緊張のかけらもございません
「…で、どうするの?」
船に乗り込んでから早くも10分、まだ船は動く気配を見せなかった。
いや、動かなくて当たり前なのだ。
「しっかし、盲点だったよなぁ。まさか操縦できるやつがいないなんてさ」
「…いや、普通わかるでしょ?それくらい」
「おっ、優里香ちゃんは操縦できるのか!」
「は?………わかるってそういう意味じゃないわよ!」
蹴りを腹に食らった総司はその場に崩れ落ちた。
わー、優里香選手の大勝利〜…
って、そんなことをしている場合じゃなくて…
「誰も操縦できないんだね?」
「いや、俺できるぞ?」
今さっきまで床に崩れ落ちていたはずの総司がすかさず手を挙げる。
…ん?さっきこいつ操縦できるのやつがいないとか自分で言ってなかったか?
ま、まぁできるって言ってるしやらせてみるか。他に誰もいないし。
「なら…任せたぞ」
「おうよ!」
こうしてようやく船は出発することができた。
「でも驚きました。総司さんって操縦できたんですね」
「ん?あぁ、恵里香か。んー、まさか本物もできるとは思わなかったがな」
「へ?」
おい、今総司と恵里香の会話からおかしな言葉を聞いたぞ?
思わなかったってどういうことだ?
まさか、操縦できないんじゃ…でも今しっかり操縦できてるし…
「日々、シミュレーションしていた甲斐があったな!海賊が出てきても倒せるぜ!」
「…総司さん、それってゲームじゃ………?」
…聞いてない。
僕はなにも聞いてないぞ。
総司は操縦できる。それで良いんだ。
余計なことは知らなくて良いんだ………
まぁ、あれから一時間弱、皆の緊張も解けてすっかりバカンス気分になっている。
桜は部屋でワイヤーのお手入れを、優里香はテレビでドラマを、恵里香は読書と…
緊張のかけらもございませんな。
全く、下手したら世界が滅ぶ可能性もなくもなくもないのに…
なんてだらしない!
まぁ、かくいう僕もバッチリお絵描き中ですが。
…それにしても、目的地ってそんなに遠かったかな…?




