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12.推しですら利用して



「取引、ですか」


 切り出された言葉に、思わずたじろぐ。

 テオドールは知識欲の権化のような性格だ。私が彼の興味を引く情報を差し出した時点で、彼が私自身に興味を持つことも予想出来ていた。


「私も以前『世界の鍵』について調べようとしましたが……大体が具体性のない記述であり、信憑性は薄いものでした。事実として調べるには正直、非現実的すぎる」


 テオドールであれば、『世界の鍵』の存在にもたどり着いているだろう。これも想定の範囲内だ。


「しかし、貴方は『世界の鍵』を当然の事実として追っている」

「その根拠こそが――シャロさんについての情報源であり、アロイス・レーンベルクに接触した行動と繋がっているのではないですか?」


 ……やはり、彼は鋭い。

 私の行動や言葉のひとつひとつを拾い上げ、その言動の裏を考察している。

 ただ、素直にそれを肯定することもできない。


「……なぜそうお考えに?」

「貴方が『鍵』か『観測者』であったとして、言動が少々不自然だ。貴方はどちらかと言うと『鍵』や『観測者』の外側から干渉しているように見える」

「……なるほど」

「貴方の動きから考えれば、シャロさんやアロイスが『鍵』『観測者』のいずれかであると考えるのが順当でしょう」


 もうここまでたどり着いている。

 アロイスのことはともかく、シャロが鍵ではないかという私の前提を読まれている。


「……随分と私のことをよく見ていらっしゃるのね。なんだか恥ずかしいわ」


 はぐらかすように微笑む。否定も肯定もしない。

 私の動揺を悟られてはいけない。

 テオドールを救いたいという私の願いだけは、知られたくない。


「しかし、それだけではありませんよね?」


 背筋が、凍る。


「貴方の行動にはひとつ、不自然な点がある」

「貴方がシャロさんやアロイスのために動いているなら……なぜ私を利用しようとしない?」


 彼は恐ろしいほどに、自分の有用性を知っている。


「シャロさんの情報を渡した時点で、貴方は私を利用する意図があった」

「なのに貴方はそれ以上私に何も言わなかった。それならば……貴方にはシャロさんのこと以上に、隠匿しなければならない事情がある」


 違いますか?

 彼は静かに私に問いかけた。


 言葉が、出てこない。

 見抜かれている。彼の指先は、私の秘密に届いている。

 彼は終始笑みを浮かべていた。

 いつもの愛想笑いとは違う、好奇心に満ちた目をして。

 どうしよう。

 それだけは、語るわけにはいかない……!


「ですがね、アニエス先生。私はそれを無理やり聞き出したいわけではないんです」

「……はい?」


 肩透かしを食らった。

 ここまで推測しているのに、なぜそこで踏みとどまるの?

 狐につままれたような顔をしていると、テオドールは軽く笑って続けた。


「簡単に答え合わせをしては面白くないでしょう。……私に話せないことは話さなくて構いません」

「貴方の側にいれば、世界についてまたひとつ知ることが出来る。……貴方がなんのために動いているのかも」

「私はただ、貴方の傍で『知る』機会がほしい」


 彼は心から、『知る』ことを楽しんでいる。


「……それで、取引ですか」

「ええ。貴方の傍にいる対価として、貴方が望むものは出来る限り解析しましょう。……これでも足らないなら、また取引材料を用意しますが」

「いえ……」


 彼の提案は、魅力的だ。

 彼の魔法があれば、より早く彼の死亡フラグを折る方法を拾えるかもしれない。

 ……私は“アニエス先生”として、テオドールのことだけに集中するわけにもいかないのだから。


(本当は真実に近づいてほしくないけれど……このままテオドールの死を迎えるのだけは、避けたいもの)


 テオドールを守るためなら、手段は選ばない。

 ……例えテオドール自身を利用し、欺いたとしても。


「……意外と紳士なのね、テオドール先生。……分かりました。その取引に応じましょう」


 これは精一杯の虚勢だ。

 これ以上は踏み入らせないために。

 ……自分の死を簡単に受け入れてしまう人に、未来の死を予言したって回避できるわけがないのだから。



 かくして取引は無事に成立した。


「……なんなのよテオドール……!!」


 帰宅して自室に戻り、ベッドの上で大の字に寝転がる。

 はしたない恰好だけど許してほしい。本当に疲れた。


「本当にあの目は慣れないわ……」


 どこまでもこちらの内側に入ろうとする視線。

 ゲーム越しでだってぞっとしたのに、生で見る緊張感といったらない。

 ……それはともかく、テオドールの協力は得られるようになった。

 それは良いことなんだけれど……ひとつ、気がかりがある。


(あの感じ……テオドールルートの序盤によく似てるのよね……)


 ゲームではシャロの特異性に興味を持ったテオドールが、今日のようにシャロを知ろうと接触することでテオドールルートが始まる。

 ルートが始まれば生存できる確率は上がるけれど……。


(それは相手がシャロちゃんだからでしょうしね……)


 攻略対象がヒロイン以外に恋をした場合の想定などしたことがない。

 そもそも、キーワルは友情エンドもある。

 ……テオドールルート終盤の、ヒロインにしか見せないあの表情を、見たくないと言ったら嘘になるが。


「ん~~~なしなし!そもそもこれ以上不確定要素増やしたくないもの!」


 今は彼を生存させることだけ考えよう。

 これがテオドールルートだとして序盤も序盤だ。友情エンドになる可能性もある。

 ゲームで見た甘い彼は、私の記憶の中に押しとどめる。

 テオドールが生きていることだけが、私の願いなのだから。



【テオドール・ローレンス】???/100% 「アni⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎⬛︎たi」




次回はドミニク編です。

20時ごろ更新予定です。

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