28.進む盤面と突飛な彼
シャロとニコラが夜会に出てからしばらく経ったある日のこと。
「私の闇属性の調査結果が出たんですか?」
ウィリアムに召集され、サロンメンバーと教師二人が揃った。
ウィリアム曰く、「シャロの闇属性についての調査結果が出た」。
当事者であるシャロをはじめ、全員が神妙な面持ちでウィリアムの話を聞いている。
「ああ、待たせてしまって申し訳ないね。まずはシャロ自身の魔法属性だけれど……これについては王宮神官たちも、闇属性だという結論を出した」
まず、話の前提を共有する。
今までシャロの検査は学院内で行われていた。
「学院内の検査通り、闇属性で間違いないということですね」
アーネストが軽く頷く。
ウィリアムもそれに首肯すると、話を続けた。
「『鍵』は光属性である、ということが王家での認識だった。しかしこのような事例が過去にないか調べてみたんだ。そしたら……」
シャロは固唾を呑む。
「過去に一例だけ、同様の事例があったそうだ」
新たに発覚した事実に、アニエスやテオドールも表情を変える。
ウィリアムは用意した資料を全員に見せた。
「これは歴代の『鍵』の一覧なんだが……約二百年前のこの『鍵』は、闇属性だったと記されている」
全員がその資料を覗き込む。
資料には確かに、その『鍵』の人物の名前の横に、特記事項として『闇属性』と記されていた。
「シャロだけじゃなかったんだな……」
ドミニクが静かに零す。
ウィリアムは更に、その闇属性の『鍵』の詳細資料を広げる。
「当該の『鍵』は男性だった。彼個人については、闇属性の他に目立った特徴はなかったよ。ただひとつ、気になる点があるとすれば……」
ウィリアムの指が、資料上のある一文を指し示す。
全員の視線がそちらに集中する。
その一文を、ニコラがゆっくりと読み上げた。
「『当時、闇魔法使いの減少が著しく、闇魔法の衰退が危惧されていたため、当該人物はレーンベルク家の婿養子となり闇属性を強化する礎となった』……?」
全員の視線が、アロイスの方に向く。
アロイスはひとつも表情を変えずに、その視線に答えた。
「そんなことは知らん」
「だよね……」
ニコラは諦めたように返す。
それぞれがアロイスから視線を外すなか、シャロだけが静かにアロイスを見つめていた。
「この資料を見ると、この闇属性の『鍵』が現れた当時は、実際に闇魔法使いの人口が大幅に減少していた。そこで今現在の闇魔法使いの人口を調べてみたんだ」
ウィリアムがまた別の資料を提示した。
「これを見るとここ数年、闇魔法使いの減少率が高いんだ」
「つまり、過去と同様の状態にあると?」
「おそらくは」
テオドールの問いかけに、ウィリアムは首肯する。
アーネストも続いて疑問を口にする。
「秩序の神は、『鍵の歯車が狂った』と言っていました。これを考えると、彼女が闇属性化したことは秩序の神にとっても不測の事態だったのでは?」
「そうだね。そのためにアニエス先生を補助とした、とも言っていた」
様々な情報や推測が飛び交い、それぞれが頭を悩ませる。
その中でアロイスだけは、過去については興味がなさそうな顔をしていた。
「単純に、秩序や均衡が重視される世界だって言うなら、世界の調整役の『鍵』が闇属性を補うために変化したって話じゃねえか?」
ドミニクが頭を搔きながら顔を顰めた。
「こういった考察は苦手なんだよ」とぼやきながら。
ニコラも考えすぎて疲れたのか、ソファにもたれながら口を出す。
「ボクにもその方が分かりやすいなぁ。自分が編み出した魔法が意図しない挙動をするのはよくある話だし。秩序の神様も、『鍵』のシステムがそういう風に働くなんて思わなかったんじゃない?」
話が煮詰まってきた。
ウィリアムやアーネストまでが、難しそうな表情をしている。
生徒たちの表情を見て、テオドールはひとつため息をついて切り出した。
「今ある情報だと、ここまでが推理の限界でしょう。ドミニクくんの仮説も、整合性はとれる話ではあります」
テオドールに促され、生徒たちは顔をあげる。
疲れた顔の生徒たちに、アニエスも声を掛けた。
「これを現時点での結論として、今日はここでおしまいにしましょう? 生徒夜会も近いんだから、無理はいけないわ」
「はーい」
アニエスの言葉に、シャロやニコラは表情を和らげて答えた。
それぞれがソファから立ち上がり資料を片付ける中で、アロイスが静かにシャロに近寄った。
「シャロ」
「アロイス先輩」
シャロがにこやかに答える姿を、アニエスは横目で見ていた。
サポートキャラであるという自負が、アニエスの心をはやらせる。
しかしシャロは、アニエスの視線には気づいていない。
「どうしましたか?」
「……普通は、いきなり行動を起こしたりはしないそうだな。何かをする前には宣言をすると。……だから、君に言っておこうと思ってな」
「はい?」
何を意図しているのか分からないアロイスの言葉にシャロは首を傾げる。
それを見守る周囲の者たちにも、アロイスの言葉の意味は通じていなかった。
しかし、次の一言で場の空気は一変する。
「生徒夜会、君のパートナーは俺が良い」
「……ええっ!?」
唐突なアロイスの言葉と、シャロの驚きの声。
それに混ざって、アーネストたちの困惑する声が聞こえる。
アロイスは、周囲のことなどまったく気にせず続けた。
「君の隣に、他の誰かが立つのは許容できない。たとえウィリアムやアニエスであっても」
「殿下は別の方をエスコートされますし、アニエス先生はそもそも参加できませんよ!」
(突っ込むところそこなの?)
アロイスとシャロのやり取りに、ニコラは内心ツッコミを入れる。
口に出さないのは、ニコラなりの優しさだ。
慌てふためくシャロの目の前に、アロイスの手が差し出される。
「シャロ。……俺を選べ」
暗い海のような、深い色のアロイスの瞳。
それはただシャロだけを映している。
周囲のウィリアムたちも手を止めて、二人の世界を見守っている。
シャロは何度か、アロイスの手と瞳を交互に見て。
大きく息を飲みこむと、そっとその手をとった。
「……よろしくお願いします、アロイス先輩」
「ああ。……嬉しいよ、シャロ」
普段まったく動かないアロイスの表情が、花が咲いたように綻んだ。
周囲の面々も、安堵の息を漏らす。
「君のドレスは俺が用意しよう。特注で作らせる」
「ま、待ってくださいアロイス先輩!?」
シャロはアロイスに翻弄されながらも、満更でもなさそうに笑っている。
シャロとアロイスの様子に、アニエスは一人満足そうに微笑んでいる。
そんなアニエスの横に、いつの間にかテオドールが接近していた。
その様子に二コラが気づく。
ニコラの目には、なにやら小さな声で言葉を交わすテオドールとアニエスが見えた。
「……ここは彼の分岐ですか?」
「テオドール先生! ……お察しの通りです」
「そうですか」
なにやらニコラには分からない言葉で楽しげに話す二人に、ニコラは嘆息する。
(あの様子じゃ、そりゃ噂になるよ……)
「殿下ぁー。ボクも婚約者ほしーい」
「ニコラ。……感化されたのかい?」
ニコラの嘆きを、ウィリアムは苦笑しながら聞いていた。
今週もお読みいただきありがとうございます!
評価・ブクマもありがとうございます。執筆の励みになっております!
次回は明日20時更新です。




