2-3 成敗
ガタ、と入口の扉が開き。
即座に、受付のヨウシアは顔を上げる。
そうして、その中年男の目が軽く意外そうに丸められた。
ガラガラと空の荷車を引いて入ってくるのは、少し前に出ていったばかりの黒装束だったから。
「どうしたいクート、忘れ物か?」
「いや」
受付台の前まで来て、クートは荷車を少し脇に寄せて止めた。
それから背伸びをするような仕草で、台越しにヨウシアの顔を覗く。
「一応、協会に報告しておいた方がいいかと思って」
「何かあったのかい」
「その先の道で、さっきのレンニと三人の仲間に襲われた」
「はあ、何だって?」
「返り討ちにしたから、今は四人とも脚を折って道の上で転がってる」
「はあ?」
「こういう場合、どうしたらいいのかな。協会に報告したら、後始末してくれる? 領兵か何処かに通報して処理してもらう?」
「いや、いや――ちょっと待って!」
「待つけど」
ヨウシアの大声に、奥から他の職員が何人か寄ってくる。
受付台の手前では、前からいた魔狩人たちが何人も遠巻きに集まり耳をそばだててくる。
「四人に襲われて、お前さんは傷一つないのか?」
「うん」
「いやあいつら、そこそこ腕っ節に覚えのある魔狩人なんだぞ」
「うん、凄く力強い剣筋だったね」
「それを、お前さん――」
「協会で何とかするなら、急いだ方がいいよ。もう町の中で騒ぎになってきてたから」
「ああ、そうか――」
振り向いて、ヨウシアは若い男二人を指名した。
二人は並んでバタバタと、飛び出していく。
「信用しないわけでもないが双方の話を聞きたいから、クートはしばらくここで待っていてくれ」
「うん」
「四人が襲ってきたって、相手は何か言っていたのか?」
「うん。さっきの獲物の買い取り金額を寄越せって言ってた」
「何とも……」
額を掌で覆って、ヨウシアはすっかり顰め面になっている。
少し脇で隣の受付台に肘を置いて、やや頭髪に白いものが混じった大柄の男がこれ見よがしの溜息をついた。年長者として仲間内では世話好きな性分で知られる、ヘンリッキという魔狩人だ。
クートが登録した当座、自分の組に入れと提案してきたのもこの男だった。
「あの野郎――遊郭で女に入れ揚げて、借金を膨らませているらしいからなあ」
「そうなのか?」
「まあ、そういう噂だ」
言葉をやや濁すが、このヘンリッキの仲間内に関する情報は確かだと、かなり信頼を得ているのはよく知られた話だ。
ヨウシアの顔は、ますます苦々しいものになっている。
「はっきり強盗目的だとしたら、仲間内の問題などと言ってられん。領の警備隊に任せて、裁きを受けさせるべきだろうな」
「事実だとしたら、仕方ねえなあ」
「まあ一応、本人たちの言い分を聞いてということにするが――くそ、協会長が留守のときにこんな問題を起こしやがって」
「副会長のヨウシアにとっちゃ、お気の毒なこったな」
「まったくだ」
それなりに長いつき合いらしい年輩者同士で、愚痴の吐き出しと受け止めの姿勢になっている。
そんなやりとりをしているうち、外にガラガラとけたたましい音が近づいてきた。
大開きにした扉から荷車が二台、さっき出て行った職員に引かれて入ってくる。
さらに喧しいことに、二台に二人ずつ大男が載せられ、脚を押さえて呻いているのだ。
四人とも両脚骨折で歩けないので、現場近くの商店で荷車を借りて運んできたという。
これ見よがしに嘆息して、ヨウシアは受付台の内側から出てきた。
「本当に、見事にやられているんだな。おいお前ら、クートを金目当てで襲ったっていうのは本当か?」
びくり、と身を震わせ。四人は怯えた顔を上げた。
その回した視線が少し離れた小柄な黒装束を捉え、身を縮こめる。
「わ、もう――勘弁してくれ!」
「正直に話すなら、何もしない」
「話す、話すから」
ぽかんとした顔を、ヨウシアはヘンリッキと見合わせた。
そうしてから、レンニの顔を覗き込む。
「どうなんだ、本当か?」
「ほ、本当だ。四人で、そこの路地で襲った」
「金目当てなんだな?」
「あ、ああ、そうだ」
「強盗傷害未遂じゃ、協会の中のことで済ますわけにはいかないぞ」
「わ、分かった」
ヨウシアは、若い職員に警備隊を呼んでくるように指示をする。
そうしているところへ、兵士らしい装備をした男が四人、入ってきた。この件は町の中ですでに騒ぎになっていて、すでに警備隊に通報が行っていたらしい。
ヨウシアが説明をし、クートといくつか問答をして、警備隊員はこれ幸いとそのまま荷車に載せて四人を運び出していった。
加害者の四人があっさり犯行を認め、クートは明らかに正当防衛と見なされるということで、それ以上長居をするつもりもないようだ。
居合わせた人々は、何処か呆然とそれを見送った。
「何とも――何だったんだこりゃって感じだな」
「まったく」
ヘンリッキとヨウシアは、また疲れたような顔を見合わす。
訳分からないが一件落着らしい、と他の魔狩人たちは元通り建物内に散らばっていった。
年輩の二人だけがクートの傍に残ることになって、副会長はやや落とした声で問いかける。
「それにしても、何だったんだ、あの奴らの怯えぶりは」
「さあ。もしかして、一度片脚を折った後でもう一方の脚を可愛がってお願いしたからかな」
「可愛が――四人とも、両脚折れていたよな」
「片脚だけだと、離れようとしたところでケンケンで追ってこられても嫌だから。こっちは態の小さな一人、あっちは大男四人、無理のない配慮でしょ」
「何と――」
「まあ後ろ脚二本痛めても、まだ前二本あるからね。そっちだけは死守したかったのかな」
「おいおい」
「あの威勢のいい奴らの気勢を削いだってのかい――それにしてもその、お願いってなあ何だ?」
「取り調べには素直に話すことと、斬り合いの詳しいところは話さないこと、かな」
「はあ? まあ最初の方は分からないでもないが――」
「何で斬り合いの様子を隠す?」
年長狩人が、胡乱げな顔を向けてくる。
ヨウシアも合わせて、うんうんと頷いている。
それに、クートはさらに声を低めた。
「他に言わないでね。あまりに斬り合いが一方的だったと知れたら、面倒だから」
「何だと?」
「大きな声は、勘弁。副会長さんとヘンリッキ先輩を信用して、話してるんだから」
「お――おう」
「それでも、どうやって――」
「詳しくは、秘密」
「やれやれ」
副会長は、ガリガリと頭をかいて唸る。
「それにしてもお前さん、秘密が多すぎてそのうちにっちもさっちもいかなくなりかねんぞ」
「そうかあ」
「その小さな柄でどうやって狩りをしているのかも、どうやって獲物を運んでいるのかも、秘密は仕方ないがみんな好奇をもって噂している」
「ふうん」




