1-10 察知
魔力値4に上がってからさらに、五日。
空間は四十九個。
魔力値は5になった。
またさらに、いろいろするに当たって余裕ができる。
ふと気がついて、先日の筋力強化のような思いがけない魔力の使い方が他にないか、『知識』に尋ねてみる。
すると、何となくためらいがちの手応えながら「気配察知」というものを伝えてきた。魔力を薄く広く展開して、他の人や魔獣の魔力との衝突を感じとるのだそうだ。
――何それ? 面白そう。
ただしあくまで創作物の中の存在だから、あまり当てにするなとつけ加えてくる。
それこそ半信半疑ながら、試してみる。
――こう、かな?
筋力強化で腕に纏わせたものを、今度は遠くへ押し出す感覚だ。
魔力値0・2分の消費で、広げていくことができた。
しかし何と言うか、それ以上要領が掴めない。
広げていってはいるけれども、それで何かを感じとるというのが、
――難しい。
魔力値0・2の消費で、一ゲール強見当続けることができたが、どうもうまくいかない。
それでも始めた以上、その日のうちにあと0・8分も使う必要があるので、それをくり返してみる。しかしおよそ四ゲールでその分を使い果たしても、収穫はなかった。合計五回くり返して、魔力を広げる感触には慣れてきたかという程度だ。
しかし何となく、
――完全に空振りというよりは、手応えみたいなものもある気がするんだよねえ。
この日は終わりにして、また後日試してみようと思う。
翌日になって、とりあえずあと五回は同じことを確かめてみようと考える。
一度二度とくり返し、屋敷の中に魔力が広がっていく感覚がかなり掴めるようになった。
――ん、これかな?
その中で、確かにところどころ引っかかるみたいなものが感じとれる。
時間をかけて、その一つ一つのありかを探る。
三度目の試行の間に、かなりそれを正確に掴めるようになった。
「よし、やった!」
数えて三十二個見つかったその引っかかりは、おそらくこの屋敷の家人たちだ。それらの動きや、どの部屋にいるといったことが読みとれる。
四回目の試行で少し加減をしたりして、短い時間なら同じことを魔力値0・1の消費でできることが分かった。0・2で一ゲール強、0・1で三十チール程度まで。これより短時間にして消費量を減らすことはできない。つまり一瞬の使用でも、消費魔力値は0・1だ。
それでもかなり要領を掴んで、数チールで屋敷全体の人の様子を読みとれるようになった。
ずっと意識集中していなくても、たとえばこちらに接近している動きを察知するなどということができるようだ。
――これ、凄いことだよね。
やろうと思えばいつでも、魔力値0・1の消費で屋敷内の人の動きが分かる。
夜の探索のようなとき、0・1~0・2の消費でずっと警戒ができる。人に見つかる危険が、格段に減ることになる。
そしてさらに大きいことに、これで昼間でも場合によって屋敷内を探索できるということになりそうだ。
またささやかな利点として、これを使えば魔力値0・1単位での消費がいつでもできるわけで、使い果たしの際に重宝するかもしれない。
この日はパンが運ばれてくるはずなので、実験はやめにして室内を整えた。
いろいろ部屋に持ち込んだものはすべて、戸棚に隠す。
この日だけむき出しに戻る板のベッドに、力なく横になる。
いつもの女が入ってきて、変わらず嘲りの笑いでパンと水を置いて出ていく。
パンが支給されるこの日だけは一日二個食べる贅沢を自分に許しているが、昼前に一個を食べたばかりなのでここは収納し、夕方に食べる習慣にしている。
コップの中の水も収納していつ回収に来られてもいいように備え、しばらくベッドでぼうっとする。
――さて、これから何をしていくか、だね。
もう少し体力がついたら外に出てみよう、とイルヴァは考えていた。まずこれまでパンを運ぶ以外部屋を訪ねる者はいないので、しばらく抜け出しても分からないだろう。
廊下から正規の出入口を使うのは、さすがに見つかる危険が高いだろう。家人たちの現在地を掴んでいたとしても、遠くから見えてしまう箇所が多すぎる。
代わりの案として。窓の格子は切り取る形なら収納できるので、こちらから出入りしようと思うのだ。
ただあとで怪しまれないように、格子を元通りにできるのかがやや疑問になる。
上下二分割して収納できるなら、元に戻して切れ目は見にくくなるのが分かっている。しかしこの収納の大きさだと三分割する必要がありそうだ。そうなると、原状復帰が難しい気がする。
――何か、工夫のしようがないかなあ。
しばらく、考えることにしたい。
もし外に出られるならそれに備えて、二階から男児用の衣類と靴を移動しておこうと思う。平民に見られても不思議のないかなり質素な服を見つけたので、あれが使えるだろう。
そんなことを考えて、
――しばらくはそうしたことへの準備、かな。
と思う。
翌日からはまた、訪問者がいないはずの四日間が始まった。
午近くに目覚め、食事をとり。
正午の教会の鐘を聞いて、ややしばらく。
「さて」
と考えを落ち着ける。
この屋敷というか、ほぼ国全体の習慣だが。働く人々は、午過ぎに二ゲール程度の休憩をとる。
軽い昼食の後、お茶を飲みながら世間話をしたり、あるいは昼寝をする者もいる。
この屋敷では、厨房隣の使用人用食堂に女たちが集まり、四方山話をしていることが多いようだ。
気配察知を広げて確かめると、この日もそうした休憩に入ったようでほぼ人の動きが止まっていた。
――試しに、やってみるかな。
気配察知を使い続けると、魔力値0・2の消費で一ゲール強程度、それらの動きを把握していられる。急に動いて接近してくるようなら、すぐに警戒できる。
今、この部屋から厨房付近までの廊下に、人の目はない。
ということで、廊下に出てみる。
足音を忍ばせて、食堂に近づく。
少し部屋を離れたので、接近者がいた場合すぐ戻るということはできないが、この辺りは作業用部屋や物置ばかりなのでそのどれかに逃げ込めば見つからないだろう。
いくつかの物置の錠は収納で外せると確かめたので、そこに入って錠を戻しておけば絶対捜索されることはあり得ない。
自室にも扉の錠をかけておいたので、開いて覗く者もいないはずだ。
そういう準備を徹底した上で、何をしに行くかというと。盗み聞きだ。
食堂に集う女たちの他愛ないだろう話に、部屋の外から聞耳を立てる。
――何しろこちら、情報が足りないからね。
およそ半年前から屋敷の内外で何が起きているか、何も知らないのだ。
もしこの国の中で大きな戦争が起きていたとしても、イルヴァの耳には入っていないと思われる。
まったく趣味の悪い行為だと思うが、仕方ない。
住み込みの女使用人や通いの厨房下働き女たちが、声高に会話の花を咲かせる。廊下に蹲って、しばらくイルヴァはそれに耳を傾けた。




