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魔力値1で生まれた令嬢は――死んでたまるか!  作者: eggy


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3/8

1-2 回想

 父や義母たちの思考――想像でしかないが。

 エヴェリーナの実子を後継にと言い渡されているとはいうものの、そのエヴェリーナと実子が自然死したとしたらその辺も緩和されるだろう、という考えなのではないか。他に仕方のない状況なら侯爵も、あえて子爵家を取り潰すとまでは言わないのではないか、と。

 それが、イルヴァを餓死寸前までくり返し追い詰めている理由だろう。

 イルヴァを、自然死させなければならない。

 他のことと同様に、これも屋敷の女使用人たちの噂話で知ったことだが。侯爵家の抱える医師は、加護によって特別な能力を持っている。死体検分の際に、病死、負傷死、餓死、毒死の区別がつくというのだ。

 貴族の親族が死亡した場合必ず、主家の医師が検死をする。餓死だと自然死と見なされず、子爵家が責任を問われることになる。もちろん負傷死も、誤魔化しは難しい。毒死は論外。

 そのため、餓死寸前まで追い込むことをくり返してイルヴァの身体を弱らせ、何らかの病死の結果を招こうと考えたらしい。死体がかなり痩せこけたことになるが、病での衰弱が長く続いていたとでも強弁するつもりか。

 とにかくもそんな事情で、現在のイルヴァの境遇に到ったということになる。


――ふざけんなよ、テメーら!


 いきなりまた、頭の奥に雄叫おたけびが生まれた。

 そんな勝手な都合で、七歳児を死にかけさせるってか?

 テメーら、地獄の底に堕ちやがれ!


「……はあ、はあ、はあ……」


 脳内で叫んでいるだけで、弱りきった身体に無理が加わったみたいだ。

 俯せで背を丸め、ぜいぜいとイルヴァは息を整える。


――とにかく、奴らの手に乗って堪るか!


 奴らというのが何処までを指すのかも、分からないのだが。

 イルヴァのこの小部屋への監禁は、半年近く前から続いている。与えられる食料は徐々に減らされて、このひと月ほどは五日に一度ということになっている。その間、これを妨げる力は何処からも働いていないみたいだ。

 父はひと月に一回程度、帰宅しているはずだ。

 娘のこの境遇を容認しているのか、身体を壊して父の前に出られないとでも説明されているのか。

 もし後者だとしても、もう半年近く。娘への無関心さ、弁解の余地もないだろう。その気はもしなくても、この行為に加担しているのと同じと言っていい。

 またイルヴァの味方となって不思議はない存在として、母の伯父に当たるキュマライネン伯爵という人がいるわけだが。イルヴァがこの人に会った記憶は、母の葬儀のときだけだ。それ以外に便りなど何らかの接触を受けたことは、一切ない。

 姪の婚姻の際にその実子を後継とするよう条件をつけたのはこの伯爵の意思らしいが、その後その実子の境遇に配慮する様子はまるきり見せていないようなのだ。厄介者だった姪を片づけて、それで安堵しているとしか思えない。

 また、この屋敷の使用人たちは。イルヴァのこの状態を知らない者はいないはずだが、誰も気にもしていないようだ。

 女主人と執事に言い含められているのだろうが、そもそも後妻がこの家に入ってからかなり入れ替わり、娘に配慮する存在は皆無になっていると思われる。


――つまり、助けを求められそうな相手は、何処にもいないんだよ。


 これが七歳児の実状かよ、と暗澹あんたんとしてしまう。

 そうすると、何か打開を図るにしても、すべて自力に頼るしかないということになる。

 何か、できることはあるか。


 ところで。

 この世界には、魔法というものと加護というもの存在する。ただ、その区別は曖昧だ。

 人間には個人ごとに異なるが例外なく生まれ持った魔力値というものがあり、どちらも何らかの形でその魔力値を消費して使用される。

 子どもがおよそ生後一年になった頃、教会で魔力値を計測する。この生まれ持った魔力値は、一生変わらないと言われる。

 基礎魔法と呼ばれる、火、水、風、光のどれかを生み出し操るような力は、幼い頃から自然と使えるようになるのがふつうだ。ただほとんどは、例えば火なら目の前のまきに点火するのがやっと、水なら一度にコップ半分程度の量を何もないところから生み出すという、生活で少し便利かという程度のものに収まる。

 この基礎魔法はどれもほぼ例外なく誰にでも使え、およそ五回程度で魔力値1を消費する。

 また子どもがおよそ七歳になった時点で、教会に行って神から加護を賜る儀式がある。

 平民の中にはいい加減な場合もあるようだが、貴族の家庭ではまず例外なく実施されている決まり事だ。

 加護というのはその人ごとに固有の、他人より突出した能力のようなものだ。

 多くの場合は、基礎魔法、火、水、風、光のどれかがやや強力になるという能力になる。同じ火や水にしても、攻撃に使用して敵を撥ね飛ばすことができる威力がある、など。この場合の魔法は1回で魔力値1~5程度を消費する。

 その中でもごくまれに――貴族ではやや割合が高いと言われる――少し変わった種類の能力を得る場合がある。

 前にも挙げたように、死体検分の際に、病死、負傷死、餓死、毒死の区別がつく能力とか。

 農業で作物の栽培方法が自然に頭に浮かぶ能力、など。

 こういう変わった能力に関しては、前例もなくて可能性や限界などがよく分からないものも多い。


 イルヴァは一歳のとき魔力値計測を受け、「魔力値1」と宣告を受けた。

 もちろん本人は覚えていないが、父はあからさまに、


出来損できそこないではないか」


 と吐き捨てたという。

 ひどい言いざまだが、


――気持ちとして、分からないでもないんだよねえ。


 魔力値1では、どんな素晴らしい加護を授かっても使うことができないということになるのだ。

 魔力値はかなり消費して減らしても、夜睡眠して日が変わると元通りに回復する。しかしその前に持っている魔力値を使い果たすと、命に関わるとされている。

 実例として、かなりの体調悪化で済んだ例もあれば、本当に死亡した例もあるらしい。割合として、死亡例の方が多く報告されているという。

 そういうことが知られているのだから、試しにしても魔力値を使い果たしてみようという者はいない。

 加護の能力は使用すると少なくとも魔力値1を消費するのだから、イルヴァはどんな加護であっても使えないということになるのだ。

 せいぜいこの魔力値の使い道は、一日に基礎魔法を五回未満、ということになる。

 生まれ持つ魔力値は、平民で10~20、貴族で20~30程度とされる。

 イルヴァのそれは、平民より大きく劣るということになる。


「平民以下では、貴族として恥ずかしくて生きていけぬわ」


 一歳の計測時以来、父はイルヴァにほぼ見向きもしなくなった。

 それでも母は見捨てず養育に努めたが、身体が丈夫でないためあまり子育てに注力できない。

 何とか実家に紹介してもらった子守りと家庭教師を雇い入れ、娘につけた。貴族として恥ずかしくないように、とイルヴァは三歳時から読み書きなどを学習することになった。

 しかしその母が一年前、イルヴァが六歳のときに亡くなる。

 その後も父の無関心は変わらないが、それでも側付の使用人などは変わらず、イルヴァは貴族子女としておかしくはない待遇を受け続けた。

 ただ事実上唯一の肉親と呼べる存在を失って、何をする気力もなくしていた。

 その境遇が大きく変わったのは、約半年前だった。

 父が、後妻を迎え入れた。身分は平民らしいがその息子が実子だと公言していることからして明らかに、以前から領都に囲っていたのだろう。

 イルヴァが教会で、加護を授かった。


「お嬢様の加護は――『そらあいだ』ということです」

「何だその、空何とかというのは?」

「詳しくは不明です。前例のない特殊な加護と思われます」


 神官は首を傾げ、父はそれを聞いて苛立たしげに青筋を立てる。

 しかしよく分からないということを理解すると、子爵はすぐにすべての関心を失った。


「まあ、いい。どんな加護であれ、これには使うことができぬのだからな」

「そう、ですね」

「少しは有用な加護であればこれが子をなすときに遺伝が期待できるかと思ったが、それも無意味であったな」


 その日以来、完全に父は娘の方に目を向けなくなった。

 父がほとんど屋敷にいることがないというのは以前からだが、たまに帰宅して家族と食卓を囲んでも、その目が娘に向くことはない。妻と息子とぽつぽつ会話するばかりだ。

 義兄のアールネの魔力は何とか貴族の体面を保てる値(おそらく20)、加護は強めの風魔法を賜ったという。娘より貴族らしい、と事あるごとに話題にしている。



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