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Ⅰ章  その1 俺とスキルとスライムと

 草原を出た俺は、ウィンドウ曰く、南に約10kmの位置で偶然見つけた切り株の上に座っていた。

 基本的に歩いていたので肉体的にはそこまできつくなかったのだが、なかなか変わらぬ風景、同じような風景に精神がやられた。

 この切り株を見つけた時、「もう・・・動きたくないでござる」と、侍口調で言ってしまったほどだ。

 なので、1時間ほどの長時間の休憩を挟むことにした。

 ウィンドウでタイマーをセットし、ついでに紫半透明の板をタップし、半脳死状態で弄って機能を確認する。

 そこでフッとあることを忘れていた事を思い出した。

 異世界において、強さの象徴である、俺がよく小説で見ていたもの、それは・・・

「スキルー-ーー!!」

 スキルは、これ系の異世界物の醍醐味と言っても過言ではない。色々あったけれど、それを忘れていたとはヲタクとして一生の不覚。

 俺は獲物に狙いを付けた虎の如き目とスクロールの世界チャンピオンをも超える指使いでスキルの欄を探すためにスクロールする。

 しかし、3分経っても見つからない。

 忍耐力が弱い俺は、諦めてウィンドウ(せんせい)を頼ることにした。

「アシスト!」

「何か御用でしょうか?」

 無機質なような女性の声が頭の中で響き渡る。

 ここまで来る途中やここに来てからも話しかけていたのでさすがに頭に響く感じには慣れた。

 世の中には一生慣れない人もいるらしい。

 無機質な声には、俺の場合、スマートフォンのサポートAIやボカロ曲で慣れていた。

 しかし、俺には妹がいるのだが、妹はボカロ特有の機械的な声は苦手だったらしく、俺がボカロ曲をスピーカーで流すと大変ご立腹だった。

 それは置いといて

「スキルの欄を開いてくれ」

 そう俺はウィンドウにお願いする。

 すると、ウィンドウが切り替わりスキルと思われる文字やアイコンが現れる。俺は爆発しそうな程の期待の興奮を抑え、ゆっくりとウィンドウを覗く。

 ウィンドウは真ん中の線で半分に分けられ右側には上から下までビッチリとスキルで埋まっており、左側には何も無かった。

「アシスト、左側には何も無いがどういう事なんだ?」

と見方の分からない俺はウィンドウに聞いてみた。すると、

「左側は対魔物(モンスター)用スキル、右側は対人間(ヒューマン)用スキルとなっております。主な違いとしては、対魔物用スキルは人間に対しては効果が使い物にならないほど弱化します。また逆に、対人間用スキルはモンスターに対しては効果が使い物にならないほど弱化します」

とのことだった。

 要は俺はバリバリの対人スキル保持者だということらしい。なので、モンスターにはめっぽう弱い。

 だが、

「だが、案ずるな。このタイプ、レベルアップやらアイテム消費やらで増やせるやつだ! そうだろう? そうなんだろう? ウィンドウ!」

 焦り半分、期待半分で半ば縋り付くようにウィンドウに問いかける。だが、ウィンドウからの回答は無慈悲なものだった。

「残念ですが、スキルは生まれつきのものであり、内容の変更はありません。また、この世界にレベルアップの要素はありません」

 その瞬間、俺から希望というものは無くなり、絶望で目の前が真っ白になった。



 数分の気絶を経て、意識を取り戻した俺は再度絶望する。

 なぜ、俺がここまで絶望するかというと、異世界の醍醐味と言ったらなんでも、モンスターを倒したり、ダンジョンを攻略したり(有るかは分からないが)、パーティを組んで友情を深め合うことだ。

 なのに、それができないのだ。

 理不尽にもこの世界に連れてこられたのに。

 少しの配慮くらいあっても良いと思う。

 その配慮が対人間用スキルの大量保持というのなら正直、あまり嬉しくない配慮だ。

 こんな大量にあるのなら、少しくらい対モンスター用にまわして欲しかった。

 異世界に来てまで、人間と戦いたくない。

 それに、レベルアップの要素も無いそうだ。――悲しい。

 そもそも、対モンスター用スキルが無いなら、俺に死ねと言っているようなものではないかと思う。

 だって、俺が始めにいたのは街から30kmもある草原だ。街まで行く途中にはモンスターだっている。

 あの草原でさえ安全かどうかも分からない。

 そんな場所に為す術も無い俺はいたというわけだ。

 うーん、理不尽が嫌いだのどうだのと言っていたが、おかしい。

 しかし、終わったことなので今更言ってもしょうがない。

 俺は諦めて、ウィンドウに映っている対人間用スキルを見る。



 内容はこんな感じだった


 ―≪生時取得スキル:対人≫――――――――――――――――――――――――

 対人用加速(アクセル)・・・敵と対峙する際、物理的行動が加速される。

 対人用皮硬強化(コーティング)・・・敵と対峙する際、皮膚の一部が硬化される。

 対人用魔力強化(エンハンス)・・・敵と対峙する際、魔力が増強される。

 対人用威圧(プレッシャー)・・・敵と対峙する際、威圧を発する事ができる。

 対人用超思考加速(オーバークロック)・・・敵と対峙する際、思考が3億倍される。

 対人用正確補整(アキュラシー)・・・敵と対峙する際、正確性が増す。

 対人用知能増強(バトル・アシスト)・・・敵と対峙する際、対処法や作戦などのサポートが受けられる。

 対人用超分析(エノ・ライズ)・・・敵と対峙する際、相手の状態が分かる。

 対人用痛覚遮断(ペイン・アウト)・・・敵と対峙する際、痛覚が遮断される。

 対人用心力増強(ハート・メディカル)・・・敵と対峙する際、相手に臆する事が無くなる。また、精神系攻撃を無効する。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ―≪共通スキル≫―――――――――――――――――――――――――――――

 逃亡(スケープ)・・・逃亡する際、中確率で逃げ切れる。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 以上が俺の持つスキルだ。

 ≪生時取得スキル≫とは、先ほどから話題に上がっている対人間用スキルのことで()()()()()()()()()に持っているスキルだが、≪共通スキル≫とは何なのかウィンドウに聞いてみると、『()()()()()()()()()持っているスキル』とのことだった。

 中確率ではあるが、この『逃亡』というスキルがあるので、モンスターが出てきても一応は安心だ。

 というか、俺はもうこの世界の人間判定なんだな。

 そんなことを考えていると突如、すぐ側の草むらゴソゴソという音とともに揺れ、次の瞬間、青いゼリー状の体と白い眼の物体が飛び出して来た。

 おそらく、モンスター。

 そして、この世界でも俺のゲームの知識通りで合っているのなら、そのモンスターの中でもとりわけ有名なその名も

「―――スライム」

 俺はゴクリッと喉を鳴らす。相手は元の世界では最弱かつ初心者用のモンスターとして名を轟かせていたやつだ。

 しかし、この世界ではどうかわからない。

 そして、モンスターに対しては貧弱な俺がこの世界で初めて出会ったモンスターだ。

 俺は念のため、弱化している≪対人用超分析≫を使い、モンスターの情報を読み取る。

 使い方は、頭の中で念じれば使えるらしい。

 すると、スライムの頭上に名前とちょっとした説明が現れる。



 NAME(なまえ):ノーマル・スライム

 EX(その他):ごく一般的なスライム。かなり弱い。弱酸性の肉体。中級の対人間用スキル保持者でも勝てる。



 弱化しているといえどここまで詳しいとは。≪対人用超分析≫か。人間相手だとさらに期待できそうだ。

 俺は素直にそう思った。

 まあ、今はそんなことを考えるのではなくこのノーマル・スライムと戦うか、逃げるかを考えるべきだが。

 俺個人としてはやはりモンスターとの戦いは憧れなので戦いたいが、この世界に来たばっかりだし、特別な訓練や戦いの心得を学んだりしてないため上手く戦える自信がない。

 また、命を懸けた戦いなので、死の可能性も考慮して考えなければならない。

 俺はまたしても戦って大丈夫かウィンドウ(せんせい)に判断を仰ぐ。

 解答は「対人用知能増強(バトル・アシスト)を使えば問題ないだろう」とのことだった。

 また、同時にゲームでもおなじみ感のあるような粗末な両刃の鉄剣が支給された。

 俺は、対人用知能増強(バトル・アシスト)を発動させる。

 すると、体が勝手に動く。

 だが、何かの力によって強制的に動かされているような感覚ではなく、体が正しい動きを覚えているかのような、その動きが染み付いているかのような自然な感覚だった。

 剣を立て、腰を落とし、戦闘態勢の『構え』をとる。

 ちなみに、バトルアニメで見た構え方に寄せている。

 そして、戦闘が始まった。

 スライムはポヨン、ポヨンとリズミカルなテンポで飛び跳ねながら勇人へ接近を試みる。

 一方の勇人は、ジッと構えを崩さず、攻撃するタイミングを窺っている。

 その間にもスライムは一刻一刻と一直線にかなりの速さで迫り来る。

 いよいよ、スライムは5m…4m…3mと迫る。

 すると、2mを切ったところで突如スライムはこれまでと比べものにならない程の高さまで飛び跳ねると、勇人の頭上から体当たりの攻撃を仕掛ける。

 しかし、勇人はこの時を待っていたのか、または、そうなると分かっていたのか、上に一目もくれず剣を振り下ろす。

 剣はスライムに吸い寄せられるように動き、命中、深い傷を付ける。

 スライムは「ギュー!」と痛そうな、苦しそうな声を出すと地面に落下し、そのままコロコロと転がりながら後方に下がる。

 スライムは、怒りを露わにして勇人を睨み付けながら再度襲いかかる。

 同時に、元の『構え』に構え直した勇人も打って出る。

 体全体を前へ倒し、重心を前方に移動させると、前へ走り出す。腕は下げられ、剣は刃先を下にだらんと向けられ、左手は剣の柄に添えられている。

 再度、両者は激突する。

 スライムの攻撃方法は先程と同じく体当たりだが、違う点はあまり高く飛び跳ねず、勇人の胸あたりを狙っているというところだろうか。

 そのぶん、高く上へ跳ぶ時よりも抵抗を受けにくく、力を伝えやすいので、威力とスピードが増す。

 勇人に関しては、先程と変わらず機を窺うのか、ほかのアクションは起こさず、疾走し、スライムに接近を試みる。

 両者はだんだん距離を縮めていき、スライムは剣の間合いに入る。

 その瞬間を勇人は見逃さなかった。

 (した)()ろしている剣を振り上げ、スライムに向かって切り上げ攻撃を放つ。

 そのまま、手首を返すと斬り下ろし攻撃を仕掛ける。

 いずれの攻撃も全てスライムに命中する。この攻撃を受けたスライムは「キッ、キュゥ~」と力無く叫ぶと、パッンと音を立てて四散し、(おのれ)の身を飛び散らせる。

「お、終わったー」

俺はそのまま地面に倒れこむと、疲れと喜びの入り混じった声で言う。

 だが、疲れの混じった声とは裏腹にスライムの破片を顔に引っ付けながら、ニヤニヤとした顔をしていた。

 傍から見れば自分に酔ったやばい奴としか見られなかっただろう。

 いや、自分でも分かっているのだ。

 顔が自然とニヤけているのが感覚で伝わってきている。

 だが、仕方ないと思う。

 だって、人生で初めてモンスターを倒したのだ。

 たとえそれがスライムでもこれが嬉しくないヲタクなんて多分そうそういない。

 もしかしたら、これが、「この世界に来てよかったー」と初めて思える瞬間だったかもしれない。

 喜びを嚙み締めながら寝転び、残りの時間は何事もなく過ぎていき、俺は鳴り響くタイマーの機械的な音を止めると、再び街に向けて軽い足取りでスキップをして、駆けだしたのだった。

皆様、お久しぶりです!

かなりの期間が空きまして申し訳ございません。

評価、よろしくお願いします!!

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