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41. 答え合わせ

「なぜだ……公爵のはずでは……」


 目の前の状況にイデオンが混乱する。

 そんなイデオンをあざ笑うようにオリヴェルが経緯を教えてやった。


「公爵は今頃、僕が攫ったリネアを助けていると思うよ」

「リネアを攫った……?」

「うん。君は気づかなかった? わざわざ森の道中にリネアの靴を落としておいたのに。公爵はちゃんと気づいて、花探しからは早々に降りたみたいだよ。どちらがリネアをより大事にしているか、よく分かるよね」

「小賢しい真似を……! そんなことでリネアへの愛を測れるわけがない!」

「まあね。でも今回のことだけじゃないから。──これでやっとお前を罰せる」

「やっと……?」


 イデオンが怪訝そうに眉をひそめる。

 オリヴェルはそれに構うことなく、イデオンに現状を突きつけた。

 

「ご覧のとおり、君は僕を殺そうとした。公国で罪を犯した者は、身分に関係なく公国の法で裁かれる。大公殺害未遂は極刑に値する罪だ。つまり、これから君がどうなるか分かるよね?」

「貴様……わざと自分が刺されるよう仕向けたのか? 魔術で公爵に姿を変えて」

「うん、その通りだ」

「なぜだ? なぜそんな馬鹿げたことを……」

「君がリネアを不幸にしたから。彼女を悲しませて自死させたから。これはその復讐だよ」


 オリヴェルの返事にイデオンが目を見開く。


「……まさか貴様も戻ってきたのか?」


 オリヴェルは肯定する代わりに、にこりと笑った。


「俺とリネアだけじゃなかったのか……」


 イデオンは腹立たしげに呟いたあと、鋭い目でオリヴェルを睨んだ。銀色の瞳が残忍に光る。


「騙されたことは腹立たしいが、それでもまだ有利なのは俺だ。お前さえ殺してしまえば、あとはどうとでもできる」


 ここにはオリヴェルとイデオン以外に誰もいない。

 大公は獣に襲われて死んだと言い張ればいいだけだ。

 元々大公も邪魔で仕方なかった。

 ここで始末できれば、それに越したことはない。


 イデオンが血走った目でオリヴェルを見下ろし、再び剣を振り上げた。


「これで終わりだ!」

「やめろ!」


 何者かがイデオンに飛びかかり、振り上げられた剣を弾き飛ばす。そしてそのまま剣の柄でイデオンの頭をしたたかに打ちつけると、イデオンは小さくうめき声をあげて昏倒した。


「オリヴェル! 大丈夫!?」

「リネア……公爵……来てくれたんだ」


 悲壮な表情で駆け寄るリネアを、オリヴェルが弱々しく手で制す。


「だめだよ、離れて。血で汚れちゃう」

「そんなのどうでもいいわ!」


 リネアが構うことなくオリヴェルのそばにしゃがみ込むと、オリヴェルはどこか悲しそうに微笑んだ。


「君は本当に優しいね」

「何言ってるの。こんなに血を流して、どうすれば……」

「大丈夫だよ。僕は死なない。今はまだ死ぬときじゃないから」

「リネア様、たしかに大公の出血はもう止まっているようです」


 ベネディクトがオリヴェルの傷を確認しながら、困惑ぎみに伝える。これほどの大量出血であり得ないと思ったが、リネアが確かめてみても、やはり血は止まっていた。


 オリヴェルが懐から笛を取り出し、ピィーと吹き鳴らす。


「もうすぐ僕の部下たちが来る。あとは城で話そうか」


 それだけ言うと、オリヴェルは一仕事終えたとでも言うように、晴れやかな顔で目を閉じた。



◇◇◇



 その後、リネアたちはオリヴェルの笛で駆けつけた魔術師たちの魔術によって、宮殿へと移動した。

 オリヴェルは手当てのためにどこかへ連れて行かれ、イデオンは枷と魔術で厳重に拘束されて、地下牢へと入れられた。


 そして翌日。体力が回復したオリヴェルが、リネアとベネディクトを呼び出した。


「身体はもう大丈夫なの?」

「うん、全然大丈夫だよ。それより昨日のこと、二人とも気になってるよね?」

「たしかに分からないことだらけだけど……」


 昨晩、リネアは急にオリヴェルに眠らされたあと、森の中のテントの中で寝かされていた。魔術で守られた安全で暖かい場所で、ふわふわの毛布に包まれながら、楽しい夢を見ていた。


 そこにベネディクトが現れ、どういう状況なのか不明ながらも、嫌な胸騒ぎがしてナッタルヴァの花の咲く場所を目指したのだった。きっとそこにオリヴェルがいるはずだと考えて。


「なぜこんなことを? それにあなたの身体はどうなっているの? 隠さないで全部教えてちょうだい」

「……分かった。でも、僕が話すことできっと君を傷つけることになってしまうけど──必要なことだから全部隠さず伝えるね」

「え、ええ……」


 オリヴェルの話がリネアを傷つける?

 一体どういうことだろうとリネアが首を傾げると、オリヴェルが穏やかな声で打ち明けた。


「実はリネアとイデオンと同じく、僕にも回帰の記憶があるんだ」

「えっ、あなたも……!?」


 リネアが思わず声をあげる。

 当然のように話が通じている二人を見て、ベネディクトが怪訝そうに眉を寄せた。


「回帰……? どういうことですか?」

「ああ、公爵は記憶がないから分からないよね。つまり、僕たちは人生をもう一度途中からやり直しているんだ」

「何ですって? リネア様、それは事実なのですか?」

「……ええ、事実です」


 本当はベネディクトには知られたくなかった。

 しかし、ここまで彼を巻き込んでしまっては話さざるを得ないだろう。


「私は回帰前、自ら命を絶ちました。しかし、気づくと2年前の過去に戻っていたのです」

「リネア様が自ら命を……!?」


 ベネディクトが愕然としてリネアを見つめる。

 そんなベネディクトにオリヴェルが冷たく言い放った。


「リネアが自死したのは公爵にも責任があるよ」

「オリヴェル……!」

「回帰前、リネアは政略結婚を強いられ、イデオンの側妃として嫁ぐことになった。それを強く推奨したのが公爵だったんだよ」 

「そんな……」


 ベネディクトが言葉を失う。

 オリヴェルの話で、すべてが繋がってしまった。


 今世のリネアがイデオンとの結婚を嫌がったのは、回帰前にトラウマがあったせいだろう。自ら死を選ぶほどの辛い出来事が。そして、そうなる原因を作った一人がベネディクトだった。


 リネアが何も言わないということは、ベネディクトが関わっていたのが紛れもない事実ということだ。


「……大公、私にも罰をお与えください。真実を知った今、のうのうと生きてなどいられません」

「公爵……!」


 オリヴェルは深くうなだれるベネディクトを一瞥すると、少しだけ不満げに息を吐いた。


「回帰したての頃は、君もついでに始末してやろうと思ってたんだけどね。でも今はそんなことしないよ。公爵はリネアにとって大切な人だから」

「え……?」


 ベネディクトが顔を上げる。

 すると、いつになく切なげな顔をしたオリヴェルと目が合った。


「……ここからはリネアにだけ話したいから、公爵は席を外してもらえないかな」


 オリヴェルがベネディクトに頼む。

 その声には、どこか切実な想いがこもっているように感じられて、ベネディクトは無言でうなずいたあと、ひとり部屋を出ていった。


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