表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/44

36.幕は降り、最後に残されたのは



「終わったの……?」


 シャロのつぶやきが、静まり返った場に響く。

 秩序の神の姿は、跡形もなく消え去っていた。


 シャロがおそるおそる、私の方に視線を向ける。

 この光景は、キーワルでラスボスを倒した時と同じだ。

 つまり――終わったのだ。


 シャロに向かって、大きく頷く。


「……やった、やったー!」


 シャロの喜びの声が、冬の夜空に響いた。


「よくやった、シャロ!」

「シャロちゃーん! かっこよかったよー!」


 周囲のサロンメンバーたちも、歓喜の声をあげている。

 ニコラは喜びのあまりシャロに飛びついている。アーネストはそれを制しながらも、微笑んでシャロに話しかけている。ウィリアムやドミニクも、安堵の息を漏らしながら笑みを零していた。


 アロイスが静かにシャロに近づいていくのを見て、私もシャロに駆け寄ろうとした。

 しかし――視界の端で、テオドールが崩れ落ちる姿が見えた。


「っ、テオドール先生!?」


 方向転換し、テオドールの元へと駆け寄る。

 テオドールは立っている体力もないようで、地面に倒れ込んだままだ。


 慌てて屈みこんで様子を見ると、意識ははっきりとしていた。


「ああ、アニエス先生……すみません、さすがに力を使いすぎました」

「それはそうでしょう!? ……神を解析するなんて大業を成し遂げたんです、この程度で済んでいるのが不思議なくらいですよ……!」


 テオドールの体はあちこちに傷を負っているが、王宮医務官の回復魔法を受ければ数日で全快できるだろう。

 意識も、ちゃんと正気を保っている。


「そこはまあ、『観測者』という立場のおかげということで……」


 彼はそう言って、苦笑いを浮かべる。

 テオドールの異変に気付いたのか、ウィリアムがドミニクに、医務官を呼びに行くよう指示している声が聞こえた。


 医務官が到着するまでの間に回復魔法を使おうとしたけれど――。


「だめですよ、アニエス先生」


 テオドールは荒い呼吸をしながら、私を制した。


「アニエス先生も、消耗してるでしょう……? ッ、私のことは、大丈夫です……王宮医務官の方にお願いしますから」


 私を気遣って、治療を拒む。

 そう言われても、その姿はあまりにも辛そうで……どうにかしてテオドールの助けになりたくて。

 残りの魔力を総動員して、痛みを和らげる魔法をかけた。


「……ありがとう、ございます……アニエス先生」


 痛みが和らいだからか、テオドールの呼吸が多少落ち着いてきた。

 そうしているうちに、生徒たちが心配して集まってきていた。


 生徒たちもそれぞれ怪我をして、魔力を消耗させている。

 しかし目に見えて消耗が激しいのは、やはりテオドールだった。

 シャロは喜びも束の間、不安そうな顔をしてテオドールを見ている。


「……随分無茶な作戦をとったんですね、テオドール先生」


 魔法をかけながらそう語り掛ける。

 テオドールが神を解析し、アロイスが急所を突く。

 作戦としては合理的だが、二人に負荷がかかりすぎる。


「相手の弱点を突くことは重要ですから。神を相手取る分、急所を突けなければ勝てない可能性も考慮したんです」

「私とアロイスくんなら、最初から神に敵視されている。私たちが多少小細工をしたところで、神にとっては想定内でしょう……それを逆手にとって、自由に調べさせてもらいました」


 いつの間にか近くに来ていたアロイスが、テオドールの言葉に首肯していた。

 その話を聞いていたシャロは、二人に向かって頭を下げる。


「テオドール先生とアロイス先輩のおかげで、秩序の神様に私の意志を伝えることが出来ました……! 本当に、ありがとうございます!」


 シャロの言葉に、アロイスが嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。


「シャロの助けになれたなら、それで十分だ」


 満たされたように言うアロイス。シャロもそれに嬉しそうに笑い返す。

 ……この二人はもう、私のサポートがなくても大丈夫だろう。


「でもテオドール先生とアロイスが手を組んでたなんて、ボク知らなかったな。いつの間に?」

「……そうすべきだと判断した時にだ。俺たちは同じ結果を欲していたからな」


 いつも通りのアロイスの言葉に、全員が思わず笑みをこぼした。


「まあ、そういうことです」


 テオドールもそれ以上、何も言わない。

 二人だけの事情があるのだろう。


 そんな会話をしているうちに、王宮医務官が到着した。

 全員の怪我を治療するために、私たちは王宮治療院に移動することとなった。

 テオドールは一足先に運ばれるらしく、私は咄嗟にテオドールに駆け寄る。


 テオドールが倒れたことに気を取られて、まだ実感が湧いていないが……これでキーワルのシナリオは、ほとんど終わりだ。

 私がサポートキャラとして出来ることは、もうない。

 ……ただ、あとひとつだけ、やり残したことがある。


「テオドール先生」


 担架に乗せられたテオドールが、視線をこちらへ向ける。


「今度、テオドール先生にお話ししたいことがあります」


 やり残したこと。

 まだテオドールに話していない、私のこと。

 ――それを、話さなければ。


 テオドールはその言葉を聞いて、ゆっくり目を細める。


「……貴方の話であれば、いつでも聞かせてほしい。……お待ちしています」


 彼が運ばれていく姿を見送って――私は大きく、息をついた。


 長かった。

 前世の記憶を思い出してから、今日この日まで。

 最初はただ、テオドールを生存させたくて足掻いていた。

 それから、シャロやアロイスたちを見守るようになって……。

 いつしかみんなのことを、大切に思うようになった。

 全員生存エンドへと、導きたかった。

 そうして試行錯誤する毎日も、今日で終わりだ。


 ――誰一人欠けることなく、今日を乗り越えられた。


 *


 そうして冬至の日を越してから、10日ほどが経過した。

 シャロは普段通りに学院へ通っている。

 あれだけの戦いがあったというのに、世界は驚くほど変化が見られない。

 世界は普段と変わらず、穏やかだ。


(そうだよね……他の人たちには何があったかなんて、わからないか)


 シャロたちは治療を受けたあと、数日してから王宮に呼び出された。

 秩序の神と交戦した、その結果を報告するために。

 その時の国王の表情を思い出す。


『よくぞ戦い抜いた。汝らを誇りに思う』


 国王の言葉に、やっと自分たちは世界のために戦い抜いたと実感が湧いてきた。


(みんな、怪我も治ったみたいだし……やっと普通に生活できるのね)


 シャロの傷は王宮医務官の治療の甲斐あって、あっという間に治った。

 一番重傷だったテオドールは数日の間治療を受けていたが、それも終わり、先日学院へと復帰を果たした。


 これで、いつも通り。

 何もかもが終わった。


(――でも、まだ残ってる)


 シャロは授業を聞きながらも、思いを巡らせる。


 今は真冬だ。

 あとほんの数カ月で、入学してから1年が経つ。

 そうすると――最高学年であるアロイスは、卒業してしまうのだ。


(先輩が卒業しちゃったら、もう今までのようには会えなくなる)


 アロイスは公爵家。シャロは男爵家だ。

 神との戦いも終わり、学院を卒業してしまえば、アロイスと会うことも難しくなる。


(でも、私は……『シャロ』の願いのために、『鍵』として頑張ったんだもの――!)


『貴方の隣は、私が良い』


 生徒夜会の時に、胸に秘めた想い。

 それをどうしても、アロイスに伝えなければ。



次回は明日20時更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ