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74話 マリーベルの気持ち

 その後軽く打ち合わせをして、ヴァレリーさんは帰路につく。行き同様魔術陣を使うため、今は師匠が町役場へ通信の魔道具を使って連絡してくれている。パールは私たちがヴァレリーさんから話を聞いている間、庭を駆けていたけど疲れたのか今は椅子の近くで丸まって寝ていた。師匠が通信している間、私は浮かない顔のヴァレリーさんに声をかける。


「きちんと謝ったらマリーベルは許してくれると思いますよ」


 ヴァレリーさんは困ったような顔で笑った。


「……ありがとうございます。人からどう思われても、自分が大切にしているものを貶されたら怒って当然ですよね。本当に申し訳ないと思っています。姫様にも不愉快な思いをさせてしまい申し訳ございません。その上助言やマリーベル様とお会いできる機会まで設けようとしてくださり感謝申し上げます」


 そう言うとヴァレリーさんは深く頭を下げた。私は慌ててヴァレリーさんに頭を上げてもらう。


「とんでもないです。元はと言えば私が作った髪飾りが原因ですから。マリーベルが大切にしてくれているのは嬉しいですけど、自分でも細工が未熟なことは十分承知しています。目利きであるヴァレリーさんが気になったのは当然でしょう」

「姫様の寛大なお心に感謝いたします。それでも自分の配慮が欠けていたのは確かです。髪飾りの細工が気になり、深く考えずにあのような事を口走っていました。宝飾品は得意分野ですから、いい所を見せたくて焦ってしまったのです」


 恥じるように俯いて地面を見つめていたヴァレリーさんは「しかし」と言うとしっかりと私の目を見て宣言した。


「すぐに会えなくても私は諦めません。姫様が御止めになるまで行動します」

「え?何で私?」

「あまりにもしつこいと迷惑になるでしょう?私は諦めるつもりはありませんが、マリーベル様が本当に嫌がっていたらそれは私の望みではありません。その際はお手数ですが、姫様に教えていただきたいのです」

「そういうことなら……わかりました」


 私もマリーベルに嫌な思いをして欲しいわけではない。マリーベルには幸せになって欲しいのだ。そういえばマリーベルの気持ちを聞いていなかった。マリーベルの気持ちのことも考えてくれるなんて、ヴァレリーさんいい人だな……


 そう思っていたらヴァレリーさんが肩をすくめた。


「て、母にマリーベル様のお気持ちを考えるよう叱られたんですけどね」


 あ、ソニアさんのお陰かぁ……でも世の中には自分が正しいと思って人の指摘を受け入れない殿下のような人もいるから、立派だよね。


 私も自分が作った髪飾りからこんなことになったから、罪悪感でついマリーベルの気持ちも考えないで会う機会を作ろうとしちゃってたな……マリーベルにも聞いてみよう。

 

 ……機嫌、直ってるといいなぁ……


 遠い目をしていたら通信が終わった師匠に転移の準備が整ったと言われ、ヴァレリーさんは帰って行った。




「あのー……マリーベル。ヴァレリーさんのことだけど……」


 就寝間際、布団をかけてくれていたマリーベルの空気がピシリと凍った。結局夕食の時もピリピリした雰囲気で聞けずに、今になってしまった。

 

 今も若干ピリピリ感はあるけど、師匠がいない場の方がいいかなと思ったんだよね。


 この二人、なんかよくわからないことで争ってるから、師匠がいるとマリーベルが素直に答えてくれない気がしたのだ。


「もう二度と仕事以外でお話することはないと思いますが、何でしょう」


 にっこり笑っているが、なんか黒い。怖い。室内なのに雪が見える気がする。


 でもここで怯むわけにはいかない。頑張れ、私!


 私は自分を鼓舞して話を続ける。


「ぇえっと、ヴァレリーさん側の話を聞いたわ。髪飾りが原因なのよね?私の腕が未熟でごめんなさい」

「そんなことはございません!姫様は私のために一生懸命作ってくださったでしょう?以前よりお上手になっていましたから。そんな心のこもったものをあの男は貶したのです!」


 ……目の前に机があったら思いっきり叩きそうな勢いだ。部屋の隅の寝床で丸くなっていたパールが飛び起きている。マリーベルを落ち着かせるため私はベッドから起き上がり、彼女の両手をそっと握った。マリーベルの体が小さく震えた。


「それだけ私のことを大切にしてくれて、ありがとう。ただね、ヴァレリーさんは悪気があったわけじゃなくて、知らなかっただけよ。マリーベルに謝りたいって言っていたわ。私にも謝ってくれたの」

「……そうですか」


 先程より怒りが収まっているようだが、マリーベルの眉間にはシワが寄ったままだ。


「ねえ、マリーベル。髪飾りの件を抜きにしたら、ヴァレリーさんのことをどう思う?」

「……どう、とは……」

「ヴァレリーさんのこと、嫌い?お茶してて嫌だった?」

「そんなことはありません!」


 思わず大きな声で否定したマリーベルは、自分で自分の声に驚いたのかハッとしてバツが悪そうに顔をそむけた。

 その反応で十分だ。マリーベルもヴァレリーさんに好感を持っている。私はマリーベルの両手を握ったままゆっくりと口を開く。


「マリーベル、あそこまで怒ってもめげずに向かってきてくれる人って少ないと思うの。今後、個人的に会うかはマリーベルの自由だけど、謝罪の機会はくれない?」

「……いずれ、でしたら」


 よし、言質いただきました。マリーベルもいずれ謝罪を受ける気があるとわかってよかった。それに本気でヴァレリーさんを拒絶しているわけではないようだ。ちらりと聞いた、過去の婚約させられそうになった人たちとは態度が違う。

 

 ということでマリーベルのいずれと私のいずれは違うので、謝罪の機会はちょっと強引に作らせてもらいます。だって寝かせると謝りにくくならない?それにずっとモヤモヤしてるの心身によくないからね!マリーベルやヴァレリーさんはもちろんだけど、私もね!

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