ママー何あの人ー? しっ、目を合わせちゃいけません!
「何があった!おい、桜!!」
トランシーバーに向かって叫ぶ。
向こうで何があったんだ?嫌な予感がする。
「おい!桜!!おいってー」
『一樹…』
叫んでいた声を桜の声が遮る。
その声はどこか震えていて、それでいてどこか決意に満ちていた。
『絶対に奴を…』
そして、少し間が空いてからゆっくりと桜は言った。
『倒しましょう…』
(桜が…キレている…?)
実際桜はキレていた。
以前にもじいさんに向かってキレていたが、それとは比べ物にならない。
僕でさえ少し恐怖を感じた。
(聞いたらダメだ!聞いたらダメだ!!)
分かってはいるが僕は聞かずには居られなかった。
「桜、一体何が…」
『翔子は奴の目を見てしまった。それだけです』
返ってきたのは、桜の声とは思えないくらい冷たい言葉。
まるで、心がどこかに行ってしまったような…
「…総司へとつないでくれ」
僕は総司に伝えなければならないことがある。
向こうで何かを話してから総司が出た。
『な、なんだよぉ。何なんだよあいつはぁ…』
桜と同様にいつもの総司からは想像もできない声だった。
総司は涙声になっていた。
当然だろう。目の前で仲間が死んだのだから。
それを考慮しながらゆっくりと優しく総司に伝える。
「総司。頼みがある」
『頼み…?』
「うん。桜を抑えていてくれ。今の状態は危険だ」
総司はしばらく考えると、うん。と言った。
通信を終えると、恵理香が恐る恐る尋ねて来た。
「か、一樹…それってまさか…」
「そうだよ恵理香。僕が1人であいつを倒してくる」
「!だっダメです!!危険です!だったら私たちも…」
今まで聞いたことのないくらい大きな声で恵理香は言う。
でも、僕の気持ちは揺らがない。
「そういうわけにはいかないんだよ。僕は仲間を死なせてしまった。責任は僕にあるんだ」
「そんな…」
恵理香が諦めたような声を出す。
それでいいんだ。僕はもうー
パチーン
乾いた音が響いた。
じわりと僕の頬に痛みが広がっていく。
そして僕は気づく。優里香に頬を打たれたのだと。
そして、打った本人の優里香は僕に向かい、
「あんた、バッカじゃないの?僕に責任がある?笑わせんじゃないわよ!奴を倒したいのは分かるけどさ、それは私たちも同じなんだよ!そのくらい分かってよ!隊長なんでしょ!」
そう、まくし立てた。
僕も桜と同じように何も見えていなかったのかもしれない。
頬の痛みが広がっていくにつれて、頭も回転してきている。
「…ごめん」
そして僕は2人に謝った。
「今はそれどころじゃないでしょ」
「急がなければ…桜が…」
そうだった。
早く行動に移さないと。
ちらりと奴の方を見ると、かなり桜たちのところへ近づいている。
僕は2人の顔を見て決心し、口を開いた。
「2人とも、援護…任せれる?」
「あったりまえじゃない」
「頑張ります…」
そして、2人の顔をもう一度だけ見てから僕は走り出す。
走り出してからすぐに援護弾が放たれる。
援護弾は奴の後頭部をかすっていった。
僕は奴が振り向く前に木の陰に隠れる。
しばらく銃声が鳴り響く。
銃声が止み、静かになったところで僕は背後に気配を感じた。
咄嗟に背後を確認しようとし、だが確認せずに前に跳ぶ。
直後、僕の盾になっていた木が倒れていったのが見えた。
(なんて強さなんだ!?)
一瞬見えた胴体の形からしておそらくバジリスクだろう。
一瞬でどうやって背後に、しかも場所まで…
いや、場所の特定方法は分かっている。
奴は蛇だ。つまり、舌で獲物の位置を特定しているんだ。
僕は腰につけた拳銃を背後に向けて乱射する。
しかし、奴はもうそこにはいなかった。
ならば、一体どこへ…
バジリスクを探す僕の視線の隅にキラリと光るものが見えた。




