第三十八話 「伊勢へ」
第三十八話 「伊勢へ」
放課後の教室。
十二月も、残すところ僅かとなっていた。
校舎の窓から見える木々はすっかり葉を落とし、放課後の空には冬の早い夕暮れが迫っている。
年が明ければ、ほどなく三学期が始まる。
けれど瑞稀には、新しい年をいつものように迎えられるという確信はなかった。
放課後の教室。
瑞稀は、芽衣にこれまでのことを静かに話した。
猿田毘古の神託。
月読、須佐之男、天照。
三貴子のもとへ向かうこと。
そして、そのために伊勢の本家を頼ろうとしていること。
「以前、花里家の形代を通して、高天原へ続く道を見たことがあります。」
瑞稀は、机の上で静かに指を組んだ。
「あの道が、高天原と現世をつなぐものなら、八咫鏡を通して、もう一度開くことができるかもしれません。」
芽衣が、僅かに目を見開く。
「八咫鏡って。」
「天照様の御神体です。」
瑞稀は、静かに頷いた。
「それをお祀りしているのが、伊勢の本家です。」
芽衣は途中から、真剣な表情で耳を傾けていた。
すべてを話し終えると、しばらく沈黙が続いた。
「私も、ついていく。」
「危険が伴います。」
「知ってる。」
芽衣は、迷いなく答えた。
「でも、瑞稀と旭君だけを行かせるつもりはないから。」
その肩口から、小さな声が聞こえる。
『我も同行しよう。』
少彦名神が、芽衣の襟元から顔を出した。
『薬の心得も多少はある。役に立てるはずだ。』
「ありがとうございます。」
瑞稀が静かに頭を下げると、芽衣は少し照れたように笑った。
「二人とも、水臭いんだから。」
「もっと早く、頼ってくれてよかったのに。」
その言葉に、瑞稀の胸が温かくなる。
以前なら、自分一人で背負うことを当然だと思っていた。
けれど今は、差し伸べられた手を拒まずに受け取ることも、自分で選ぶことの一つなのだと分かる。
「では。」
瑞稀は、芽衣をまっすぐに見た。
「一緒に来てください。」
「うん。」
芽衣は、明るく頷いた。
◇
その夜。
瑞稀と旭は、父にすべてを話した。
猿田毘古の神託のこと。
月読のもとへ向かうこと。
そのために、伊勢の本家へ祀られている八咫鏡を頼りたいこと。
父は、長い間黙って話を聞いていた。
やがて、静かに息を吐く。
「……伊勢か。」
低い声だった。
「本家の力を借りることに、抵抗はありませんか。」
瑞稀が問うと、父は小さく首を横へ振った。
「抵抗があるかどうかではない。」
「必要かどうかだ。」
父は、迷いなく続ける。
「高天原へ通じる道を、本家の鏡が開けるのなら、使わない理由はない。」
それから、瑞稀をまっすぐに見た。
「行きなさい。」
「連絡は、私からしておく。」
「はい。」
瑞稀は、深く頭を下げた。
父の目に、隠しきれない不安が過ぎる。
それだけではなかった。
高天原という言葉を聞いた瞬間、その奥へ、懐かしい誰かを想うような色が浮かんだ気がした。
父は、しばらく何も言わなかった。
やがて、膝の上へ置いていた手を強く握る。
「……以前。」
低い声が、静かな部屋へ落ちた。
「いずれ話すと、お前に言ったな。」
瑞稀は、父を見つめた。
「母様と、天照様のことですか。」
「ああ。」
父は、僅かに目を伏せた。
「お前の母は、十年以上前から高天原にいる。」
瑞稀の胸が、強く脈打つ。
知っていたはずのことだった。
それでも、父の口から告げられると、その重みはまるで違っていた。
「母様は、なぜ高天原へ。」
父は、僅かに目を伏せた。
「お前が生まれた頃、天照様の荒魂は、すでに現世へ溢れかけていた。」
瑞稀の胸が、強く脈打つ。
「荒魂が……。」
「ああ。」
父は、低く続ける。
「そして、その力は神卸の器として生まれたお前へ流れ込もうとしていた。」
瑞稀は、息を呑んだ。
「朱莉は、それを防ぐために、自ら器となった。」
「母様が、天照様の荒魂を……。」
「ああ。」
父の手が、膝の上で強く握られる。
「荒魂をその身へ引き受け、高天原へ残った。」
短い沈黙のあと、父は続けた。
「その後、天照様の和魂は、天岩戸へお隠れになった。」
瑞稀は、胸元へ手を添えた。
母が、自分の代わりに。
十年以上もの間、神の荒魂を抱えている。
その意味が、ゆっくりと胸へ沈んでいった。
「では、母様は今も。」
「天照様の荒魂を、抱えている。」
父の声が、僅かに掠れた。
「天照様は、神々の中でも大きな力を持つ御方だ。」
「その和魂が岩戸へ閉じこもったことで、それまで保たれていた均衡が、少しずつ崩れ始めたのではないかと私は考えている。」
「封印が、一度に破れたのではなく。」
「長い年月をかけて、少しずつ。」
瑞稀は、これまで出会ってきた荒魂たちを思い返した。
「そして、それが今になって……。」
「ああ。」
父の表情が、僅かに険しくなる。
「各地の封印が耐えきれなくなり、異変として現れ始めた。」
「そう考えれば、これまで起きたことにも説明がつく。」
けれど父は、すぐに続けた。
「ただし、これは私の推測にすぎない。」
「天照様がなぜ岩戸へお隠れになったのか。」
「朱莉が今、どのような状態なのか。」
「本当のところは、私にも分からない。」
父は、拳を握ったまま瑞稀を見る。
「だから、話さなかった。」
瑞稀の瞳が揺れた。
「なぜですか。」
「知れば、お前は必ず迎えに行くと思った。」
「はい。」
「お前まで失うのではないかと。」
父は、初めてその不安を隠さなかった。
「それが、怖かった。」
部屋へ、短い沈黙が落ちる。
以前の瑞稀なら、父が話さないことを当然のように受け入れていたかもしれない。
けれど、今は違う。
「父様。」
「何だ。」
「私は、母様を迎えに参ります。」
父の表情が、僅かに歪んだ。
それでも、瑞稀は続ける。
「ですが。」
「何も知らされずに決められたのではありません。」
「父様がお話しくださったことを受けて、私自身が選びました。」
父は、瑞稀をまっすぐに見つめた。
長い沈黙のあと、静かに頷く。
「……分かった。」
その声には、恐れが残っていた。
けれど、もう瑞稀の道を塞ごうとはしなかった。
「今度は、何も知らせずに送り出すことだけはしたくなかった。」
「ありがとうございます。」
瑞稀は、深く頭を下げた。
父は僅かに視線を逸らし、それから旭へ目を向ける。
「旭。」
「はい。」
「瑞稀を任せるとは言わない。」
旭の眉が、僅かに動いた。
「こいつは、自分で進むと決めた。」
父は瑞稀を見た。
「だが、一人では行かせたくない。」
旭は、静かに頷く。
「分かっています。」
「俺も、隣に立ちます。」
父は、短く息を吐いた。
「……頼む。」
瑞稀は、二人の言葉を聞きながら、自分の胸元へ手を添えた。
父は、すべてを決めなかった。
旭へ、自分を託したのでもない。
知っていることを話し、恐れていることを伝え、その上で瑞稀自身へ選ばせた。
それは、これまでとは違う送り出し方だった。
◇
冬休み。
三人は始発の電車へ乗り、伊勢へ向かった。
窓の外の景色が、見慣れた町並みから次第に変わっていく。
住宅が減り、山並みが近づき、やがて薄く雪をまとった山々が車窓の向こうへ広がった。
「……緊張する。」
芽衣が、小さく呟く。
『案ずるな。我がついていよう。』
少彦名神が、襟元から顔を覗かせた。
「その大きさで、頼もしいこと言うね。」
芽衣が笑うと、少彦名神は、むっとしたように口を尖らせる。
『大きさは関係あるまい。』
「でも、今のすくな様、半分くらい隠れてるよ。」
『これは、目立たぬためだ。』
「はいはい。」
二人のやり取りを聞きながら、瑞稀は小さく笑った。
向かう先に、何が待っているかは分からない。
それでも、芽衣と少彦名神の声があるだけで、車内の空気が少しだけ柔らかくなる。
旭は、向かいの席で窓の外を見つめていた。
表情は、いつもと変わらない。
けれど、右手の指が、時折僅かに動いている。
建御雷神の力を受け入れた影響が、まだ残っているのかもしれない。
「旭。」
瑞稀が声をかけると、旭が顔を向けた。
「何だ。」
「腕は、まだ痛みますか。」
「もう大丈夫だ。」
「本当ですか。」
「今度は本当だ。」
瑞稀は、しばらく旭の顔を見つめた。
旭は、目を逸らさない。
昨日よりも顔色はよく、指先にも力が戻っているように見える。
「分かりました。」
瑞稀が頷くと、旭は僅かに息を吐いた。
「そっちは、緊張してないのか。」
「しています。」
瑞稀は、正直に答えた。
「本家へ向かうことも。」
「月読様のもとへ向かうことも。」
「ですが、立ち止まる理由にはなりません。」
旭は、小さく頷く。
「そうだな。」
少しの沈黙のあと、旭が再び口を開いた。
「本家の連中と、まともに顔を合わせるのは初めてだ。」
「公寛とかいうやつのこともある。」
その名前に、瑞稀の胸が僅かに強張った。
公寛から告げられた申し出。
本家の決まり。
自分の人生を、誰かの都合で定められようとしたこと。
けれど今は、あの時とは違う。
自分が何を望んでいるのか。
その答えを、もう他者へ委ねるつもりはなかった。
「深くは語らないつもりです。」
瑞稀は、静かに答えた。
「今は、月読様のもとへ向かうことだけを考えます。」
「ああ。」
旭も、それ以上は何も言わなかった。
◇
伊勢へ着いた三人は、本家から迎えに来た者の案内を受け、内宮にほど近い場所へ向かった。
広大な参道から外れ、木々に囲まれた静かな道を進んでいく。
やがて、白い塀に囲まれた屋敷が見えてきた。
格式のある門構えの前には、すでに数人の男女が並んでいる。
その中央に、公寛の姿があった。
「よく、いらっしゃいました。」
公寛は、静かに一礼した。
「宮司殿から、話は伺っております。」
その声に、以前のような鋭さはなかった。
ただ、瑞稀たちを迎える者としての、静かな緊張が漂っている。
「本日は、無理を申し上げ、申し訳ございません。」
瑞稀が丁寧に頭を下げると、公寛は首を横へ振った。
「いいえ。」
「花里からの頼みとあらば、断る理由はございません。」
公寛の視線が、一瞬だけ旭へ向けられる。
旭も、公寛をまっすぐに見返した。
敵意はない。
けれど、互いの存在を確かめるような、短い沈黙が流れた。
公寛は何も言わず、先に視線を外す。
「こちらへ。」
静かに背を向け、屋敷の奥へ歩き出した。
三人は、そのあとへ続く。
芽衣は、門をくぐってから周囲を見回した。
「すごいね。」
小声で呟く。
「何か、空気まで違う感じ。」
『長く祈りを重ねてきた場所だからな。』
少彦名神が答える。
『人の願いも、神の気配も、幾重にも積もっておる。』
瑞稀にも、それは感じられた。
花里神社とは違う。
ここには、長い年月をかけて守られてきた、重く静かな神気が満ちている。
けれど、その中心へ近づくほど、どこか閉ざされたような息苦しさもあった。
神に仕えるための家。
役目を守るための家。
その積み重ねが、時に人の心よりも重くなってしまうことを、瑞稀はすでに知っていた。
◇
長い廊下を抜けた先に、一つの社があった。
周囲の音が、そこだけ遠く感じられる。
「ここが。」
公寛が、足を止めた。
「八咫鏡を祀る、荒木田家の奥宮です。」
普段は、本家の当主と限られた者しか立ち入ることを許されない場所だという。
公寛が、扉を開く。
社の中には、ひんやりとした空気が満ちていた。
中央には、白い布に覆われた円形の御鏡が安置されている。
瑞稀たちは、静かに中へ足を踏み入れた。
公寛を含む本家の者たちは、入口に近い場所で控える。
「事情は、先ほども申し上げたとおり、宮司殿から伺っております。」
公寛が、口を開いた。
「月読様のもとへ、この鏡を介して向かわれると。」
「はい。」
瑞稀は、静かに答える。
「猿田毘古様より、月読様のもとへ向かえば、高天原へ続く道が開かれると告げられました。」
「……猿田毘古様が。」
公寛が、その名を静かに繰り返す。
本家の者たちの間へ、僅かなざわめきが広がった。
神の名を、あまりに身近なものとして語る瑞稀の言葉に、戸惑っているのだろう。
公寛は、一度御鏡へ目を向けた。
「鏡が道を開くかどうかは、私どもにも分かりません。」
「これまで、神託を受けるために祈りを捧げたことはございます。」
「ですが、この鏡を介して高天原へ向かった者がいるという記録は、残されておりません。」
「それでも、試させてください。」
瑞稀の声に、迷いはなかった。
公寛は、しばらく瑞稀を見つめる。
やがて、静かに頷いた。
「承知しました。」
「ただし、何が起こるかは、私どもにも予測できません。」
「分かっています。」
瑞稀は、御鏡の前へ進み出た。
旭と芽衣も、その両隣へ並ぶ。
白い布に覆われた鏡からは、まだ特別な気配を感じられない。
瑞稀は、両手を合わせ、静かに目を閉じた。
猿田毘古は、月読のもとへ向かえと告げた。
向かうべき時を、誰かが決めるのではない。
自分が決めるのだと。
ならば、今ここで、道が開かれるのを待つだけではいけない。
瑞稀は、胸の奥で自らの意思を確かめた。
月読のもとへ行く。
その先にいる須佐之男へ。
天照へ。
そして、すべての答えへ辿り着くために。
「私は。」
瑞稀は、静かに言葉を紡ぐ。
「月読様のもとへ参ります。」
「どうか、私たちが進むべき道をお開きください。」
その瞬間。
白い布の下から、淡い光が漏れた。
社の中にいた者たちが、息を呑む。
光は少しずつ強くなり、白い布の下から円い輝きが浮かび上がった。
やがて、誰も触れていない白布が、風へ持ち上げられるように静かに揺れる。
その奥にあった鏡面は、社の中を映していなかった。
白く霞んだ、一本の道。
瑞稀が御霊還しを通して何度も見たものと、同じ道が映っている。
「道が。」
芽衣が、小さく呟いた。
鏡面から淡い光が溢れ、社の床へ静かに広がっていく。
白い霞の向こうから、杖を手にした人影が歩いてきた。
まるで、初めからその道で待っていたかのように。
やがて人影は、鏡から溢れた光の中へ、音もなく姿を現した。
『――参ったか。』
穏やかな声が響く。
そこに立っていたのは、猿田毘古だった。
「猿田毘古様。」
瑞稀は、深く頭を下げる。
旭と芽衣も、それに続いた。
公寛をはじめ、本家の者たちは声を失っていた。
代々、神へ仕える家系でありながら、神の姿を直接目にすることは初めてなのだろう。
誰かが、その場へ膝をつく。
別の者も、慌てるように頭を下げた。
公寛でさえ、僅かに目を見開いたまま動けずにいる。
「……本当に。」
本家の者の一人が、震える声で呟いた。
「本当に、神が。」
猿田毘古は、その様子を穏やかな表情で見渡す。
『そう畏まらずともよい。』
『我は、道を示しに来ただけだ。』
それでも、本家の者たちは、すぐには顔を上げられなかった。
長く祈り続けてきた存在が、今、目の前へ降り立っている。
その事実を、簡単には受け止めきれないのだろう。
猿田毘古は、瑞稀たちへ視線を戻した。
『瑞稀。』
『旭。』
『芽衣。』
三人の名が呼ばれる。
『覚悟は、定まったか。』
瑞稀は、旭と芽衣へ目を向けた。
旭は、静かに頷く。
その身体の奥には、建御雷神の新たな力が宿っている。
芽衣も、不安を隠すことなく、それでも瑞稀をまっすぐに見返した。
襟元から顔を覗かせる少彦名神も、小さく頷いている。
「はい。」
瑞稀は、猿田毘古へ向き直った。
「参ります。」
猿田毘古は、満足そうに頷く。
『よかろう。』
その杖が、鏡へ向けて静かに掲げられた。
鏡面から溢れた光が、瑞稀たちの足元まで広がり、白く光る道がさらに奥へ伸びていく。
先ほどまで白く霞んでいた道の先に、暗い夜空が現れた。
月明かりさえ届かない、深い夜。
『この先に、月読がいる。』
猿田毘古の声が、社の中へ響く。
『ただし。』
『月の神へ至る道は、光の中にはない。』
『己の内にある夜を恐れる者は、辿り着くことができぬ。』
瑞稀は、道の奥へ広がる闇を見つめた。
月読が待つ場所。
その先には、須佐之男と天照へ続く道がある。
そして、父が何も語らずに見つめていた、高天原のどこかに。
母もいる。
胸の奥が、強く揺れた。
それでも、瑞稀は目を逸らさなかった。
「分かりました。」
公寛が、背後から静かに声をかける。
「瑞稀さん。」
瑞稀は、振り返った。
公寛は、まだ驚きの残る表情で猿田毘古を見たあと、瑞稀へ視線を戻す。
「私どもは、この先へご一緒することはできません。」
「はい。」
公寛は、僅かに言葉を止めた。
「それから――以前、お話しした件についてですが。」
瑞稀の胸が、僅かに強張る。
公寛は、それに気づいたように静かに首を横へ振った。
「今、ここでお答えを求めるつもりはありません。」
「お戻りになってから、改めてお話ししましょう。」
瑞稀は、少しだけ目を見開いた。
やがて、静かに頷く。
「……はい。」
公寛は、それ以上その話へ触れなかった。
「どうか、ご無事で。」
そう言って、深く頭を下げる。
短い言葉だった。
そこに、本家の跡取りとしての義務だけではない、個人としての願いが込められていることが、瑞稀にも伝わった。
「ありがとうございます。」
瑞稀も、深く頭を下げ返す。
旭は、公寛を静かに見た。
公寛も、その視線へ気づく。
二人は、何も言わなかった。
けれど、以前のような張り詰めたものは、もう二人の間には残っていなかった。
猿田毘古が、道へ一歩踏み出す。
その姿が、白い道と深い夜の境へ立った。
『さあ。』
振り返り、三人へ手を差し伸べる。
『月の神のもとへ参ろう。』
瑞稀は、差し出された手ではなく、その先へ続く道を見つめた。
猿田毘古は、導いてくれる。
けれど、進むのは自分自身だ。
瑞稀は、一歩を踏み出した。
その隣へ、旭が並ぶ。
反対側には、芽衣が立った。
三人は、自らの意思で、鏡から開かれた道へ足を踏み入れる。
冷たい光が、身体を包んだ。
背後から、本家の人々が見守っている気配がした。
けれど、瑞稀は振り返らなかった。
旭と芽衣の足音を隣に感じながら、夜へ続く道を進んでいく。
やがて、三人の姿は光の中へ消えた。
光が、静かに収まる。
社の中には、元の静かな御鏡だけが残されていた。
第三十八話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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