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1-2 -シル-

「でもねぇ、先生」

目上の人に話しかけているとは到底思えない口調でシルは話し始める。

「出来ないことはできなっすよぉ、誰にでもあると思うんすよね、飛べって言われたって不可能だし、死人を蘇らせるとか無理でしょう?それが俺の場合たまたま魔法だったわけで・・・」

「お前の長々しい弁解、もとい、言い訳は聞かん、そんな事言っている暇があるのならさっさと魔術書を読んで魔法陣の形の一つでも覚えたらどうだ?」

先生はもっさりとしたひげを掻きながらシルの言葉を遮った。

「おれ、最高クラスの魔法陣の形なら全部覚えましたよ!」

シルが満面の笑みで言う。

「なんのためにだ!?必要なのか!それは!?お前は難しい文字をやたらと書きたがる中学生か!!」

どんな先生の前でも対応が変わらないシルと会話する教師は大体シルのペースに飲まれてしまう。シルという人間は、誰にでも隔てが無く、率直な意見を言う。言い方を変えれば、神経が図太いのだ。

「おやおや、ビスク先生、またシルにおせっかいですか」

クスクスと笑う女性の声、クラスの生徒の視線も声の主に注がれていた。視線の先にはスレンダーという表現がもっとも適切であろう女性が立っていた。黒く長い髪を背中まで下ろし、黒の制服がよりいっそう細身に見せているのかもしれない。

「おお、セシル先生、コイツが相変わらずでねぇ」

女性のほうを向きながらシルの手入れはシャンプーぐらいしかしていない髪をぐしゃぐしゃと撫でる、撫でるというには荒々しいが・・・

「おお、セシル姉、相変わらずスレンダーだな!」

シルの言葉にセシルは満面の笑みでシルに歩み寄る、狂気のにじみ出る笑みで・・・

シルは頭に腕を回されがっしりとヘッドロックされている、セシルはシルの耳元で小さく囁く。

「ほぉー、『スレンダー』か、それはこの胸のことを言っているのか?ん?」

ぐりぐりと拳でこめかみを刺激しながらの尋問が始まった。

この先生の前でスレンダーという言葉は禁句なのである。

「・・・断崖絶壁・・・」

ボソリ、とシルが呟いたのだが、密着した状態で聞こえないわけが無かった。「ああ!?」と声を荒らげこめかみを押し込む力を強くする。

「あだだだだだ!」

禁句なのである!

そんな和やかな空気を轟音が一瞬にして変化させる。校門をぶち破り、何かが飛んでくる、それは絡み合う教師と生徒に向かっていた。

「危ない!」

セシルはシルを抱えたまま横に体を倒した、ぎりぎりのところでとんで来た火球をかわす、火球がすぐ後ろの地面に黒い焼け跡を作ったのを見てからそれがとんで来たほうに眼をやる。

そこには数人の黒いローブをまとった人影があった。

「先生!人が!」

叫んだのはラウルだった、黒いローブの集団の前からこっちに走ってくるもう一つのローブ、負傷しているらしく、肩を押さえながら左足をかばうように走っている。そいつはよろよろとシルの目の前まで来るとか細い声で「たすけて」と囁いて意識を失った、ひざから崩れ落ちそうに鳴るのをシルが体で受け止めた。

「おい!大丈夫か?おい!」

しかし、返事は返ってこない。

「魔導師が・・・どうして・・・」

セシルがシルとすでに意識が無い子供をかばいながら疑問を零す。そんなことは気にも止めず魔導師たちの攻撃は続く。

再び空中に魔法陣が浮かび上がり、火球が向かってくる、シルが眼を逸らした時、轟音とともに火球が弾けとんだ、後ろからビスクが魔法で対抗していた。生徒はラウルが校内に誘導していた。

「大丈夫か?」

ビスクの低い声が響く、「はい」とシルは簡潔な返事を返す。魔導師たちを教師二人に任せて、ぐったりと思い人形のような身体を持ち上げる。

校舎に向かう途中先生が止め損ねた火球が一発、シルの足元に落ちる、足に強烈な熱を感じながらも校舎に歩を進める。

あいつらの狙いはどう考えてもこいつだ、こいつはいったい・・・?

その思考が仇となった。押さえ切れなかった火球がちかづくことにきづかなったのだ。

「シル!!!」

セシルの悲鳴にも似た声がシルの思考を現実に引き戻した。しかし、遅かった。火球はシルの左腕にあたり、二人は爆風で吹き飛ばされ地面に倒れこむ。

炎により焼け破れた服から腕が露出する。シルはすぐにそこからなくなっているものに気が付く、いつも肌身離さずつけていたブレスレットが無くなっている、慌てて近くを見渡すと前方に紐が切れてばらばらになった球がいくつも転がっている。向こうには明らかに今魔法を放ったであろう魔導師の姿。

「あの野朗!」

――――『ドクン』―――

怒りと同時にシルの中に何かが湧き上がるのを感じる。なにか、力のようなものが・・・

確信は無いが、シルはこれが魔力だと直感していた。考えるよりも先に手が動く、地面にあっという間に魔法陣が描かれていく、それはより複雑になっていく、陣が描き終わった時、シルは前方の二人に叫んだ。

「二人ともどいてくれ!!」

二人は振り向いた時、愕然とした。さっきまでまったく魔法を使えなかった生徒がいま、自分達の目の前で最高クラスの魔法を発動しようとしているのだ。

「ここは危ない、離れるんだ!」

ビスクがセシルの手をとり距離を取る、最大級の魔法は二人が離れてからすぐに発動した。

いくつもの雷が束となり、二人の前の空間を切り裂く、超高圧の電流により静電気と耳障りな耳鳴りを生じさせながら真っ直ぐ黒い魔導師たちに向かう。一瞬のうちに数人の魔導師を葬り去った光の束は校門の入り口に巨大なクレーターを作って消えた。

「はぁ・・・はぁ・・・」

先の魔法にほとんどの気力と集中力、そして魔力を使ったシルはその場に膝から倒れた。


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