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15-1 -食後の運動-

さて、例の件ですが」

ブラドの顔にラウルとレイの視線が向けられた。

「この辺りに彼女の親戚らしき人は居ないようですね」

それを聞いて落胆する二人。その大げさともとれる二人のアクションにブラドがフォローを挟んだ。

「といっても、『今は』という話です。少し前までそれらしい人がいたみたいですね」

ブラドは料理を口に運びながら情報を提供した。

ラウルとレイの顔が上がる。その表情はその情報の詳細を欲していた。

「・・・この近所の話ですがね?」

ブラドは少しの間二人の表情を凝視していたが、やがて話し始めた。彼の声に二人は黙って耳を傾ける。

「この近くに、少し前までカルア地域から越してきた人が居たそうなんですよ。・・・私は見たことありませんが」

ブラドはつい昨日得た情報を、自分の感想も添えながら淡々と語った。

「この前まで、というと?」

ラウルは引っかかった単語を復唱した。

「そのままの意味です。今はその人はいません、住んでいたお宅を訪ねてみましたが、空き家でした」

ブラドは掌を仰がして首を左右に振った。もう一度ラウルはたずねる。

「どうしてです?」

「行方不明のようですね、無くなったわけでも、家出でもないようです。ただ突然、忽然と居なくなってしまったそうですよ・・・」

ブラドは薄ら笑いを浮かべていた。この話が別段面白いというわけではなく、怪談じみた話を聞いてそわそわし始めたレイを見てのことだ。

「居なくなったのはいつ頃ですか?」

「確か二年ほど前だそうですが」

その言葉に反応したのは、以外にも、ブラドの隣でこの話を静観していたフレイヤだった。

彼女の形のいい眉がピクリと釣りあがったのに気づいたものはこの場には居なかった。

「二年前・・・足取りがつかめなくなるには十分すぎるほど十分な時間ですね、その人と接触するするのはたぶんもう無理だな」

冷静な判断にブラドは頷き、レイは分かりやすく肩をがっくりと落とした。ラウルは考え込むようにうつむき、フレイヤは相変わらず静寂を守っている。

シルたちが談笑しながら楽しい食事を執り行っている同時、こちらではなんとなく重々しい空気が包み込んでいた。


半刻後には皆食事を終わらせ、そろそろお開きにしようとし始めていた。

「今日はありがとうございました」

「ご馳走様でした。美味しかったです!」

ラウルもレイも玄関でそれぞれにお礼をいっていた。

「いえいえ、いつでも来てください」

ブラドは満面の笑みで答えた。

そして、その笑みはすぐに邪悪なものへと変わり、「フレイヤさん、送ってあげてくださいな」と続けた。

「なっ!?」

これ以上面倒ごとには巻き込まれたくない彼女としては今すぐ姿を消したかった。が、吸血鬼でもない限り姿を消したり霧になったりなんてことはできないのであった。

しかし、図らずとも、彼女にラウルが助け舟をだした。もちろん彼女の事情などこれっぽっちも知らないのだが・・・

「いえ、これ以上お世話になるのも悪いですから、自分たちだけで大丈夫です」

そう断ったラウルに対してのリアクションはお互いに真逆のものだった。方や胸を撫で下ろし、方や面白くない、という不満の表情を露にしている。

といっても、どちらも二人のような人生経験の浅い人間にまで分かるほど分かりやすく顔には出していなかったが。

二人はブラドとメイド服姿のフレイヤに頭を下げ、館を後にした。


館をでて、町に戻ってきた二人は、宿に戻らず、屯所へと向かっていた。

日はまだまだ高く、時間はかなり残されていた。

屯所へ向かっている理由はレイにあった。以前レウルと交わした約束(約束といっても、そんなに硬いものでもない口約束だったが)を思い出したレイがラウルと一緒に屯所へ行くことを提案したのだった。

(レイはたぶんシルとブラブラしたかっただろうなぁ)

などと、内心では自分がシルでないことを悪く思いながら並んで歩いていた。もちろんその感情は心の中だけのもので、間違っても言葉や表情には出さない。

やがて、屯所の建物が見えてきた。

木製の扉を開け、中に入る、前と変わらない石造りの建物、絨毯を敷いた床と、ちょっと薄暗くも感じるロビー、そして、赤髪の女性、エスカが二人を出迎えた。

「いらっしゃい」

今回は常連極を相手にするような軽い感じでエスカは二人を招きいれた。

「どうも」

「ラウルは前の部屋に居るわよ、また案内しようか?」

「いえ、大丈夫です」

さばさば喋る彼女と話していると、なんだかレイと喋っているような感じになる。そういう意味ではとても接しやすいのだが、ちょっと軽すぎるような気もした。そういう失礼ごとはおくびにも出さず、ラウルは彼女の提案を断った。

「いえ、場所は覚えているので大丈夫です」

「そか、じゃあまた後でね」

カウンターの向こう側から彼女は二人に手を振った。ラウルは会釈で、レイは同じように手を振ってそれに答え、廊下を奥へと進んだ。

今朝来た部屋に着く前、またあの二人とすれ違った。

今朝すれ違った、銀髪の男性と、茶髪の女性。

今朝と同じように、男性の後ろを女性が追いかけるように歩いてくる。

しかし今回はその男性がラウルの横で足を止めた。

「・・・やつらの知り合いか?」

不意に廊下に響く壮麗な声、少し低めのその声に一瞬間、ラウルとレイは呑まれた。『やつら』というのがハルクたちのことだというのはすぐに分かった。

「・・・あなたは?」

ラウルの質問に後ろの女性が突っかかった。

「あなた、質問に質問で返すのは失礼よ!ね?ブライト君?」

「別に構わん」

「な!?」

さらりと言い返す男性に、ショックを受ける女性。

「失礼しました。・・・ハルクさんに旅の道中お世話になり、そのご友人であるレウルさんが彼女、レイといいます。彼女に稽古を付けてくれるというので、伺いました」

ブライトと呼ばれた男性は一度頷き、納得の意を示した。

そして、次は彼がラウルの質問に答えた。

「ブライト・クォーツだ」

男性の言葉に、姿勢をぴんと正して女性が続けた。

「私はアン・フレデリックよ、ブライト君は銀の派閥のリーダーなの」

アンは自分のことのように誇らしげに胸を張った。かなり大きな『それ』をもつ彼女がその仕草をすると、いくらローブを羽織っているといっても、かなり強調され、ラウルはどこに視線を向ければいいのか分からず、目線を泳がせる。

「僕はラウルです。クォーツというと、騎士の名家だと存じますけど」

ラウルの様子を見てアンを自分の後ろに下がらせながら話を聞いていたブライトの眉が動いた。

「よく知っているな」

「知らない人のほうが少ないかと」

お世辞ではなかった。クォーツ家は長きに渡って銀の派閥と関わっている。魔法よりも武術や剣術、特に剣術に秀でていることに有名で、宮廷の騎士や彼のように派閥の騎士でクォーツの姓を持つものは多い。

ラウルの言葉にブライトは笑いを漏らした。

「フフッ、この立場になってから世辞を言われるのも久振りだな」

お世辞などではないのだが、彼はそうとは思わなかったらしい。だが、表情を見れば不満に思っていないのは一目で分かる。とりあえず、結果オーライということにしておいた。ここでわざわざ彼の些細な取り違いを訂正する必要はない。

ただ、今のラウルの言葉はアンからするとあまり好ましいものではなかったらしく、膨れっ面をしていたが、ラウルは気付かなかった。

彼の言葉にラウルは微笑みという正しい解釈が難しい反応で答えた。

「引き止めて悪かった・・・また会おう」

そういって、彼はその場を立ち去った。

彼の姿が見えなくなってから、ラウルはふぅっと息をついた。黙っていたレイが後ろから声を掛けてきた。

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ、しかしすごいな、気だけで当てられそうになった」

「うん、すごい気迫、殺気なんか全くないのに、威圧されてる感じ」

彼が消えていった方向を見ながら、彼の姿を思い浮かべる。

「さて、行こうか」

「うん」

そうして二人はようやくハルクの下へとやってきた。

木と木がこすれあう音を立てながら扉が開く、中にはハルクとレウル、そしてシルとアイリが居た。

その状況を見たレイが驚きを露にする。

「あれ!?シルとアイリ?どうして?」

その疑問にはハルクが答えた。

昼間ちょうど二人にあってな。

レイとラウルの二人は揃って「なるほど・・・」と頷いた。

「今の今までブライトたちが居たんだがなぁ」

「さっき廊下で擦れ違いましたよ、会話するだけで神経磨り減りましたよ」

ハルクの言葉に苦笑いを浮かべながら答えると、ハルクは眼を丸くした。

「ほぉ、アイツが声を掛けたのか、自分から?」

ハルクの驚く理由が分からず、ラウルは頭上に疑問符を浮かべながら答えた。

「ええ、ハルクさんとはどんな関係だ。見たいな事を聞かれて・・・」

「珍しいな、無口なアイツが自分から声を掛けるなんて・・・」

ハルクのその言葉で、ラウルは彼の疑問の所以を理解した。確かに無口で気難しそうな感じに思えたが、ラウルはそんな人との会話には良くなれている。

そして、まず話さなければいけないことを思い出し、アイリの近くまで歩み寄ってラウルが話した。

「少し前まで子の近くにカルア地域から引っ越してきた人が住んでたらいんだけど、二年前から行方が分からないって」

いつものようにはきはきとはしていなかった。あまり有力な情報は得られずじまいなのを悪く思ったのだろう。それを見たアイリは左右に首を振った。

「ううん、気にしないで、ありがとう、ラウル」

「ああ、ありがとう」

アイリの言葉はラウルの感情を多少楽にした。そのおかげかラウルの表情も幾分か明るくなった。

「と・こ・ろ・で」

レイが二人のやり取りに割って入ってきた。

「レウルさん、お願いします!」

そう、今回来たのはこっちのほうが本命なのだ。

レイはレウルに向かって勢い良く頭を下げた。


前の投稿から1ヶ月以上開いてますね(汗


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