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15-2 -食後の運動-

そして今、面子は屯所の裏にある広場に集まっていた。この広場は自警団が普段から訓練に使っている場所だ。

広場の一角にはいかにも戦闘の訓練に使われ居そうな木偶が幾つも置かれている。

「サテ、ちょっと待っててネ」

レウルはそう言うと、足の脛から膝に掛けて防具を取り付け始めた。膝の部分はサポーターのようになっていて、脛には鋼を加工した脛当てを固定している。

「変わった防具ですね」

興味を示したのはラウルだった、というよりも、みんな興味深げに見ていて、声を掛けたのがラウルだった、というのが正しい。

「別にこれは防御だけじゃないのヨ、蹴ればイタイからネ!」

そのほんわかという表現がぴったりきそうな彼の言葉に誰からとも無く小さな笑い声が漏れた。

「おし、準備できたヨ」

「腕はいいんですか?」

「ウン、いいヨ、女の子相手だし」

レイがむっとしたのをこの場のレウル以外の全員が察知した。

「えっと・・・どんな感じにすればいいですか?」

彼女の質問に対する返事は「適当に打ち込んできテいいヨ~」という間の抜けたものだった。それに対するレイの返事も「はぁ・・・」と気合の入らないものになってしまう。

しかし、気合が入っていないのは返事だけだった。いつものようにトンファーを両手に持った瞬間、彼女の顔つきが鋭くなる。その姿を見て驚きを示したのは、ハルクとレウルだった。レウルは言葉を発することこそ無かったが、「以外だ」とでも言いたげに目を見開いた。

「意外だな、彼女はトンファーを使うのか」

そして実際に驚きを声に出したのはハルクだった。

その驚きにはラウルが返答する。

「ええ、レイは昔からトンファー一筋ですよ、彼女にトンファーを持たせたら鬼に金棒もいいとこです」

皮肉を織り交ぜるラウルにハルクは思わず噴出した。

「なるほどな」

胸の前で腕を組んで、この勝負の行方を見守る。

最初に動いたのはもちろんレイだった。

右足を大きく踏み込み、低い姿勢から左手のトンファーを振り上げる。速度は、そんなに速くないように見える。ちなみにこれはラウルやシルの、普段の彼女を見慣れている人間の感想なので、他にどう移っているかは分からないが、少なくともレウルは「おっ」という顔をした。それがどういう意味を含むのかは読み取れなかったが。

一撃目はレウルがバックジャンプでかわした。彼の体を次は右のトンファーが追う。

レウルはそれを靴底ではじき返した。今度はシルとラウルが驚く番だ、あの体勢から、しかも彼女の動きに足で付いていけるのか、と二人とも驚きを隠そうとせず、そのまま表に出した。

それを見たハルクはニヤリと不適に笑ってみせる。その表情は「まだまだこんなものじゃない」と物語っていた。

未だレイの猛攻は続いている。

左右から不規則に打ち出される打撃をレウルはすべて足だけでかわしている。

その激しい戦闘シーンの横でシルはハルクと駄弁っていた。雑談でもこの状況と全く関係のない話をしていたのではない。ちゃんと、関係のある話である。

「ところでおっさん」

おっさんという一人称に最初は疑問の表情を浮かべていたハルクだったが、もうどうでもよくなったらしく、今では普通に返事をしている。

「なんだ?」

ハルクは戦闘からいったん目をそらし、シルの顔を見る。

「アイツの、レイの最大の武器って何だと思う?」

「・・・?トンファーじゃないのか?」

ハルクの疑問にシルは被りを振った。

「違う違う、武器の話じゃないよ、トンファーはたぶんアイツともっとも相性のいい武器だ」

ハルクは数秒考える仕草を見せて絡もう一度答えた。

「スピードか?」

シルはもう一度、頭を振ることで答える。

「違うな、でも俺が聞きたいのはそういうことだ」

どうやらこれ以上考えてもハルクには思い当たるものは無いようだった。

そんなハルクをみて、シルは答えを出した。

「正解はな、握力だよ」

「握力?」

ハルクはどうやらいまいちピンとこないらしい、確かに彼女は今のところトンファーを落としたりはしていないが、武器を使う以上、そのくらいは普通なはずだ。

黙っているハルクにシルがこめかみに汗を浮かべながら言った。

「アイツ、両手を使えばりんごを握りつぶせるらしい」

「は!!?」

ハルクは今日一番の驚きの表情を見せた。

「んなばかな!女の子だぞ!?」

彼の同様もわかる、が、シルの次の言葉は逆に彼を落ち着かせた。

「・・・一度目の前で見せられた」

「まじか・・・」

落ち着かせた、というよりも、驚きが一回りして逆に落ち着きを取り戻したといったところか。

「ところで、シル、それはどういう経緯で見せられたんだ?」

「ああ、それはな、以前悪戯でレイの鞄の中にあいつが嫌いなものを入れたことがあったんだ」

「・・・ああ」

ラウルは半眼でシルを見つめていた。

「そのあと当然あいつに怒られて、どこからとも無くりんごを持ち出して『次ぎやったら・・・こうだからね?』つってグシャって・・・!」

シルはそれをジェスチャーも交えて語った。明らかにその手は過去のトラウマを思い出して震えていた。

「・・・ああ・・・でもそれ、お前の自業自得じゃねーか」

「そうだけど、いざとなったら俺の腕くらい速攻でもぎ取れるんじゃないかと思うと怖くて逆らえん」

「・・・ああ・・・わかるよ・・・」

ハルクはなぜか遠い目をしていた。

そして戯言も終了し、二人の戦いに見線を戻す、相も変わらず、二人の間では激しい攻防が繰り広げられていた。もっともこの場合は攻と妨が一方的に繰り返されているだけだが。

「そろそろレイが攻め方を変えてくる頃だな」

「攻め方を?」

シルの言葉にハルクが再び疑問で答える。

「まぁ見てればわかるよ」

今回はハルクに注目を促しただけだった。

そして、その瞬間はやってきた。

勢い良くレウルの顔面左に向かって突き出された右のトンファーを右に交わすレウル、レイの一瞬の動作、素早い手首のスナップでトンファーの前後を逆にする、これによって、さっきまで自分のこぶしとほとんど変わらなかったリーチがかなり伸びる、そちらにまで意識が回っていなかったらしく、突然トンファーのリーチが伸びた驚きが表情に出ていた。

いや、もしかしたら聞き取れないだけで声も出ていたのかもしれない。

「なるほど・・・」

とハルクは呟いた。

「リーチも自在というわけか」

感心したように何度も頷きながら試合の行方を見守った。

レイの猛攻が始まった。今までのは本気ではなかったのだと初見のハルクでもそう思う変貌ぶりだった。

そして、レイの一撃をレウルは手を使ってはじいた。

「アイツが手を使うとはな・・・そこまで早いのか」

左手を使った直後、レウルの動きが加速した。レイの二つのトンファーの間に張り込み、一気に間合いを詰め、彼女の腹部に右手を当てた。レイの表情は「しまった!」といっているようだった。一瞬お互いの動きが止まり、レウルが彼女の耳元でささやいた。

「本気出していいカナ?」

「・・・オッケー」

二人のやり取りはもちろん外野には聞こえていない、恐らく口元が動いたことにすら気付いていなかっただろう、ただ、そこで何かあったことだけはわかった。お互いに、動きが変わった。レウルは両手も使い始め、レイは両手の不規則な動きに加えて足も時々使っている。お互いの全力。

レイは、笑っていた。それも、少女が嬉しくて溢す笑みなどではない、完全に、誰が見ても、戦う者の目だった。齢15と少しの少女がしていい顔ではない、と外野の誰もが思っていたことだろう。


そしてようやく決着が付いた。決着は両者の体力切れ。

お互いに最初こそ不満そうだったが、すぐに満足げな表情に変わった。

「すばらしい腕だヨ、僕の見ることなんかなかったネ」

「いやいや、レウルさんこそ凄かったよ!素手でここまでできる人と合ったのはじめてかも!」

ふらふらの状態で二人はがっしりと握手をして、勝負の余韻に浸っていた。外野の数名が集まってくる。

「俺たち完全に蚊帳の外だったな」

シルがぼやいている。

「二人とも凄かった!」

今にも拍手しそうな勢いでアイリが。

「お疲れ様」

そういって二人にタオルを手渡すラウルはどこまでも気が利いている。

「いや、本当にお疲れさん、ちょっと休め」

ハルクも言葉を続ける。

「うん、そうする」

「疲れたのダ~」

二人は背中を合わせてへろへろと地面にへたり込んだ。

すぐに広場を笑い声が包み込んだ。

決着までほぼ一刻半、食後の運動というにはあまりに激しすぎる運動だったが、大団円に収まり、レイも、レウルもこれ以上ない満足感と、充実感、そして、好敵手をお互いに認めていた。


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