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1-3 -シル-

気が付くとシルは保健室の白い天井を見ていた。

「あれ・・・なんで俺寝てるんだっけ・・・?」

記憶がいまいちはっきりしない、ばらばらになったブレスレットを見てからの記憶があいまいになっていた。

はっとして自分の左腕を確かめる。しかし見慣れたブレスレットはついていない。

ふぅ、と一つ深く息をついてからもう一度寝ようと布団にもぐりこもうとした時、ドアが開く音がした。

「シル、おきたか?」

例の優等生、ラウルの声だった。

「ああ」

と小さな声で答える、「そうか」とラウルもそれに返事をして廊下に居たのだろう先生を呼び入れた。

コツコツと革靴の音をさせながら細身の教師が顔を出した。

「まったく、無茶しやがって」

セシルの表情には明らかな怒りが浮かんでいた。

「まぁ、結果オーライでしょう」

シルののんきな返事にセシルの眼光が鋭く光った。

「そんな軽いもんじゃない!初心者があんな上級魔法使いやがって!失敗して大惨事になることだってあるんだ!今回はたまたま上手く発動できたからよかったけどな、暴発でもしてみろ、お前だけじゃなくこの学校全部が木っ端微塵になるところだぞ!!」

「すいません・・・」

シルは後ろめたそうに少し眼を逸らした。

「・・・まぁその反応だと反省はしているんだろう、次は気をつけるんだな」

「はい・・・ところで、アイツは?」

「ああ、今この隣で寝ている、そうだ、私たちはこれから授業だがお前はもう少し休んだほうがいい、それで、そいつが目覚めたらシャワーでも浴びさせてやってくれ、ずいぶん汚れているからな」

「はーい」

面倒なことを押し付けられた、とも想ったが、授業に出ることと天平にかけたならこっちの方がましだと開き直ることにした。

二人はすぐに保健室を後にし、眠気が覚めてしまったシルは天井を眺めて過ごすというきわめて退屈で、人生を無駄にしているとしか思えない行動で30分間を過ごした。

そろそろ起き上がりたくなってきたころ、隣のベッドから、ごそごそという音と小さなうめき声が聞こえてきた。

ベッドから降りて様子を伺う、ベッドに横たわっていたのは金色の髪をした少女だった。

少女はうっすらと目を開けて天井を眺めていた。

視線の先に自分の顔をひょいと出して「目、覚めたか?」と聞く。少女はびくっと身体を振動させてから「あ、はい」と小さく頷いた。

「いろいろ聞きたいことはあるんだけどさ、まずはシャワー浴びて来いってさ、話はその後だ」

少しの沈黙の後、コクリと少女が頷くのを確認し、浴室のある場所まで案内する。この学校は寮制なので大体の設備は揃っている。


ここな、多分お湯ははられてないからシャワーだけで済ましてくれ、じゃあ俺は着替え借りてくるから。

踵を返して今来たほうに引き返そうとすると、

「あ・・・いろいろありがとう」

少し頬を染めながらのお礼にシルも若干赤くなる、「お、おう」とそっけない返事でポーカーフェイスを装いながら歩いていく。


数分後、思えばこのとき、もう少し気を使えばあんなことにはならなかったのだが・・・

「おーい、着替えココに置いとく・・・ぞ?」

ドアを開けた先にはシャワーを浴び終わったばかりの少女が立っていた。お互いに想わぬ展開に少しの間空気が凍ったように停止する。

少したって状況を把握した両者の顔はリンゴよろしく真っ赤に染まっていた。少女はシルに向かって歩を進め、右手を力いっぱい振りぬいた。

パーンと軽快な音を上げながらシルは脱衣所から廊下に文字通りはたきだされた。


シルは着替え終わった少女とともに保健室に戻って、なぜか新たに増えた生傷の手当てをしてもらっていた。

ガーゼを張ってもらっているシルの隣で少女が申し分けなさそうに立っていた。

「あの・・・ごめんなさい、つい気が動転して・・・」

「いや、いいよ、俺のほうこそ配慮ができなかったよ・・・わるかったな」

「それはシルちゃんが悪いわよぉ」

二人の謝罪の間に保険の先生こと、リシアが相変わらずのゆっくりした口調で口を挟む。

手当てが終った先生はその豊満な胸の下で腕を組んでいる。薄い茶色の髪は先端が少しカールし、手入れが行き届いているのがよくわかる、そのプロポーションの良さから、怪我をすると喜んで保健室に運ばれてくる男子生徒は多い。

「いや、あれは事故ですよ、わざとではないですから」

「でも見ちゃったんでしょぉ?」

シルの弁解はあっさりとながされ、すぐに授業の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。

すぐにセシルが保健室のドアを開けた。

「さて、色々と聞かせてもらおうか」

「・・・はい、分かりました・・・」

不安そうな面持ちで丸いすに腰をかけた少女は少しうつむきかげんで話し始めた。

「えっと、まずお礼をさせて下さい、助けてくれてありがとうございました」

ぺこりと小さく首を折った。

お礼の後には質問攻めが来ることは想像に難くなかった。案の定それは現実になっている。

「お前の名前は?なんていうんだ?」

「アイリです、生まれは西のカルア地域です。」

「というと、農作の地だね、私も行ったことが・・・はぁ!?カルア地域!?」

セシルは突然声を荒らげた「どうかしたのか?」というシルの質問。

「カルアって・・・馬でも半年はかかるわよ?」

「ええ!?じゃあ、お前、半年も馬で?」

シルが驚きが収まらないままアイリのほうを向く。

アイリはまだ不安そうに、おそらく言葉を選ぶのに戸惑っているのであろう様子を見せてから、「いえ、家を出たのはもっと前です。私は二年以上旅を続けています。」と続けた。その場を短い沈黙が包み込んだ、沈黙を破ったのはセシルだった。

「じゃあ、両親は?」

「二年前に・・・亡くなりました。」

アイリは少し言葉に間を置いて言った。セシルも「そうか・・・」とだけいい、それ以上この話題については詮索しなかった。


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