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12. リネアの計略

「フレドリカは大丈夫だったかしら……」


 リネアが昨日の出来事を思い出しながら心配そうに呟く。

 あのときのフレドリカは、とても見ていられないほどの落ち込みようだったが──。


『私に1週間だけください。必ずあなたを助けます』


 リネアがそう伝えると、フレドリカは悲壮な色が浮かんでいた瞳にうっすら涙をにじませて、こくんと小さくうなずいた。


 そのあとフレドリカの心が落ち着くまで待ち、ぎゅっと抱きしめてから屋敷に帰らせたのだった。


(フレドリカは1週間後まで時間をかせぐと言ってくれた。だから早く準備を整えないと)


 リネアは侍女のアニタを呼ぶと、つい先ほど書き終えたばかりの手紙3通を彼女に託した。


「至急この手紙を出してくれるかしら」

「はい、かしこまりました」


 アニタはリネアの真剣な様子を感じ取ったのか、急いで部屋を出ていった。


「あとはおもてなし(・・・・・)の用意をしないとね」


 3通の手紙は、内容はそれぞれ少し異なるものの、どれも同じ王女宮への招待状だ。おそらく──いや、必ず全員出席してくれるだろう。あとは、当日上手く行くことを祈るだけ。


「フレドリカ、あなたに辛い思いはさせないわ」


 昨日フレドリカが流した悲しみの涙を思い出しながら、リネアはきゅっと拳を握った。



◇◇◇



 そして1週間後。王女宮の一室に二人の招待客がやって来た。

 一人は王宮図書館司書のクラース。そしてもう一人は、フレドリカの婚約者候補カール・メルネス侯爵令息だ。


 今日の集まりはお茶会でも読書会でもない。

「エーデン鉱山採掘の共同投資」について話し合うための会合だった。


(カール・メルネス──彼ならこの話に必ず興味を示すはずだから)


 思ったとおり、実業家として投資話に関心の高いカールは、リネアが送った招待状にすぐ返事をよこしてきた。


(クラースは……カール卿を気にしているみたいね)


 クラースに出した招待状にも投資の話をしたいと書いてはいたが、もうひとつ別の情報も添えていた。

 ──フレドリカ公女の婚約者候補も同席予定であると。


 おそらくクラースにとっては、そちらのほうが主目的なのだろう。いつも通り落ち着いた様子ではあったが、たまに探るような目をカールに向けている。


 リネアは二人を歓迎して席に着かせると、挨拶もそこそこにさっそく本題に入った。


「それでは、鉱山採掘の投資について話しましょうか。お二人ともこの件に興味を持ってくださっているという理解でよろしいのですよね?」

「はい、非常に気になります。鉱山採掘は当たれば大きいですから。共同投資ということは、第一王女殿下とマイエル伯爵令息も出資されるのですよね?」

「ええ、もちろんそのつもりです。クラース卿もそうだと考えてよろしいですか?」

「あ……いえ僕は、お話を伺ってから判断できればと思います」

「分かりました。大事なことですから、よくお考えになってください」


 クラースは元々投資が目的で来たわけではないからだろう、話し合いにも慎重な様子だ。一方のカールは、かなり乗り気なようで、実業家らしく次々とリネアに質問を浴びせてきた。


「王女殿下が投資を決められたということは、鉱脈が発見されたのでしょうか? 私はまだ聞いたことがありませんでしたが、やはり王族の方ですと早く耳に入るのでしょうね。できれば現地で様子を見たいものですが、視察に伺っても構いませんか?」


 カールからの矢継ぎ早の問いかけに、リネアが穏やかに答えてみせる。


「ええ、ご推察のとおりです。つい最近、エーデン鉱山で金を含む鉱物が発見され、採掘の話が持ち上がったのです。今は共同投資に賛同してくださる方を探しているところで、お二人が辞退されるようでしたら別の方にお声がけしようと思っています。それから視察の件はもちろん構いませんが、ちょうど今こちらにエーデンの金鉱物がありますのでお見せしましょう」


 リネアが侍女に目配せすると、すぐにアニタがやって来て、両手ほどの大きさの鉱石を差し出した。黒っぽい石のところどころに星のような金色の煌めきが見える。その光を目の当たりにしたカールの瞳も興奮の色に輝いた。


「これは素晴らしい……! ここにある金だけでどれだけの値打ちがあることか! ぜひ私も投資したいと思います」

「ありがとうございます。最初の投資者は配当率も高くなります。こちらが契約書です」


 リネアが契約書を差し出すと、カールは配当率の数字を見て満面の笑みを浮かべた。


「これだけ利回りが高いと投資のしがいがありますね。この機を逃す手はありません。君、ペンを用意してくれるかい?」


 侍女がペンを用意すると、カールはためらう様子もなくペンを手に取り、契約書にサラサラと署名した。


「ありがとうございます。これでカール卿が最初の投資者となりました」

「この投資はきっと私の名声をさらに高めてくれるものと確信しています。……ところで」


 カールがクラースに視線を向ける。


「君はさっきからずっと黙ったままだが、この投資に興味がないのか? この金鉱物を見れば、間違いのない投資だとはっきり分かるだろう。……ああいや、もしや資金の問題か? 伯爵家といえど、君は三男で大した財産もないだろうしな。王女殿下もなぜ君のような奴にお声をかけたのか──」


 カールが嘲るようなため息をもらしたとき、じっと金鉱物を眺めるばかりだったクラースが口を開いた。


「お二人とも、この投資はおやめになったほうがよろしいでしょう」


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