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魔力値1で生まれた令嬢は――死んでたまるか!  作者: eggy


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1-9 強化

 また最近になってイルヴァは暗い中での厨房内の状況把握に慣れ、残りスープのようなものも頻繁に見つけられるようになった。

 これは毎回、小鉢一杯分だけ持ち帰りを許す、と自己ルールに定める。

 汁物ならたぶん、その程度の減り方を気にかけないと思われる。

 何よりもイルヴァの食事の味が格段によくなるし、具のないスープであってもパンだけよりはかなり栄養価があるはずだ。

 一度、遅くなってから温め直したのかまだ熱いスープに出会ったことがあった。収納に入れて翌朝取り出すと、まだそのまま熱い。


――もしかすると、と思ったけど。成功だ。


 本当に久しぶり、熱い食事をとることができて、イルヴァの目に涙が染み出してきた。

 なおこれで、収納の中では時間経過していないことが判明したことになる。

 今更ながら、だけど。これまで実験することができなかった収穫だ。


 さらに最近、厨房に隣接する物置を覗くことができた。

 やや埃を被ったその中は、あまり日常使わない調理道具などを保管しているらしい。大人数の煮物などを作るのに使うのか、イルヴァがすっぽり入ってしまいそうな大鍋まである。

 その他いくつか、状況によって重宝しそうな道具がある。


――これは、覚えておこう。


 ここにも廃棄用のものを入れるらしい箱があったので中を探り、ぎりぎり収納に入る大きさのナイフをいただくことにする。そこそこまだ切れ味があり、布くらいなら切ることができそうだ。収納の中なら人に見つかることがないので、持っておいて損はない。

 少し錆がついていたけれど、ナイフだけ収納とするとそれも消え、そこそこ切れ味が増していた。



 さらに五日過ぎて、空間は三十個になった。

 この日、魔力値は4に上がる。

 ますます余裕ができて、本当に目一杯空間成造でなく他の魔法の使い方を考えてもいいんじゃないかと思えてくる。


――いやいや、まだ平民の平均魔力値よりずっと少ないんだけどね。


 試しにというわけでもないけど、水魔法。一回でコップ半分ほどの水が現れる。

 久しぶりに飲む魔法の水は、なかなかおいしい。

 しかしこうして一回使ってしまうと、今日中にあと四回基礎魔法を使わなければならない。

 今の魔力値は確かに、3・8だ。この0・8分を半端に残したら、使い果たしにならない。

 一回は夜の探索で、光を使おうと思う。

 光魔法は一回でややぼんやりなら三十チール(分)ほど続くので、おそらく一回で済む。

 とすると、あと三回の消費。

 以前に比べると贅沢と言うか何処か馬鹿らしいことをやっている気にもなるけど、たまにならこんなのもいいと思う。

 実を言うと以前から例の『知識』が囁きかけてくる中で、いくつか興味惹かれるものがあるのだ。

 イルヴァは十日以上前から、体力をつけようと昼間身体を動かすことを日課にしている。

 たいしたことはできないけれど、それでも少しずつ効果が出ている、かもしれない。

 ずっと考えていることだが、将来的にはこの家を出て一人で生きていけるようにしたい。そのためには体力をつけることと、人や魔獣に対する戦闘力をつける必要がある。


――戦闘力――どうしたら、つくもんなんだろうね。


 そんないろいろ考える中で、『知識』が教えるには。火や水の魔法を戦闘に生かす使い方が(創作物の中に)ある、という。

 もちろんそれは常識として、加護によって基礎魔法の強化ができた人には可能らしいけど。

 もしかすると、基礎魔法だけでも使い方によるかもしれない、という。

 火や水を出すだけでなく、遠くへ飛ばす感覚で使うというのではないか。

 うーーん、と考えてしまう。


――無駄に終わるかもしれないけどなあ。


 今日は、今日だけは、無駄なことでもやってみようと決めたんだ。

 戦闘力に繋げるために、水魔法を遠くに飛ばす実験をしてみよう。

 室内で火魔法だと飛ばすのは危ないから、水にしておく。

 水をすぐには出さずに、しばらく魔力のまま差し上げた指先に集める感じ。

 集められるだけ、集めてみる。

 じわじわと、集める。

 しばらく、集めて。


「あれ?」


 妙なことに、気がついた。

 視界の数字が、3・4になっている。

 こうして集めているだけで、魔力値が0・4減った?

 ふつうの水の基礎魔法なら、減るのは0・2のはずだけど。その分量を超えて魔力が集まってしまったらしい。

 まだ魔力は水に変わらずに、指先から肘の間辺りにぽやぽや漂っている感覚だ。

 少し驚いたせいで集める力が緩んだみたいで、、魔力は指から少し後退して、腕全体を覆う感じになった。

 右腕全体が、何となくぽかぽか暖かい。

 すると、頭の奥から囁くものがあった。

 試しにそのまま、テーブル板の下に手を入れて持ち上げてみる。

 いつもなら両手でやっとという重さが、片手で軽々持ち上がる。


――何これえ!


 頭の奥の『知識』によると(またまた創作物の中だけど)、魔力の「筋力強化」という使い方があるのだとか。直接魔力を身体にまといつかせる感覚で、筋力が上がるのだという。

 そんなこと、他で聞いたことがない。

『知識』もまさかこの世界でそれが実現するとは思わず、今まで口出ししなかったのだとか。

 今のイルヴァのような魔力の使い方を、試した人がいなかったということか。

 基礎魔法は伝統的に使い方が決まっているようなものなので、他のやり方をしようとは思わない。何か参考になる記録でも何処かにあればまた違うのだろうけど、この『知識』のような創作物的なものはこの世にないと思われる。

 もしかすると何処かで誰か気づいた者がいるのかもしれないけど、記録に残したり他に知らせたりをほぼしていないということもあり得るか。そもそもこの世界、書物みたいなものはあまり普及していないのだ。

 もう一度確かめてみると、右腕の力はふだんの一・五倍から二倍程度になっているみたいだ。

 そのままの状態にしていて、およそ三ゲール(時間)ほど持続した。この領主邸から少し離れた教会で二ゲールごとに鳴る鐘からの見当で、細かくは正確でないけど。

 つまり魔力値を0・4消費して、片腕の筋力を二倍弱程度に強化することを三ゲールほど続けられる、というわけらしい。

 試してみても、魔力値消費を増やしてさらに筋力を強くする、ということは今のところできないようだ。

 それでもこれもまた、ありがたい発見だ。非力な幼児にとって、かなりの朗報というか。


――まあ二倍になったとしても、まだたぶん大人より弱いんだけどね。


 それでもいろいろと、活用法がありそうだ。

 それに加えて、いろいろ腕力を使うことを試して、三ゲール経っても疲れが残っていない。

 いつもの室内での運動の感覚で、三ゲールもこのテーブルの持ち上げ下ろしをくり返したらその後動けなくなるのだけれど。今はそれがまったくない。

 これも有力な情報だ。

 結局水魔法強化はうまくいかなかったけれど、それ以上に意味の大きな収穫を得た気がする。


 この夜は光魔法を使うのをやめにして、この筋力強化を両腕に使ってみた。

 試してみると、魔力値0・4で両腕強化ができてしまった。ついでに両脚までできないかと思ったが、そこまでは無理だった。

 もしかすると、両腕と両脚だと0・8の消費ということになるのだろうか。

 もし両脚に使えたら、力の強化以上に疲れにくいということが利点として大きい気がする。ただ脚については室内での検証が難しいので、何とか日中に外に出ることができてからの方が現実的か。

 とにかくもその確認は後日ということにして、この夜は物置の探索をした。

 ごとごと。


――よし、動かせた。


 今まで動かせなかった箱も移動し開けることができて、いろいろ新しく見つけるものがあった。

 男児用のものではあるが、今のイルヴァの大きさに合いそうな衣類がいくつか見つかる。

 いかにも貴族的なものは用がないが、乗馬や狩り用のものらしい動きやすそうな上着や靴があったので、覚えておくことにする。


――必要になったら、ここから借りることにしよう。


 筋力強化のありがたさは、しみじみと身に沁みる。

 基礎魔法だけでも、必要な場面は出てきそうだ。

 それでも今後のことを思うとこれらをふだん使うのはできるだけ避け、最優先で収納空間増加に努めようと思う。



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