15. 新たな関係
とある晴れた昼下がり。
リネアが約束の時間にシベリウス公爵邸を訪問すると、フレドリカが朗らかな笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、リネア殿下!」
「フレドリカ公女、今日は招待してくださってありがとうございます」
「こちらこそ、ご足労いただいてありがとうございます。今日はお天気がいいのでお庭に席をご用意しました。こちらへどうぞ」
フレドリカに案内されて庭園へと移動すると、色とりどりの花を眺められる特等席が用意されていた。可愛らしく飾りつけられたテーブルの上には美味しそうなお菓子がいっぱいで、リネアの口から感嘆の声がもれる。
「まあ……なんて素敵なの……!」
「お気に召していただけましたか?」
「ええ、とっても。私の好きな色で飾ってくださったんですね。一目で気に入りました。それにどのお菓子も美味しそうで、目移りしてしまいます」
「うちの料理人たちが張り切って作ってくれたので、きっと美味しいと思います。たくさん召し上がってくださいね」
それからリネアとフレドリカは、お茶とお菓子を楽しみながら、互いの近況や最近読んだ本の感想、ドレスの流行の情報共有など、いろいろなことを話した。
こうして会ってお喋りするのは久しぶりなのに、前よりもずっと打ち解けた気がして、たわいもない話をしては二人で笑い合った。
「ふふっ、フレドリカ公女とのお喋りは本当に楽しいです」
「私も、リネア殿下とお話しするのはとても楽しいです。……ところで、ずっと思っていたのですが」
「なんですか?」
「リネア殿下はずっと私に敬語を使ってくださっていますが、普通に話してくださって構いません。私のことも、ただ名前で呼んでいただければと……」
「え、普通に……?」
突然の提案に、リネアが少しだけ戸惑う。
急に話し方を変えるのは、なんだか恥ずかしい気がする。
けれど、フレドリカも気恥ずかしそうに顔を赤くしているのを見て、リネアは覚悟を決めた。
フレドリカも勇気を振り絞って提案してくれたのだ。
きっと、リネアともっと仲良くなりたいと思って。
「……わ、分かったわ。これからは敬語は使わずに話すようにするわね、フレドリカ」
まだだいぶぎこちないが、頑張って話し方を変えてみると、フレドリカはパッと花のような笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、リネア殿下! すごく嬉しいです!」
「それならよかった。でも、フレドリカも敬語じゃなくていいのよ?」
フレドリカも同じように話してくれたらと思ったリネアだったが、フレドリカは愛らしい笑顔のまま首を横に振った。
「いえ、私は今までどおりにさせていただきます」
「えっ? でも私だけ話し方を変えるのはおかしいんじゃ……」
「おかしくありません。リネア殿下は王族でいらっしゃるのですから堂々となさってください。私は尊敬する方にはちゃんと敬語を使いたい派なので」
「ええ……?」
なんだか急に梯子を外されたようで寂しいが、ここまで断固とした意志で拒否されてはどうにもできない。
「そう……でもせめて名前の呼び方はもう少しなんとかならないかしら。フレドリカとこんなに仲良くなれたって思いたくて……」
「くっ、そんな上目遣いでお願いされては仕方ありません……。でしたら『リネア様』と呼ばせていただくのではいかがでしょうか」
「それならまあ……」
「では、これから改めてよろしくお願いいたします、リネア様」
二人の関係がまた一歩前進(?)したところで、リネアは大切なことを思い出した。
「そうだわ! クラースとはどうなったの? 何かいい報告があるのでしょう? ぜひ聞かせてちょうだい」
「あっ……そ、それはですね……」
リネアが今日絶対に聞きたかったことを尋ねると、フレドリカは急に耳まで真っ赤にして、あわあわし始めた。
「えっと……例の騒動のあとでクラース様からお見舞いのお手紙を頂きまして……」
「ええ、それで?」
「私のことを、こう……すごく心配していただきまして……」
「もちろんそうでしょうとも。それで?」
「そっ、そそそれで……実は初めて出会ったときから私のことを、きっ、気にかけてくださっていたみたいで……今までは身分が釣り合わないと思われていたそうなのですが、あの日をきっかけに考えが変わられたみたいで……」
「つまり?」
「つ、つまり……! まずは友人からでいいので、これから二人で会ったりできないかと言われましたっ……!」
「ああ、フレドリカ!!」
「リネア様……!!」
リネアとフレドリカが、がっしりと両手を握り合う。
そうして互いに感極まった表情で見つめ合った。
「よかったわね、フレドリカ!」
「はい、よかったです。私にこんな幸せが訪れるなんて……まるで夢のようです。兄もクラース様がしっかりした方だということをちゃんと分かってくれて、二人で会うことも許してくれました。何もかもすべてリネア様のおかげです。本当にありがとうございます」
「そんな……大したことはしていないわ。私はただ、フレドリカに悲しい結婚をしてほしくなかっただけ。あなたとクラースは元々縁があったからこうなったのよ。本当におめでとう」
「リネア様……。やっぱりリネア様は私の女神です。私もリネア様の幸せを全力で応援したいと思います」
「ふふっ、心強いわ。どうもありがとう」
友人からの応援が、こんなにも嬉しくてくすぐったいものだったなんて。フレドリカと話していると、心が温かくなってくる。
フレドリカとずっとこうして仲良しでいるためにも、やっぱり回帰前のような道を辿るわけにはいかない。あの男──イデオンとの政略結婚は必ず回避しなくては。
そう決意を新たにしていると、フレドリカがぱちんと両手を叩いた。
「そういえば、兄がリネア様にお会いしたいと言っていたのでした。今、こちらに呼んでもよろしいですか?」
「公爵が? もちろん構わないけれど……」
リネアが返事するや否や、フレドリカが侍女に公爵を呼ぶよう命じる。するとまもなく、この公爵邸の主人が姿を現した。
「またお目にかかれて光栄です、リネア王女殿下」




