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77話 遭遇

 パールのことは心配だけどどうしようもないので、新年祭を無難に終えて早く迎えに行くことにしよう。私が心の中で決意を固めていると師匠が思い出したように「そうだ、メル」と言った。


「両親が挨拶に来ても最低限の会話だけして余計なことは話さないように」

「え?」

「利用されるぞ」

「え!?わっわかりました」


 どう利用されるのか気になるけど、師匠からは詳しく聞くなという雰囲気が漂っているため聞くに聞けない。


 あれ?師匠もあんまりご両親と仲良くない?そういえばお兄様のことは聞くけど、ご両親のお話はあんまり聞いたことないかも?


 何に利用されるのかわからないけど気持ちのいいことではないので、師匠の言いつけは守るとしよう。


「あと絶対に一人にならないこと。いいな?」


 師匠が身を乗り出して私の肩をグッと掴んだ。あまりに真剣な顔と掴まれた肩の力が強くて、コクコクと頷くことしかできなかった。


 ミレイナも心配してたけど……流石にほぼ全貴族が集まるような場所で何もないよね?


 


 城に着くとチェックを受けてやっと城内に通される。馬車から降りて重い足取りで会場に向かう。久しぶりの城内だけど全く感慨がない。


 はぁ……早く館に帰りたいなぁ。


 トボトボと歩いていたら、エスコートしてくれている師匠が視線を向けてきた。


「このまま控えの間までご一緒してもよろしいでしょうか?」

「へっ!?」


 久しぶりの師匠の敬語にびっくりしすぎて変な声が出てしまった。城の中ということでまばらに会場へ向かう人たちがいる。人の目があるから態度を変えなくてはならないのだろう。しょうがないことだけどすごく距離ができたみたいでなんだか寂しい。家族から他人になったみたい。


 そんな事を口に出しても困らせるだけなので寂しさを堪えて「お願いします」と師匠に返す。控えの間へ向かうため、会場の入り口へ向かう回廊ではなく、人があまりいない回廊へ行くと、マリーベルをエスコートしていたテオくんが「え」と狼狽えた。


「そんな……僕なんかがそんな所へ行っていいのでしょうか?」


 私がいるから行っても大丈夫だけど、テオくんは自分が会場以外の場所に行ってもいいのか戸惑っている。葛藤から思考が口から漏れているテオくんの言葉を要約すると『元平民の自分が王族がいるような場所まで行ってもいいのか。でも一人でいるのも不安。どうしたらいいのか』という感じだ。


 確かに初めての新年祭、一人だと不安だよね?


「じゃあマリーベルとテオくんは先に会場に……」

「私は姫様にお伴します」


 食い気味にマリーベルが一緒に行くと言ったため、テオくんは涙目になった。


 ……これはテオくんにはあんまり行けない場所に行けるという貴重な経験ができると前向きに思ってもらって一緒に来てもらう方がいいかな?


 そんなことを考えていたら、「あれ、テオ?」とテオくんの背後から男性の声がかかった。そちらを見ると中年の男性がいた。テオくんは振り返り男性を見るとホッとしてマリーベルから離れ、男性に駆け寄っていった。


「あの、一緒に行ってもいいですか?」

「もちろん。初めての新年祭だから緊張するよな。俺もそうだったからわかるよ」


 どうやらテオくんと同じ、元平民の男爵のようだ。テオくんが安心して新年祭に参加できるのならよかった。

 

「ではテオくんのこと頼みますね。テオくんまた後でね」

「はい」


「えっ姫様!?」と驚きの声が背後から聞こえたけど気にせず師匠とマリーベルと控えの間に向かった。


 しばらく歩き、控えの間の壮麗な扉と警備の騎士の姿が見えてきた。扉から少し距離がある所で止まり、師匠とマリーベルを見上げる。


「二人ともありがとうございました」

「……」


 師匠は少し眉を寄せ難しい顔をして何も言わなかった。何だろう。一人になることを心配されているのだろうか。

 

「新年祭が始まったらすぐに伺いますね」


 マリーベルの微笑みと言葉に憂鬱だった私の気持ちは上向きになった。

 

「ありがと」


 マリーベルは毎年、この日は侍女の仕事をしなくてもいいのに私の側に来て控えてくれている。


 そしてまだ難しい顔をしている師匠を安心させるために笑顔を浮かべる。


「ちゃんと師匠の言いつけは守りますから……」

「メルリーユ!!そのドレスはどうしたの!?」


 師匠への言葉は途中で割って入ってきたヒステリックな声に遮られた。声の主は私たちとは別の回廊からやってきた王妃だった。王妃の少し後ろには正装の陛下がいる。

 挨拶をしようとスカートを持ち上げ、腰を落とす。後ろで衣擦れの音がしたから師匠とマリーベルも臣下の礼をとっているのだろう。挨拶を口にする前に王妃のキンキンとした怒鳴り声で捲し立てられた。


「それよりそのドレスよ!どうしたのよ!お金を隠し持っていたの!?私に隠れてそんなことするなんて、なんて狡猾な子なの!母である私が管理するから持ってきなさい!」


 ……普段母と呼ぶなと言っておきながら都合のいい時だけ母だと。ふーん。


 大きな大きなため息をつきたくなったのはしょうがないよね。


 あーあ……早く帰りたいなぁ……

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