3.チェックメイトには早すぎる
「っはああ……」
思わず大きな溜息が出る。
訓練場から保健室に戻る。やっと緊張から解放された。
疑惑の視線。イレギュラーな事態。
(転生ってもっとこう……前世知識で無双とか、そういうもんじゃないの……?)
頭を抱えたくなる。
特に派手な動きをしてるわけじゃないのに、なんで私、詰みかけてるの?
「す、すみません、アニエス先生……。ご迷惑をおかけします……!」
鈴を転がしたような声が背後から聞こえた。
慌てて振り返る。
そうだ、シャロと一緒に戻ってきたんだった。
申し訳なさそうな顔のシャロ。
まさにヒロイン、といった雰囲気で、守ってあげたくなる。
「ああごめんなさい! あなたに向けたわけじゃないのよ。……それに気にしないで、生徒の体調を診ることが私の仕事だもの、どんどん頼ってほしいわ」
「あ、ありがとうございます!」
ぱっと明るい笑顔になるシャロに、張り詰めていた心が癒される。
推しはテオドールだけど、もちろんシャロも大好きなキャラだった。
(そもそもヒロインのこと好きになれないと、乙女ゲーの周回はしんどいし)
シャロに検査を受けてもらっている間、軽く雑談を交わす。
「担任のテオドール先生はどう? 怖かったりしない?」
「え? 特に怖さとかは、私は感じないですね……。とっつきにくい雰囲気は正直感じますけど、でも授業の質問とかは丁寧に答えてくれます!」
「そうなの……」
生徒には丁寧に指導する穏やかな先生。
これは、ゲーム通りだ。
テオドールのあの追究する姿勢は、テオドールルートに入らないと見られない。
(……ん? ……いや、まさか……)
その時。検査終了の合図が鳴り、私の思考は打ち切られた。
検査結果を見る。
そこには確かに、シャロが闇魔法の適性があることが記載されていた。
しかもその適性が、異様に高い。
「なんで、私に闇魔法が……」
戸惑うシャロ。彼女の家格を思えば、当然だ。
不安そうに揺らめく瞳に、慰めの言葉をかけようとした。
しかし。
「……でも、これは神様が私に与えてくださった魔法ですから! 使いこなせるように、頑張ります」
全然大丈夫だった。
そうだった。シャロはものすごく度胸のあるヒロインだった。
そんな彼女にファンがつけた愛称が『クソ度胸ヒロインシャロちゃん』だ。
私が想像するよりもずっと彼女はタフなのだろう。だからこそ、私はそんな彼女を支えたい。
「強いのね、シャロさん。……私もあなたのこと、全力でサポートするわ」
「ありがとうございます! ……戻ったら、みんなにも謝らなきゃ」
突然のこととはいえ、みんなを驚かせちゃいましたから。
彼女はそう笑って言った。
調子を取り戻したシャロに安堵したあと、彼女を教室に戻すことにした。
その後、検査結果を伝えるためテオドールを呼び出した。
「……ということで、こちらの検査結果でも闇魔法の適性あり、ということに落ち着きました」
「承知しました。……なるほど」
検査結果を静かに読み込むテオドール。
ここでシャロに興味を持ってくれれば、死亡フラグ回避に繋がるかもしれないけど……。
(でも今のところそんな気配はないわね……)
こうして見ていると、生徒の指導が丁寧なただの教師だ。
――ふと、疑問が生まれる。
あれほどの探究心を秘めながら、どうして彼は教師をやっているのだろう。これはゲームでは明かされていなかった。
「……テオドール先生は、」
私の声に、テオドールが視線をあげる。
「どうして、教師になられたんです?」
その瞳に、一瞬驚きの色が浮かぶ。
しかしすぐにいつも通りの底の知れない瞳に戻る。
「……アニエス先生は、この世界に疑問を持ったことはありますか?」
「……いえ、特には」
私の転生という疑問はあるが、それは明かせない。
「この世界は時折不自然なほど――偶然が重なることがある」
「まるでそうなるように、あらかじめ駒を動かしていたような」
「ただ、それを一人で解析するには複雑すぎる」
「教師になったのは……その『手段』のため、としましょうか」
そう語る彼に、深く息を飲んだ。
彼は本気で、世界を疑っている。
そのために、私を探っているなら――まだ打てる手が、あるかもしれない。
「ところで、アニエス先生。ひとつ、厄介なことが」
「はい?」
テオドールが話を切り替える。
その表情は少し苦々しげだ。
「彼が……“アロイス・レーンベルク”が、シャロさんに目を付けたと」
「……え?」
アロイス・レーンベルク。
キーワルで最も人気があり――最も攻略難易度が高いキャラ。
なんでこのタイミングで?シナリオどうなってるの?
もしこれがアロイスルートなら、テオドールはどうやって生き残らせよう?
一気に疑問が頭を埋め尽くす。
疑問でいっぱいになって、だから。
彼の視線に、気づかなかった。
「どうしました? アニエス先生」
「……なにか“考えなければならない”ことでも、お有りですか?」
――探る瞳。
油断した。次から次へとイレギュラーが出てきたから。
「……あなたには何手先まで、見えているんです?」
チェックメイトには、早すぎる。
【テオドール・ローレンス】???/100% 「繧窶…繧ィ…」
【アニエス・ダニエ】解析中 ???/100%
ここまでお読みいただきありがとうございました!
続きの4~6話は明日更新予定です。4話は20時ごろを予定しています。
少しずつ物語が見え始めてくるので、引き続きお付き合いいただけますと嬉しいです!




