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18. 思いがけない再会

 会場を後にしたリネアは、庭園を歩いて王女宮に戻ることにした。廊下を通って王妃たちと出くわしたくなかったからだ。


 庭園はひと気がなく静かで、先ほどのホールでの喧騒が嘘のようだ。空には無数の星が瞬き、夜の少し湿った空気が肌に心地いい。


(フレドリカとクラースは夜会を楽しんでいるかしら)


 フレドリカはクラースともう少しいい雰囲気になりたいと言っていた。さっきの様子を見る限り、きっとその願いは叶っているだろう。


「ふふっ、今度会うときに聞かなくちゃ」

「誰と会うの?」


 ここには自分一人だけだと思っていたのに急に背後から話しかけられ、リネアは驚いて振り返った。


「あ、ごめん、驚かせちゃったね。僕だよ、リネア」

「オリヴェル……?」


 よく知っている赤い瞳が柔らかく細められる。

 彼の穏やかな微笑みを見て、リネアはほっと警戒心を解いた。


「なんだ、あなただったのね」


 オリヴェル・アウレリウス。リネアの幼馴染であり、レクセル公国の若き大公だ。しばらく疎遠ではあったが、幼い頃はよく母子同士で交流していた仲だった。


「久しぶりね。いつリンクヴィストに来たの? 公国を留守にしても大丈夫?」

「うん、公国のほうは大丈夫。魔道具ですぐに連絡も取れるし」

「レクセルは魔術大国だものね。それにしても、どうしてここに? 視察があるなんて聞かなかったけど……」

「公務で来たんじゃないよ。ただ……リネアに会いたくてさ。元気そうでよかった」


 オリヴェルがリネアの手を取って頬に寄せる。

 久しぶりに会えたのがそれほど嬉しいのだろうか。

 少しくすぐったい気持ちになっていると、オリヴェルがリネアをじっと見つめた。


「で、リネアは誰と会うの?」

「え?」

「さっき言ってたでしょ? "今度会うときに聞かなくちゃ" って」

「ああ……あれはフレドリカ・シベリウス公女のことよ。最近仲良くなったの」

「シベリウス公女って、あの公爵の妹? どうして急に?」

「どうしてって……そうね、話してみたらすごく気が合って。それにとてもいい子なのよ」

「へえ、妹は善良なんだね。まあ、兄が冷徹だからといって、妹までそうとは限らないか」


 オリヴェルがどこか皮肉っぽく返事する。

 彼は他人への警戒心が強いのか、近しい人以外に対して厳しいところがある。


「オリヴェルったら……。あなたもフレドリカ公女を知ったら、きっと好感を持つはずよ。それに、公爵も思っていたような冷たい人じゃなかったわ。妹思いの優しい方よ」


 リネアが優しく諭すと、オリヴェルは軽くショックを受けたように固まった。


「……公爵と仲良くなったの?」

「仲良くなったというか、フレドリカ公女のことで何度か話す機会があっただけよ」

「へえ……」


 オリヴェルはしばらく苦々しそうな顔をしていたが、やがて気を取り直したように優しい笑みを浮かべた。


「リネアはもう夜会には戻らないの?」

「ええ、お義母様たちと鉢合わせたくないし……」

「たしかに、気分悪くなるもんね。じゃあこのまま王女宮に?」

「ええ、今夜は少しだけだけど夜会を楽しめたし、もう帰るわ」

「そっか……できたらリネアとダンスしたかったけど仕方ないね」

「ごめんなさいね。また今度機会があったら一緒に踊りましょう」

「うん、約束だよ」


 オリヴェルがリネアと小指を絡ませる。

 この約束の指切りは、幼い頃からの恒例の儀式のようなものだった。こうして次の約束をしないと、寂しがりやのオリヴェルが帰りたくないと駄々をこねてしまうから。


「もう立派な大人なのに、あなたは相変わらずね」

「なんのこと?」

「指切りはさすがに子供っぽくないかしら」


 リネアが苦笑すると、オリヴェルがムッとして反論した。


「それじゃあ、書面にして約束を交わそうか? 『リネア・リンクヴィストはオリヴェル・アウレリウスのダンスの申し込みを承諾し、今後半年以内に二人で踊るものとする』って」

「何それ。大袈裟すぎるわ」

「だろう? だからこれからも約束は指切りにしよう」

「うーん、そういうことなのかしら……?」


 リネアがどことなく腑に落ちないでいると、オリヴェルが優しくリネアの手を引いた。


「王女宮まで送るよ」

「えっ、いいわよ。大公様にそんなことさせられないわ」

「そんなこと気にしないでよ。できるだけ長くリネアと一緒にいたいんだ。リネアは違うの?」

「もう……それじゃあ、王女宮までお願いするわ」

「うん、喜んで」


 オリヴェルが嬉しそうにリネアの手を握りしめる。

 人との接し方が極端な彼は、幼馴染のリネアにとことん親切だ。


(オリヴェルだったら、いざというときに助けてくれるかしら……?)


 もしエングダール国──イデオンとの政略結婚が避けられそうにない場合は、オリヴェルを頼ってレクセル公国に亡命するのもありかもしれない。


(……いえ、それじゃ大事になりすぎてしまう。オリヴェルに迷惑はかけられないわ)


 そんな事態にしないために、まずは自分にできることを頑張らなくては。


 リネアは決意を新たにすると、上機嫌で話しかけてくるオリヴェルに微笑み返した。


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