僕らの夏はまだ長いです。
ー花火大会当日ー
僕とじいさんは桜が買い物に行っている間に作戦を確認していた。
「よし、じいさん。準備は良いか?」
「うむ。いつでも良いぞ」
「オーケー。だが早まるな、まだ昼間だ」
「ん?あ!あぁ、すまんすまん」
そう言うとじいさんは手に持っていたクラッカーをしまった。
なんだろう…ものすごく、不安だ。
そんな時ふと、僕は違和感を感じた。
なんか世界が動いているような…
「って、地震!?」
動いていたのは地面だった。しかもこれ、結構大きい。
「じいさん!大丈夫?」
「大丈夫じゃ」
なんだこれ、震度5強はあるだろうか。
しばらくすると、揺れは収まった。
「今の、大きかったな」
「うん。桜、大丈夫かな?」
「大丈夫じゃろ」
じいさんはこう言うけど、やっぱり心配だ。
そんな時、玄関から物音が聞こえた。
「ただいまー」
桜だった。じいさんの言う通り、心配は無用だったらしい。
なぜなら、
「桜、地震大丈夫だった?」
「地震?いつあったのですか?」
地震があったことにすら気づいてなかったから。
「いやいや、あれ結構大きかったよ!?」
「そうなんですか?」
「そうなんですかって…」
あんなに大きい地震に気づかない人もいるんだな…
「まぁまぁ、一樹。無事だったんだから良いじゃろ」
「…そうだね」
普通は気付くんだからね!?普通は!
それにしても…
「なんかこの頃地震多くない?」
3日前辺りからこの近くでは地震が頻繁に発生していた。
小さいものから大きいものまで、まるで呼吸をしているみたいに…
「そうじゃの、そろそろ何か起こりそうじゃの。アッハッハ」
じいさんはそんな風に言うけれど、結構不気味だな。
桜の、「そんなに地震ありましたか?」という声は聞かなかったことにしておこう。
夜、いよいよ作戦を決行する時が来た。
「さくらー!花火大会見よーよー」
「あ、はい!」
僕が桜をベランダへ呼び出す。花火開始まであと1分だ。
あと、20、19、18…
「カウントダウン!10、9、8、7…」
唐突に僕がわざと一秒早くしてカウントダウンを始める。
桜も僕と一緒にカウントダウンを始める。
「「3、2、1」」
じいさんが気づかれないように桜の背後へ近づいていく。
手にはしっかりとクラッカーを握っているはずだ。
「「0!!」」
僕と桜がそう言うのと同時に『パァーン!』という音が鳴り響いた。
「キャッ!?」
驚いて飛び上がり、後ろを向いた桜のさらに背後で今度は本物の花火が『ドォーン』と大きな音を立てた。
「ヒャッ!?」
また桜が飛び上がる。
「あはは!大成功!」
「どうじゃ?驚いたじゃろ?」
「もぅ!二人とも!」
夏の夜空には僕たちの笑い声が響いていた。
『シュー…シュー…』
そこには人がいた。しかし物音は聞こえない。人の気配もない。
いるのはただ一人、怯えるように部屋にこもっている人だけ。
「う…うぅ…来るな…来るな…ん…?…!………」
次の瞬間、この村から物音が消えた。
『シュー…シュー…』
後に聞こえるのは1匹の生物の息づかいだけだった。
「村が全滅ぅ!?どういうことですか市長!」
「それが、私にもよく分からなくてね」
「どんな様子だったのですか?」
僕と桜は市長に呼ばれ、団員とともに市長室に来ていた。
もちろんじいさんは留守番だ。
「皆何かに怯えたような表情で固まっていたんだ」
「固まってた?死んだんじゃねーのそれ?」
総司が市長に尋ねる。
確かに固まってたとはどういうことだろうか…
「死んだというよりも固まったの方があってるんだよ」
「それは…どういうことなんでしょうか…?」
「普通、死んでもすぐには死後硬直が起こらないよね?」
「そりゃあ、まぁ」
「この人たちは、死後硬直が一瞬で終わっているんだ」
えっと、それってつまり…
「何か外部からの力で無理やり固められたということですか?」
「うん。そうなるね」
外部から無理やり固められた…
一体どうやってこんなことをしたんだ?
いや、何故こんなことをしたんだ?なんの意味が…
「何か犯人に手がかりは?」
「村には一つ、跡が残っていたんだよ」
跡?足跡か何かのことか?
「幅2メートルくらいの何かを引きずっていた跡がね」
幅2メートルくらいって、かなり大きくないか?
まさか犯人は単独犯じゃないのか?
ますます意味がわからなくなってきた…
「犯人の目的はやっぱりお金でしょうか…」
「それが、金目のものは一切奪われていなかった。それどころか、部屋も荒らされていなかったんだよ」
「なんだそれ?意味わかんねーよ!」
総司が市長につっかかる。
「まぁまぁ。だとすると、犯人は愉快犯かな」
僕が総司をなだめながら予想を話してみる。
「多分…そうですよね…」
「それで、幅2メートルくらいの物を持てるんだから、体格のいい人か、複数犯だよね?」
「それしかないんじゃないかな?」
やっぱりよく分からない。
第一、犯人の手がかりが少なすぎる。
僕たちが何かないかと必死に頭を働かせていると、「あんたバカァ?」とでも言いたそうに優里香が発言した。
「それ、生物なんじゃねーの?」
「「……………」」
な、な、な、なんでそんなこと今まで気づかなかったんだ!?
生物なら全てつじつまが合うじゃないか!!
「!!そ、それだ!それだよ!!」
市長も「やっぱり君たちを呼んで正解だったよ」と喜んでいる。
皆から口を揃えてすごいすごいと言われた優里香は、恥ずかしそうに
「…チッ。お前らが馬鹿なだけじゃねーの」
と言っていた。
ごもっともでございます。はい。馬鹿ですいません本当。
「じゃあ、どんな生物かは僕の方で調べてみるから一樹君たちはいつでも出発できるように用意していてね」
「分かりました」
そう言うと、僕たちは市長室を出て行った。
途中、優里香に笑いながら「凄いなお前!」と言ったら無言で蹴られたがまぁ、茶番だ。




