ー王国の消滅ー
夕日が、辺り一面の草木を黄金色に輝かせる。その丘から見えるのは広大な草原と湖。そしてクアル王国。
その壮大な景色を丘から眺めるのは、隣に位置する王国の、幾千にも及ぶ騎士たちだった。
時を同じくして、クアル王国の王城にある寝室にて、新たな命が誕生した。クアル王国の第二王子である。兄となった第一王子、トッド・クアルは頬を赤らめ、大喜びで飛び跳ねる。自分の小さな人差し指を、泣いている赤子へ差し伸ばす。
小さな赤子は泣き止み、トッドの小さな指を握る。その光景を近くで見る母ティアノールと、父クアル王は微笑み、穏やかな時が流れていた。
クアル王は、温かい空気が流れる寝室を後にし、玉座の間へと足を運ぶ。青と金色の装飾を施した絨毯が、玉座の間の扉へと繋がる廊下へ広がる。喜びに満ちた王が、足早に廊下を歩いていると、二人の従者が王の名前を叫びながら走り、近づいてくる。
焦った様子の従者の一人が、息を整える様子もなく、大声で叫ぶ様に話す。
「クアル王様!ガルシア王国の騎士団が、我がクアル王国に突然の侵攻を開始致しました!」
続けてもう一人の従者が話す。
「ガルシア王国の騎士団の総数は未だ掴めておりませんが、万が一、最大戦力であるならば、その総数は約六千程になります!」
クアル王からは、先ほどまでの笑顔は消え去り、深刻な面持ちのまま二人の従者に告げる。
『我が王国騎士団を早急に集めなさい!決して、決して!この国を獲られぬよう最大戦力で迎え撃つのです!』
人々に暖かさを与える夕日の美しさとは裏腹に、クアル王国はまるで、地獄絵図そのものと化した。
突然の襲撃によりクアル王国は態勢を整える間もなく、防衛線はことごとく突破され、戦火は瞬く間に王都へ拡大していく。
その頃、王城ではたくさんの使用人が忙しなく動き回る。クアル王とその妻ティアノールは王城へ残り、この国に身を捧げることを決める。そしてティアノールは、産まれたばかりの第二王子を激しく揺れる馬車へは乗せられないと判断し、クアル王の友人へ宛てた手紙とトッドを使用人に託し、王城の裏手へ連れていく。
トッドは激しく抵抗したが、使用人にその身を強く抱き止められ、そのまま馬車に乗せられる。城が見えなくなる最後の最後まで父と母の名前を叫んでいた。
そして、僅かな希望にかけ産まれたばかりの第二王子と一人の使用人を、頑丈で重い扉の部屋へ連れて行く。ティアノールは第二王子へ手を伸ばし、頬を少し撫でる。
『この子をお願いします。』
強張った笑顔を見せた後、使用人と少し笑顔を見せた第二王子を部屋へ置き、重い扉を閉め鍵をかける。
その後、ガルシア王国騎士団の侵攻は先ほどにも増して過激になり、もはやクアル王国騎士団では止めることは出来なかった。王城には大砲による砲弾が飛び交い、使用人やクアル王国騎士団は銀色の重厚な鎧を纏うガルシア騎士団により無惨に切り裂かれる。
巨大な炎が昇る王城に、ガルシア王国騎士団の侵攻に乗じて忍び込んだ盗賊が一人。城内を忙しく徘徊する騎士団に見つからぬ様、部屋を一つ一つ見て回る。
そして一箇所だけ、全くびくともしない扉があった。盗賊は何度も強く押してみるが開く気配がなかった。諦め離れようとした時、外から飛んできた砲弾が扉に命中。しかしその扉は全壊することなく、形を歪めただけだった。しかし歪んだ隙間からその部屋に入ることが出来た。
部屋に入ると、先ほどの砲弾により被弾した若い女が倒れ、そのすぐ横では赤子が泣き喚いていた。
「なんなんだ、この部屋は。なぜ子供がこんなとこにいる。」
見渡す限りそこには金品は何もなく、食料や水しか置いていなかった。
そして、そこにもう一度砲弾が飛んできた。重い扉は完全に形を失った。そして部屋の外には鎧が擦れる音と複数人の足音が聞こえた。
盗賊はすぐにその場を離れようと立ち上がり、走り出す。しかし入口付近で立ち止まる。何を思ったか、持っていた袋を逆さまにして中の金品を放り出す。
急いで赤子を袋に入れる。しかし入口にはすでにガルシア王国騎士団が数人立っていた。
「まだ生き残りがいたか!殺してしまえ!」
盗賊は息を大きく吸った後、呼吸を止める。身体に不思議な光が宿る。大きく踏み出した瞬間、とてつもない速さで騎士団の間をすり抜けていく。
「っぷはぁっ!クソっ!何してんだ俺は!子供一人見捨てらんねぇのか!!」
盗賊は赤子の入った袋を抱え、燃え盛る王城を脱出した。
その日、世界からクアル王国の存在が消滅した。




