表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/12

5.シャロとサロンと、異端なる彼



 数日後、王太子サロンの部屋の前。

 男爵令嬢シャロ・ノルンは、扉の前でひとつ深呼吸をした。


(大丈夫、アニエス先生にも色々教わったもの!)


 そっと、扉をノックする。


「――失礼しま、」

「シャロちゃん!?」


 シャロが言い切る前に、勢いよく扉が内に開いた。

 中から大きな瞳の愛らしい顔立ちをした少年が出てきて、シャロの顔を覗き込む。


「あ、えっと」

「シャロちゃんだよね? ようこそボクたちのサロンへ! 待ってたよ」


 目の前の少年はニコニコと、笑顔で距離を詰めてくる。


「二コラ。矢継ぎ早に話しかけてはいけないよ」


 シャロが押されていると、少年の後ろからきらびやかな美青年が現れた。

 シャロは思わず目を奪われる。爵位の低いシャロでも、見たことがあるその人。


「ようこそ、シャロ・ノルン男爵令嬢。私のサロンへ」


 ウィリアム・ノーザンフィリア。

 この国の王太子にしてサロンの主催者。

 シャロを招待した本人が、出迎えてくれた。

 シャロは緊張から背筋を伸ばす。


「お初にお目にかかります、王太子殿下。二コラ様」

「はは、学院内ではそうかしこまらなくて良いよ。リラックスして、ただの先輩として扱ってほしい」


 花が綻ぶような優しい微笑み。そして度量の大きさ。

 シャロの肩から力が少し抜ける。


(アニエス先生の言う通り、優しくて器の大きい方だ……)


「ボクのことも、二コラって呼んで! ……ってあれ?ボクたちのこと、もう知ってるの?」

「はい。お名前は伺っています」

「じゃああの二人のことも?」


 気づくと、ウィリアムと二コラの背後がなにやら賑やかだった。

 二人に促されて室内に入ると、ソファで二人の男が揉めていた。


「ほーらお前がぐずぐず言ってるから本人が来ちまったじゃねえか!」

「ぐずぐず言うだと? 僕はただ彼女を招く必要はないと言っているんだ!」


 鍛え上げられた体を持つ、声の大きい青年。

 厳しい表情を浮かべる、神経質そうな青年。


(……口喧嘩してるってことは、あの二人かな……)


 シャロは先日教わった知識を頭で思い浮かべながらも、言葉を飲み込んだ。


「二人ともそこまで。アーネスト、君の意図も理解するけれど、一旦ここは矛を収めてくれないか」

「……承知いたしました」


 ウィリアムの言葉に、二人の攻防が収まった。

 荒れた空気を正すため、全員が着席をして、仕切り直しをする。


「それでは改めて。私はウィリアム・ノーザンフィリア。ここのサロンの主催者だ」

「ボクは二コラ・ヴェルヌ!」

「そしてこの二人が……」


 ウィリアムが促した先に視線を移す。


「オレはドミニク・ダートンだ! 噂は聞いてるぜ、新入生!」

「……アーネスト・クラヴィエ。言っておくけれど、僕はまだ君が参加するのを認めたわけじゃない」


 アーネストの棘のある言葉に思わず苦笑いが出る。

 シャロは全員に向き直る。


「シャロ・ノルンと申します。至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします!」


(……あれ?)


 そこでふと、シャロは違和感を覚えた。

 一人、足らない。

 恐る恐る手をあげて、発言する。


「サロンにはもう一人いらっしゃると聞いたのですが……」


 シャロの言葉を聞いた瞬間、一気に場の空気が淀んだ。

 それぞれが「あー……」「それなぁ……」と言葉を濁している。

 そのリアクションに、シャロはアニエスの言葉を思い出した。

「学院の異端児」。彼はよっぽど、この学院ではイレギュラーらしい。


「……そのことも含めて、君を招待した理由を私から説明させてほしい」


 ウィリアムが静かに切り出す。

 不在のアロイスは、そもそもあまり学院に顔を出さない人間であること。

 各属性の有力な魔法使いをサロンに引き入れているが、アロイスがこの状態のため闇魔法使いは事実上不在扱いであること。


「……君を招待したのは、高位魔法を発動した君を保護するためでもあるけれど、闇魔法使いを補うためでもあるんだ。特例扱いとしてね」


 なるほど、とシャロは頷いた。

 それならば、サロンに招待されたことも、プライドの高いアーネストがシャロの特例加入に否定的なことも理解できる。


「そういや随分オレたちのこと調べてきたんだな?新入生なのに詳しいじゃねえか」


 空気を切り替えるように、ドミニクが切り出した。


「これは、アニエス先生に教えていただいたんです!」


 シャロも笑顔で答える。

 しかし。


「……アニエス?」

「えっと……」

「……誰だっけ?」

「……ああ、そうか。アニエス先生。保健医の先生だったね」


(……ん?)


 サロンの面々の反応に、シャロは少し引っかかる。

 そんなに先生の名前を覚えていないものだろうか。


(……でも用事がなければ保健室にも行かないか)


 シャロはその違和感について、深く考えることをやめた。



 その後、シャロを迎え入れたサロンメンバーは、和やかなひと時を過ごした。

 サロンのメンバーの軽快なやり取りに、シャロも楽しい時間を味わった。

 そうする内に日が傾いていき、シャロは一足先に帰ることにした。


「今日はありがとうございました!」

「ああ。明日からよろしく頼むよ、シャロ」


 軽やかに部屋を後にするシャロを見送る男たち。


「シャロちゃん良い子だよね~」

「ああ、どこぞの誰かさんとは違って、な」

「何か言ったか?」


 おのおのがシャロへの印象を語る。

 彼女は、このサロンに新しい風を吹かせてくれそうだ。


「ああそう言えば、」


 ウィリアムが話しながら振り返る。

 すると。


「っ……!」


 ほんの一瞬のことだった。

 他の3人が、眠りについている。

 ウィリアムがそれを察知した途端、まぶたが異様に重くなる。


「これ、は……!」


 こんな“異常”を起こせる者など、一人しかいない。


「彼が……来たのか……」


 ウィリアムはその場に倒れこむと、意識を手放した。


 *


 シャロは一人、夕暮れに染まる廊下を歩いていた。

 遅くなる前に、自宅へと帰らなければ。

 シャロは急ごうとしたが、ふと、足が止まってしまった。

 廊下の真ん中で、自分の呼吸の音だけが聞こえる。


 ――静かすぎる。


 外の景色は変わらない。

 なのに、あらゆる音が聞こえてこない。

 生徒の声も、馬車の音も。

 まるで、世界から誰もいなくなってしまったような――。


「――君が、シャロ・ノルンか」


 背後から、静かな低音の響きが聞こえる。

 反射的に声の方を見る。


「間違いない。シャロ・ノルンだな」

「……俺の名は知っているだろう?」


 インクを流したような黒髪に、夜空のような深い青の瞳。

 瞳にはくっきりと、シャロの姿を捕らえていて。

 ――目の覚めるような、うつくしいひと。


「俺はアロイス・レーンベルク。……君と同じ、闇魔法使いだ」



6話は22時ごろ更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ