第一話
登り始めた朝日が、緑の山々に彩りを与える。湖面が朝日を反射し煌めき、鳥のさえずりが森に響く。綺麗に整えられた山道には風が吹き、心地よく木々が揺れる音が聞こえる。
「やっぱり、朝この森を歩くのは気持ちいいな。」
一人の青年が、木漏れ日に目を細め空を見上げている。心地よい風は、少し癖のある長い髪をなびかせた。
しばらくその場に立ち止まった後、青年は前を向き、再び歩き始める。
山道を少し下ると大きな樹に木板が掛かっていた。そこには『カメロ村』の文字。その先には民家がポツポツと建ち並ぶ。朝食の支度だろうか、いくつかの煙突から白い煙が上がっている。
青年は中央部まで歩みを進めると『ガリニ』と書かれた宿屋へ入っていった。
「遅ぇぞエリオス!もう少し早く帰ってこい馬鹿野郎。さっさと飯済ませて宿手伝ってくれ!」
受付で客の相手をする男がエリオスを急かす。『従業員のみ』と書かれた扉を開け、廊下の奥へ進む。台所に着くと、テーブルにはまだ温かいスープにウインナー、目玉焼きとパンが置かれていた。エリオスはイスに腰を掛け、早速食事を始めた。
忙しなく動く他の従業員が、エリオスを見かけると優しく挨拶をしてくれた。
「エリオスさんおはようございます。テフザさん朝から張り切ってますね。早く手伝わないとまたドヤされますよ。」
「うん。さっきもうドヤされた。」
従業員と会話をしていると、受付の方からテフザの声が響く。
「早くこっちこい!買い出しに行ってくれ!」
「うるせえ!もう少しゆっくり食わせろ馬鹿親父!あとスープ味薄いぞ!」
二人は喧嘩を始め、従業員がそれを見て笑う。いつもの日常が流れていた。
エリオスは食事を終え、買い出しのため、従業員と二人で買い物袋と樽を持ってハドルフ王国の王都へ向かった。
山道を登ると、二人の前に大きな石造りの壁が姿を見せた。門兵に通行証を見せ引かれた門をくぐると、広大な石畳の道が広がり、様々な種類の木が王城へ続いている。中央部には大きな噴水により水が空へ舞い、その周りには沢山の店が連なり、人々が賑わっていた。二人は人混みをかき分け、食料店へ向かった。
「いやぁ、カメロ村がハドルフ領でよかったですね!無領地に店構えてたらここまで歩くのにどれだけかかるか。いつも考えるだけでゾッとしますよ。」
「本当だな。親父のやつ人使い荒いんだよ。たまには自分で行けっての。」
テフザへの愚痴で会話が盛り上がっているエリオスの肩と何かがぶつかる。顔をそちらへ向けると、ハドルフ王国のシンボルが刻まれる緑色のマントに身を包み、容姿の整った青年がこちらを向いて立っていた。
「すまん。人混みで押されてしまって。では。」
そう言い残し、颯爽と立ち去るその姿に、少し目を奪われたエリオスは従業員の声で我に返る。
「あの制服は王都特異法学院の生徒さんですね。流石に我々とは住む世界が違いますね!なんかオーラがある!」
「ははっ、そうだな。」
その後二人は買い物を終えてガリニへ帰ると、テフザが二人へ昼飯を作って待っていた。
「おお帰ったか!もう直ぐできるから待っててくれ。」
「おい、親父が買い出しに行って俺が料理作った方が効率いいだろ!イデオ持ってるんだし、パッと行ってくりゃいいじゃんか!」
「馬鹿野郎お前、俺のイデオは無呼吸の状態の時しか身体能力上がらねぇんだぞ。ここから王都までの往復で死んでしまうわ!」
二人の会話に微笑んでいた従業員は、他の従業員に呼ばれ席を外した。その後直ぐに昼飯が出来上がり、テフザとエリオスは二人で食事をする。
「なぁ親父。緑のマント着てる奴らって王都特異法学院の奴らなんだろ?あれってやっぱイデオを持ってる奴しか入学出来ないのか?」
「そうだな。だがそれだけじゃねぇ。イデオを持ちこの国を守る奴らってとこだな。王国騎士団の見習いみたいなもんだ。」
「そっか。俺にもイデオがあれば、あの時みたいにはならなかったのかもな。」
エリオスは少し俯き、過去を思い出していた。




