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8. それはあまりにも眩しくて

 それから二週間ほどが過ぎ、図書館での集会も3回目を終えた頃。リネアは王宮の庭園に足を運び、薔薇のトンネルの下をゆっくりと歩いていた。


(フレドリカ公女、クラースの前で一生懸命になって本当に可愛らしいわ)


 2回目の集まりから司書のクラースにも参加してもらっていたが、三人で初めて会話したときは少し大変だった。

 フレドリカが想い人であるクラースを意識しすぎて、かなり緊張してしまい、読書会のときの比ではないほど言葉に詰まってしまったのだ。


 しかし、クラースはそんなフレドリカを前にしても、急かしたり戸惑いを見せたりすることなく、終始落ち着いて耳を傾けていた。


 それが元々の冷静沈着な性格ゆえなのか、フレドリカを思いやってのことなのかは分からなかったが、そのときの振る舞いとしては間違いなく正解だった。


 おかげでフレドリカも徐々に平静を取り戻し、終盤くらいには「多少たどたどしい」程度にまで持ち直すことができた。


 それからクラースが司書の仕事に戻っていったあと、フレドリカがリネアに何か言いたそうに目で訴えてくる姿も愛らしかった。


「どうかしましたか、フレドリカ公女?」とリネアが尋ねると、フレドリカは頬を赤く染めながら「……もしかして、ご存知だったのですか?」と尋ね返してきた。


「ご存知って、何がですか?」

「ク、クラース様のことです……」

「クラースのこと? マイエル伯爵の三男で、王宮図書館の司書として真面目に勤務し、特に婚約者もいないことくらいしか知りませんが……公女は私が何を知っていると思われたのですか?」

「……っ」


 フレドリカがさらに顔を赤らめる。さすがに意地悪をしすぎたかもしれない。リネアは揶揄ってしまったことを謝ると、三人で話していたときより少しくだけた口調で聞いてみた。


「公女はクラースのことが気になっているのね?」


 フレドリカがぱっちりとした目をさらに大きく広げて固まる。それから、恥ずかしそうに視線を逸らして、こくんとうなずいた。


「……幼い頃、一度だけお話ししたことがあるのです。お母様が屋敷の庭でお茶会を開いたときに、クラース様もいらっしゃっていて……」



 ──その日、いつもより体調がよかったフレドリカは、お茶会の様子を見ようと、ひとりでこっそり部屋を抜け出した。


 ちょっとした冒険のようで心が弾み、せっかくだからと広い庭園をあちこち寄り道して楽しんでいた。


 しかし、よく晴れて日差しが強かったせいか、フレドリカは途中で気分が悪くなってしまった。侍女も連れておらず、お茶会の席からも見えない場所。助けを求めるための大声も出す気力がなく、どうしようかと思ったとき、「大丈夫ですか!?」と誰かが駆け寄ってきてくれた。


「気分が悪いのですか? あそこの木陰で休みましょう」


 フレドリカと同い年くらいの少年は、そう言ってフレドリカの体を支えて木陰に連れていくと、自分の上着を枕にしてフレドリカを横たわらせた。


「今、大人の人を呼んできます。すぐに戻ってくるので安心してください」


 フレドリカは今にも気を失いそうで返事もできなかったが、少年はお茶会をしていた貴婦人たちに急いで事態を知らせ、フレドリカのもとへ案内してくれた。

 そのおかげでフレドリカはすぐに医者に診てもらうことができ、体調もそれほど悪化にせずに済んだ。


 のちにその少年がクラース・マイエル伯爵令息だったことを知り、以来クラースのことがずっと気になっていたのだった。




「──クラース様は、私の恩人で初恋の方なのです……」


 はにかみながら打ち明けるフレドリカの表情は、リネアが思わずドキッとするほど可憐だった。


 そんなフレドリカとのやり取りを思い出し、リネアが薔薇のアーチを見上げる。


 恋するフレドリカの想いを秘めた眼差しも、隠しきれずに赤らんだ頬も、緊張でうわずる声も、リネアにはすべてが眩しく、愛おしく感じられた。


 自分も彼女のように、純粋な気持ちで誰かに恋をしてみたい。そう思わずにはいられない。


「……羨ましい」

「何がですか?」


 突然背後から話しかけられ、リネアは心臓が止まるかと思った。他に人はいないと思っていたのに。


 動揺を悟られないよう、ゆっくりと声の主を振り返ると、背の高い美丈夫と目が合った。白銀の髪に、雪解け水のように透き通ったアイスブルーの瞳。綺麗な薔薇のトンネルが霞んで見えるほど整った容姿。一目で彼が誰なのかが分かり、リネアの顔がこわばった。


「……シベリウス公爵」


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