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40. 卑劣な方法

 イデオンはランタンを片手に森の中を探索していた。

 幸い、獣に出会うこともなく、ここまで順調そのものだった。この調子なら、ベネディクトより先にナッタルヴァの花にたどり着けるかもしれない。


 イデオンがどんどん森の深部へと進んでいく。

 淡い魔力の輝きを放つ真っ白な花。

 己に勝利をもたらしてくれる神秘の花。

 それを持ち帰り、今世でもリネアを手に入れる。


(リネアをエングダールに連れ帰ったら、すぐに挙式して王宮に閉じ込めよう)


 正妃として迎えるとは言ったが、正妃の仕事をさせるつもりはない。誰も入れない場所にリネアを閉じ込め、イデオンと過ごす時以外は常に女騎士に監視させよう。その他の者との接触は徹底的に排除する。


 リネアを二度と自死させないため。

 そして公爵のようにリネアを狙う輩から守るためだ。


 リネアの死より前に回帰したと気づいたときは、喜びに打ち震えた。リンクヴィストから結婚の打診が来たときは、他の者が手を出さないよう真っ先に名乗りを上げた。


 これは不幸な結末を迎えた自分が、今度こそ幸福になるためのチャンスだ。


 再びリネアの愛を手に入れ、次こそは余計なことを考えさせずにイデオンひとりを愛し抜かせる。


 しかし、そのためにエングダールを発ってきたというのに、リンクヴィストに来てからは不快なことばかりだった。


 再会したリネアはイデオンとの結婚を拒否し、回帰前は何の関わりもなかったはずのベネディクトがリネアに接近し、幼馴染の大公までまとわりついて挑発してくる。


 回帰前にはあり得なかった出来事に苛立ちが止まらなかった。


(だが、それももうすぐで終わる。結局リネアと結ばれるのは俺なんだ)


 リネアにも回帰前の記憶があった。

 これがただの偶然であるはずがない。

 この世に神などいないと思っていたが、今なら存在を信じられる。

 これはリネアとの愛をやり直すための奇跡に違いない。


(あと少し。あともう少しだ)


 何かに導かれるように歩みを進めると、茂みの陰から放たれる光に気がついた。


「あれは……!」


 あの光はナッタルヴァの花の魔力の光に違いない。

 イデオンは急いで駆けつけようとしたが、すぐに異変に気がついた。


 茂みの向こうに影がある。

 そして、光に照らされて輝く銀色の髪。


(ベネディクト・シベリウス……!)


 ナッタルヴァの花に先にたどり着いたのは、イデオンではなくベネディクトだった。


 それに気づいた瞬間、怒りが込み上げてきたが、イデオンは冷静に怒りを落ち着かせ、手に持っていたランタンを地面に置いてマントを被せた。


(この展開を想定していなかったわけじゃない)


 もちろん自分が真っ先にナッタルヴァの花を見つけるつもりだったが、それが不可能だった場合のことも考えていた。


『課題の勝者はナッタルヴァの花を先に見つけた者ではなく、先に持ち帰った者とする』


 課題の細則にはそう記載されていた。

 つまり、たとえベネディクトが先に花を見つけたとしても、それを奪って先に持ち帰ればイデオンが勝者となるのだ。


 ベネディクトはナッタルヴァの花に見惚れている様子で、イデオンには気づいていない。


(今ここで奴を殺してしまえば……)


 ナッタルヴァの花は確実にイデオンのものとなり、ライバルはいなくなる。死体は獣が荒らしたように見せれば、イデオンが殺したとは思われないだろう。


 あとは大公がベネディクトの事故死への対応に追われているうちに、リネアをエングダールに連れ帰ればいい。


 幸せへの道筋がはっきりと見える。

 やはりこれは神の慈悲に間違いない。


 イデオンが腰に佩いた剣を抜き、足音を消して茂みへと近づく。そしてベネディクトの背後に立ち、剣を振り上げた。


(死ね!)


 イデオンが剣を振り下ろすと、ベネディクトの背中から血が噴き出し、辺りをどす黒く染めた。


「ハハハ、俺の邪魔をした報いだ! これでお前も終わりだ!」


 イデオンが剣を引き抜き、倒れたベネディクトに向かって勝利宣言する。

 しかし、瀕死であるはずのベネディクトは口から血を流しながら笑った。


「これで終わりなのは君のほうだよ」


 銀色だった髪が黒く変わり、苦しげに開いた双眸(そうぼう)が赤く輝く。


「どういうことだ……貴様は──」


 目の前で血を流しているのは、ベネディクトではなく、レクセル公国の大公オリヴェルだった。


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