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76話 新年祭へ

 マリーベルとヴァレリーさんの問題は無事解決し、ヴァレリーさんが謝罪の品としてスパイスとレシピ本を贈ったことにより、しばらく異国情緒あふれる刺激的で美味しい食事を堪能した頃。


 冬の1の月、1の日。ついにやって来てしまった。


「はぁ〜〜〜〜……何で新年祭って10歳以上の貴族は特例以外強制参加なんでしょう……」


 私は今、新年祭に参加するため城に向かう馬車に乗っている。同乗者は師匠、マリーベル、テオくんだ。今日の私はこの日のために仕立ててもらったドレスを着て、上の髪だけゆるく編んで後ろでまとめた上に宰相からもらった髪飾りをつけ、さらに師匠がいつの間にか用意していたパールの飾りピン、雫型のペリドットが揺れるイヤリング、強化結界の魔石が馴染むペリドットとシトリンの豪華なネックレスとまるでお姫様のような煌びやかな装いをしている。

 

 いや、元からお姫様なんだけどね。


 とにかく今までで一番豪華な装いをしているということだ。


 陛下と王妃がこれ見てなんて言うかなぁ……はぁ。


 城へ近づくにつれて、新年祭へ参加したくない気持ちが膨らみ、言ってもどうしようもないことを口から吐き出してしまったのだ。それに師匠が簡潔に答えをくれる。


「10年くらい前にデサンダン子爵家が内乱を起こしたからだな」


 おのれデサンダン子爵め!


 師匠は全身黒の衣装だ。一見暗く見えそうだが、金の刺繍がバランスよくされているため豪華に見える。クラバットに留めているブローチや髪留めのアクアマリンの水色がいい差し色になっている。


 そんな師匠が言うには強化結界が開発され、他国からの脅威がなくなったら、内部で争うようになったそうだ。特に土の属性の領主が、金の属性の領地を狙うようになった。なぜか知らないが、この国では土の属性よりも金の属性の土地持ちの方が上位のような雰囲気がある。国が潤っているのは、金の属性の土地から採れる魔石などの鉱物のお陰だと自負しているかららしい。


 私からしたら作物が気候に左右されず、通常より大きく育つ土の属性の土地だってすごいと思う。

 けれど貴族は作物よりお金を重要視しているのだろう。


 ……お金があっても作物なかったら買えないのに。どっちが上とか馬鹿みたい。


 とまあそのデサンダン子爵は土の属性の領主で、隣の金の属性の土地を狙って、当時は強制ではないが多くの人が参加する新年祭が開催されているときに攻め入ったそうだ。戦いは激化し、最終的に騎士団が出動してデサンダン子爵が討たれたことで収束した。子爵家の人たちは全員処罰され、デサンダン家は断絶。爵位と土地は国に返された。


「今は実家の領地になってる」

「え!?」

「うちの領地もデサンダン子爵の領地の隣だったんだ。俺の結界の功績の一部として賜った。だからうちは唯一金と土の属性を持ってる領地だ。だから土を送ってもらえたんだよ」

「どういうことですか?」


 内乱は治ったが領地間のギスギスした雰囲気はすぐにはなくならない。陛下が10歳以上の貴族は新年祭への参加を義務付け、国内の発展に力を尽くせない者に容赦しない姿勢を見せたため、今は以前ほどギスギスしてないそうだ。それでも全く蟠りがないというわけでもない上に、自領の作物が売れなくなると困るため土の属性の領地は金の属性の領地と土の取引をするのは渋るらしい。


「わ、私もっと師匠のお兄様に感謝しなきゃ……!あっお礼!準備するの忘れてた!」


 なんてことだ。色々あってすっかり忘れてた。


「別にいらないと思うが。今日、直接礼を言ったら喜ぶと思う」

「もちろん伝えます!」


 私は両拳をグッと握って意気込んだ。ふと斜め前に座っている顔色の悪いテオくんが目に入った。テオくんはえんじ色のジャケットに黒のトラウザーズと落ち着いた色合いだけど、ジャケットの襟がチェックになっていて低予算でもおしゃれに見える。さすがソニアさん。


「テオくん大丈夫?」

「……はい。すごく緊張します。母からも目立たないよう言われましたし、失敗しないよう頑張ります」


 テオくんが弱々しく微笑んだ。テオくんを迎えに行き、パールを預けに行った時、アメリーさんは何かに怯えるように蒼白な顔でテオくんに決して目立たないように、最低限の挨拶をしたら大人しくしているよう何度も言い聞かせていた。


 まあ確かに元平民のテオくんが純然たる貴族に目をつけられたら、今後生きにくいだろうからね。


「マナーは問題ない。ただ今回は久しぶりに元平民が男爵になったから好奇な視線には晒されるのはしょうがないな。挨拶が終わったら元平民の男爵たちが集まっている所にいればマシだろう」


 テオくんの隣に座っている師匠がある程度目立つのはどうしようもないと言っている。師匠の言葉にテオくんがさらに青くなる。「まあ一度見れば興味は失せると思うぞ」と続いた言葉にテオくんは少し安堵したように息を吐いた。


「それよりパールの方が大丈夫でしょうか?」

「あ〜……」


 私の隣に座っているマリーベルが心配そうに呟いた。パールの様子を思い出して私は返事に困る。マリーベルはもちろんヴァレリーさんが仕立てた紺の豪華なドレスをまとっているが髪型はいつもと変わらない上にあろうことか私が贈ったリボンの髪飾りをつけている。「さすがにドレスの品質に合わないからやめて」って言ったら、「つけるものがないので飾りはなしになりますね。毎年そうなので構いませんが」と言って外そうとしたから泣く泣くつけることを許した。


 だって豪華なドレスなのに髪飾りなしって……なんか……なんか残念だよ!


 渋い顔する師匠とマリーベルを説得して、師匠が用意してくれていたパールの飾りピンをマリーベルにもつけてもらってなんとか髪飾りが安物なことが誤魔化せたと思いたい。


 とまあ髪飾りのことは置いておいて。

 パールを館に一人……じゃないくて一匹きり?で残しておくのは心配だったので、アメリーさんにお願いすることにしたのだ。

 しかしここで師匠が自分たちがいない間にアメリーさんだけ館に残すことを渋ったため、テオくんの屋敷で預かってもらうことになった。

 馬車で移動してテオくんの屋敷に着いて応接室に来た所まではよかった。パールが入ったカゴをアメリーさんに渡し私たちが部屋から出ようとしたらパールが激しく泣き出したのだ。黒い綺麗な目から涙を流し、「ぎゅう〜!きゅぎゅぎゅぎゅー!」と短い前足を必死にこちらに伸ばすパールにすごく悪いことをしている気分になった。


 前に師匠と二人で出かけた時はここまで泣かなかったのに。知らない場所だからかな?


「ごめんね、パール。城には連れて行けないの。新年祭が終わったら迎えに来るから」

「きゅううー!」


 首を激しく横に振り嫌がるパール。途方に暮れる私とカゴを持っているアメリーさん。見かねた師匠がポケットから紙と魔術ペンを取り出し、応接室を範囲とした結界の魔術陣を描いて発動させた。


「これでパールが追ってくることはない」


 と泣き叫ぶパールを振り切ってかなり力技で置いてきたのだ。


 本当にごめんね!新年祭が終わったらすぐに行くからね!それもこれもデサンダン子爵のせいだ!おのれデサンダン子爵め!

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