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7. 意外な共通点

「──それでは、本日の読書会はここまでとしましょう。皆さんのおかげで有意義な時間を過ごすことができました」

「こちらこそ、とても貴重なひと時でした」

「ぜひまたお誘いいただきたく存じます」


 令嬢たちが敬意のこもった表情で挨拶を返してくれる。

 リネアにはそのことが嬉しくてたまらなかった。


「ありがとうございます。それではまた読書会にお誘いしますね」


 リネアも心を込めて返事したあと、未だ暗い顔色をしているフレドリカ公女に視線を移した。


「フレドリカ公女は少しこちらに残っていただけますか?」

「えっ……は、はい、かしこまりました……」


 フレドリカは目に見えるほど手を震わせながら、深々とお辞儀した。



◇◇◇



 他の令嬢たちがみな帰ったあと、フレドリカはリネアの前でうつむきながら謝罪した。


「た、大変申し訳ございません……私のせいで読書会の雰囲気を壊してしまい、お詫びのしようもございません……。今後は二度とこのような場に参加しないよう──」

「待ってちょうだい」


 リネアがお詫びの言葉を遮ると、フレドリカはびくりと肩を揺らした。謝罪も受け取ってもらえないほど、王女の怒りを買ってしまったのだと思っているようだった。


「ごめんなさい、私が誤解させてしまったようですね……。公女に残っていただいたのは、謝罪の言葉を聞くためではありません」

「で、では一体何のために……?」

「公女をそんな顔色のまま帰らせるわけにいかないでしょう? 具合が落ち着くまで、少し休んでいただいたほうが良いと思ったのです。それに、謝罪をすべきなのは私のほうです。せっかく参加していただいたのに、ご負担をおかけして申し訳ありません」


 リネアが謝罪の気持ちを伝えると、フレドリカは勢いよく左右に頭を振った。


「と、とんでもない! 王女殿下には何の責任もございません……! 私が上手くお話しできなかったのが悪いのです。今日の読書会をとても楽しみにしていたのに、大勢の前で話すのが不慣れで緊張してしまって……本当に悔しいですし、自分が情けないです……」


 フレドリカの瞳が涙で潤む。

 リネアはフレドリカにそっとハンカチを差し出した。


「たとえつっかえながらでも、最後までやり遂げた公女は立派でしたよ。それに、やはり主催者である私の配慮が行き届いていなかったのは確かです。ですから、そのお詫びのためにも、公女が緊張せずにお話ができるよう手伝わせていただけませんか?」

「え……? 王女殿下がお手伝い……?」

「ええ、これから私と公女、それからもう一人誰かを誘って、一緒にお喋りをする練習をしましょう」

「そ、そんな……王女殿下にご面倒をおかけするわけには……」

「面倒なんかじゃありません。公女が読書会を楽しみにしてくださっていたなら次回も参加していただきたいですし、公女ともっと仲良くなりたいので。公女はいかがですか? もしご負担なら無理にとは言いませんが……」

「い、いえ……私も、上手に話せるようになりたいですし、王女殿下とももっと仲良くなれたら嬉しいです」

「まあ、それならよかったです! では、また改めて招待状をお送りしますね。これからよろしくお願いします」

「こ……こちらこそ、これからよろしくお願いいたします」



◇◇◇



 それから五日後。王宮図書館にある一室にフレデリカがやって来た。


「ほ、本日はお招きいただき、ありがとうございます……」

「来てくださってありがとうございます。どうぞお掛けください」


 温かい紅茶を出してもてなすと、フレドリカの緊張も少しほぐれたようだった。


「……本の匂いがしますね。なんだか落ち着きます……」

「こういう雰囲気の場所のほうが、公女もリラックスできるかと思いまして。当たっていたみたいでよかったです」

「そんなお気遣いまで……ありがとうございます」

「今日は体調はいかがですか? 気分が優れないようでしたら、すぐに仰ってくださいね」

「はい、今のところは大丈夫です。招待状をいただいてから気をつけてまいりましたので」

「それならよかったです。では、今日はまず、これからしてみたいことについてお喋りしてみましょう。まずは私から……」


 それからリネアは昔から密かに夢見ていたことを一つ、また一つとフレドリカに打ち明けた。


 たとえば、「友人とお忍びで街に出かけたい」、「お泊まり会をしてみたい」、「大好きなフルーツタルトをお腹いっぱい食べてみたい」──そんなささやかな夢を。


 まるで幼い少女の願い事のようだったが、身近に心を許せる友人もなく、王女としての品格も気にしなければならなかったリネアにとっては、どれも難しいことだった。


 フレドリカは、リネアの夢を真剣に聞いては、「自分もやってみたい」と同意してくれた。どうやら虚弱体質のフレドリカにとってもまだ未経験のことらしい。二人の間に共通点が見つかったようで、お互いにクスクスと笑い合った。


「……そういえば、もう一つ夢がありました」


 たまたま目に入った『政略婚の歴史』と書かれた背表紙を眺めながら、リネアがぽつりと呟く。


「いつか結婚しなければならないとしたら、心から信じられる方と結ばれて、本当の幸せを掴みたいです」


 この二度目の人生では、前回の悪夢を繰り返したくはない。

 何としてでも、絶対に。


 強い実感のこもった言葉に何かを感じたのか、フレドリカが神妙な顔をして深くうなずく。


「私も……そう思います。貴族令嬢である以上、好きな人と結ばれることは難しいとは分かっています……。でも、それでも、もし許されるならばと……そう思ってしまいます」


 フレドリカが誰かを思い浮かべるかのように目をつむり、苦しげに眉根を寄せる。その閉じられた瞳の奥に誰がいるのか、リネアは分かるような気がした。


「フレドリカ公女には想い人がいらっしゃるのですね」


 リネアにそう問われ、フレドリカがハッとして目を開ける。


「あ、いえ、その……私が一方的にお慕いしているだけで……そもそも振り向いてもらえるとも思っていませんので……」

「そんなの分かりませんよ。現に、私とフレドリカ公女も今日お話ししてみて気が合うと分かったではありませんか」


 リネアがフレドリカを見つめる。

 そうして、このあと彼女はどんな反応をするだろうかと少し楽しみに思いながら、にっこりと微笑んだ。


「公女といろいろお話をさせていただきましたが、一対一であればしっかりお話しになれるようですね。ですので、次回からはもう一人呼んで、三人で話す練習をするのがいいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「は、はい、大丈夫です。ぜひお願いいたします」

「ご了承いただけてよかったです。では、ちょうど今、来てくださっているので、先に挨拶だけでもできればと思います。……どうぞ、入ってください」


 リネアに呼ばれて、三人目の仲間が部屋のドアを開ける。

 そして礼儀正しい態度で入室したあと、リネアとフレドリカの前に立って深々と一礼した。


「御前失礼いたします。王宮図書館の司書を務めております、クラース・マイエルと申します。次回より私も参席させていただけるとのこと、誠にありがとうございます」


 すらすらと挨拶を述べるクラースの前で真っ赤になって固まるフレデリカを見て、「やっぱり予想は当たっていた」とリネアは満足そうに口もとを緩ませた。


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