧だった____。
「こいッ!!」
リオンが叫ぶ。
剣を握る手にも自然と力が入った。
ズンッズンッズンッズンッ____
シールが歩き出す。
一歩、また一歩。
ゆっくりと。
だが、そのたびに地面が震えた。
シールが近づいてくるのを、注視してしまう。
水の国の妖精族のような速度ではない。
だが、決して遅くはない。
いや。
恐ろしいのは速さではなかった。
その踏み込みだ。
一歩ごとに地面が砕ける。
その衝撃に目を奪われた。
「っ!?」
リオンの背筋へ寒気が走る。
重戦士。
しかも、並のそれではない。
一歩踏み出すたび、振動が身体へ伝わってくる。
まるで災害だった。
迫ってくるシールが、岩山のようにさえ思えてくる。
大柄な冒険者の倍はあろうかという拳。
そこへ握られた、重く長大な盾。
それを振りかぶる。
ゴオッ____
空気が悲鳴を上げた。
盾が空気を押し潰しながら迫ってくる。
硬さ__
重量__
圧力__
それら全てが一撃へ込められていた。
まともに受ければ終わる。
圧し潰される。
リオンは直感で理解した。
まともに受けてはダメだと____。
目前に迫る重量。
額から汗が伝う。
だが、視線は逸らさない。
見開かれた目で、それを確実に捉えていた。
斜めへ踏み込む。
剣を滑らせるように添えた。
流す。
ギィィィン____
響き渡る甲高い金属音。
盾の軌道がわずかに逸れ、そのまま地面へ叩き込まれた。
ズウゥゥン____
地面が爆ぜる。
石片が吹き飛ぶ。
暴風が横を通り抜け、リオンの髪を激しく揺らした。
「おいおい……なんだよ、この威力……」
リオンが顔を引きつらせる。
シールは盾使い(フォートレス)となる以前、大槌を得意としていた。
純粋な〝石城岩峰流〟の使い手である。
石城岩峰流は地の国に伝わる騎士流派だ。
重心を深く落とし、大地と一体化することで莫大な安定性を生み出す。
踏み込みによって地面から力を引き出し。
質量、膂力。
それら全てを一撃へ集約する。
まるで山そのものがぶつかってくるかのような重撃。
石城岩峰流を振るうための強靭な筋力は、生半可な攻撃を容易く弾き返す鎧となる。
攻防一体。
堅牢さと破壊力を極限まで高めた、地の国を象徴する戦闘流派である。
シールは盾使いとなった今もその根本の戦い方は変えていない。
攻撃時は盾を大槌と見立てることで、石城岩峰流の破壊力は今も健在であった。
「まともに受けたら死んじまうだろ……」
その威力を目の当たりにし、リオンは驚きを隠せなかった。
地面へ叩き込まれた盾。
その衝撃だけで周囲の地面が砕け、石片が跳ね飛ぶ。
もし受けていたらどうなっていたか。
考えるまでもない。
地面へ叩き伏せられ、全身の骨を粉砕されていただろう。
「ほう……」
驚いていたのはリオンだけではなかった。
先ほどのリオンの動き。
盾をいなした技術には見覚えがあったのだ。
受け止めるのではない。
もし受け止めようものなら、体勢ごと潰され、そのまま押し切られていただろう。
だが、リオンは違った。
剣を滑らせるように添え、その勢いを逸らした。
力に逆らわない。
流して、崩す。
それは、勇者ヒーロが得意としていた戦い方だ。
「面白い……」
動きもどこか似ている気がした。
「どれ……」
シールが盾を構え直す。
「もっと試してみるか」
次の瞬間、再び地面が揺れた。
ズンッ____
シールはさらに踏み込む。
今度は先ほどよりも深く。
より鋭く。
リオンの技を試すように____。
盾を振るう。
叩きつける。
薙ぎ払う。
轟音が響き、地面が抉れ、砕けた石片が弾け飛ぶ。
巻き上がった土煙は視界を覆う。
山岳が動き出したかのような暴威だった。
猛攻をリオンは捌いていく。
そのすべてを受け流し。
勢いを空へと逃がしていった。
(やはり……)
シールは確信した。
この戦い方。
この力の捌き方。
「おまえ、勇者の技を学んでいるな?」
ヒーロと重なる動きが、随所に見え隠れしていた。
独学で辿り着いたにしては、あまりにも似すぎてきたのだ。
「どこで覚えた?」
シールが問いかけた。
リオンは剣をシールへと向けながら、少し笑う。
「これか? 王都で勇者さんが戦うのを見たんだよ」
それはリオンへ強烈な衝撃を与えた。
リオンの元になっているのは騎士団の戦い方だ。
騎士団は盾で受け、返しの剣を叩き込む。
しかし、ヒーロの戦いはまるで別物だった。
リオンの常識を覆した。
盾を使用せず、攻撃をいなす。
流れるような剣技。
力ではなく技で捌く、洗練された戦い方だった。
「噂以上だったぜ!」
それを聞いて、シールは内心で笑った。
「見た……か。面白い坊主じゃ」
おそらく実戦の中で磨かれてきたのだろう。
型だけではない。
実際に戦い、生き残る中で洗練されていった動きだった。
「どれ。そろそろかの……」
シールの纏う空気が変わる。
見極めは終わりだと言わんばかりに、重圧がさらに増していった。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
シールじゃ!
今回はシールの流派について話に出てきたね。
そうじゃの。
シールが使う石城岩峰流って、どんな流派なの?
それなら、流派について話す前に土人族の特徴から話した方がよいの。
種族が関係あるんですね。
そうじゃ。
戦いにおいて、土人族の特徴は何だと思う?
やっぱり、魔力に頼らない純粋な力かな。
そうじゃ。
その一点に尽きる。
力で土人族に並ぶのは、魔族の中でもごく一部じゃな。
オーガ族とか?
うむ。
魔力よりも筋力に秀でた種族くらいじゃ。
それで、その筋力がどう関わってくるの?
石城岩峰流は、その筋力を最大限に活かす流派じゃ。
防ぐことが困難な一撃を叩き込む。
防ぐことが困難な一撃?
質量攻撃じゃ。
土人族は皆、重い武器を持っとるじゃろ?
大槌に戦槍、斧。
どれも重量級の武器だね。
そうじゃ。
それらと筋力を組み合わせ、防御ごと砕くのじゃ。
なるほど。
でも、そんな重い武器だと当てるのも難しそうだけど?
だから前段階がある。
武器の柄や拳を使って相手の体勢を崩すんじゃよ。
掴んでしまってもよい。
確かに、土人族に掴まれたら大変そうだね。
そこから本命の一撃を叩き込むのじゃ。
なるほど。
じゃあ防御は?
土人族は速さで勝負する種族ではない。
じゃから先手を取られることも多い。
だからこそ防御が重要になる。
武器で受けるの?
いや。
魔力を鎧のように纏うのじゃ。
筋力と魔力。
その二つを合わせれば、並の剣など弾いてしまえる。
なるほど。
攻撃も防御も、根本は筋力なんだね。
そういうことじゃ。
次回は、リオンが勝負にかけるよ。
よろしくじゃな!




