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魔力値1で生まれた令嬢は――死んでたまるか!  作者: eggy


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2-4 打明《うちあけ》

 少しだけ考えて、クートは大人二人の顔を順に見た。

 それでも、面倒そうな様子が、覆面をつけていても窺える。


「分かった。じゃあ、少しだけ秘密を明かす」

「そうか」


 頷く職員の顔を横目で見。

 それから、先輩狩人の顔を見る。


「他にも聞きたい人は、勝手に聞いてもいい」

「そうなのか」


 ヘンリッキが見回すと、仲間や後輩たちが察してか、何事かと寄ってきた。

 その様子に構わず、黒装束はヨウシアに向かう。


「どうやって獲物を運ぶか、話す」

「おう」

「実は僕、魔法袋を持っている」

「何い――話に聞く、見た目よりずっと多くのものが入る袋ってやつか」

「うん、祖父じいさんの形見。この背負い袋がそう」


 言いながら肩にかけた紐を外して、革の袋を下ろす。

 その動きを目で追って、ヘンリッキは呻いた。


「しかしおい、魔法袋って貴重なもので、貴族でも持っているのは数人と聞いたぞ」

「そうだ、そう聞く」

「これは、そこまで凄いものじゃない」


 口々に問いたげな聴衆を冷静に見回して。

 クートはゆっくり袋の口を開いた。


「入るのはせいぜい、今日の黒毛山牛くろげやまうし程度。縦横高さ、二ガターってとこかな」

「ああ」一人が頷く。「貴族様が持つようなのは、部屋一つ分とか蔵一つ分とか入るって聞くものな」

「そうだな」

「確かにそれに比べりゃ、とんでもないってほどじゃないか」

「しかしそれでも、とんでもないぞ。よっぽどの魔法が使えなきゃ作れないっていうじゃないか」

「確かに」


 聴衆の騒めきを聞きながら床に袋を安置して、クートは腰の剣を鞘ごと外している。

 その剣を並べて立てると、明らかに袋の高さより長さがある。


「いい?」


 見回して。

 無造作に剣を袋の口に差し込む。

 あっという間に、すべての長さが中に消えた。

 おおーーッ、と聴衆から声が上がる。


「凄え」

「本当だ」

「確かに、見た目より大きなものが入るわけだ」


 全員の納得を確かめて、クートは改めて袋に手を入れた。

 今消えた剣が、掴まれて出てくる。

 おおーーッ、と少し前よりは低い声が上がる。

 それから改めて、クートは副会長の顔を見た。


「ただ肝心なことがある。この袋、僕にしか使えない」

「そうなのか?」

「そういう魔法を、祖父さんがかけた」

「へええ」

「試してみて」


 言って、剣が手渡された。

 頷いて、ヨウシアはその剣を袋の口に差し込む。しかしすぐに先が底に届き、柄より長い部分が上にはみ出して止まった。


「なるほど、俺だとここまでしか入らない」

「分かった?」

「納得だな」


 頷いて、剣を返し。

 ヨウシアはヘンリッキと顔を見合わせた。


「つまりそうするとこの魔法袋は、もし盗んでも他の奴には使えないわけだな」

「おお、貸し出しも無理ってことだ。黒毛山牛が一頭入るなら狩人にとっちゃ羨ましくてならないが、取り上げるわけにゃいかないと」

「魔法袋ってのは商人や貴族にとっては垂涎すいぜんのもんだというがな。それは商人にとって多くの荷物を運べる、貴族や王族だといくさのときに兵糧や武器なんかをそれで運ぶと大助かりって感じだろうが。クートのこれはそこまでの役には立たないってことだ」

「だなあ。本当にそんな大きさのを持っていたら貴族なんかに高禄で召し抱えられるならまだよし、へたすると拘束されて奴隷のように利用されかねないわけだが、クートのこの大きさならそこまで無茶をする奴もいそうにない」

「それでも変なのが寄ってくるのは、迷惑。話を広めるのは勘弁して」

「分かった」


 苦笑で頷き、ヘンリッキは一同を見回した。

 だいたいを理解して、聴衆たちは軽く頷き合っている。


「分かったか、お前ら。クートは何かインチキして獲物を運んでいるわけじゃねえ。他の奴には真似できないし羨ましいとも言えるが、仲間のよしみで広めるのはやめといてやれ」

「分かったよ」

「せいぜいがこいつの機嫌をとって一緒に狩りに出て、運ぶのを助けてもらうこったろうが。クートにその気はないだろう」

「ない」

「そういうことで、みんな納得しておけ。こいつがさっきの四人を全滅させるくらいの手練てだれだってことも、忘れるな」

「くれぐれも、これ以上の揉め事は起こさないでくれよ」

「おう」


 副会長の念押しに、全員がそれぞれ肩をすくめている。

 一応の納得はした、ということだ。

 これで解散、と皆元の用事に戻っていく。

 奥に戻ろうとするヨウシアを少し追って、クートはヘンリッキに声をかけた。


「先輩、ちょっと裏に付き合ってくれる? 副会長さんも」

「ん、何だ?」

「二人にだけ、秘密に知っておいてもらいたい」

「ほう」


 裏口から外に出ると、協会の広い敷地にならして運動ができる広場がある。

 狩人たちの剣の稽古などに貸し出しできるように、としつらえてあるものだ。

 さっき下ろした袋を手に持ったクートは、その隅に立ち止まった。


「先輩、真似でいいから、剣を抜いて斬りかかってきてもらえる?」

「何だ?」

「ゆっくりでいいから」

「分かった」


 それなりに察して、ヨウシアは二人から少し離れた。

 言われた通り腰の剣を抜き、少し振りかぶった姿勢で「こうか?」とヘンリッキはり足で踏み出す。

 勢いは殺して、剣が振り下ろされる。

 その剣先がもう少しで届くという距離で、クートは口を開いた袋をその前にかざした。

 一瞬で、剣が消え失せる。

 慌てて前のめりになりかかる、その大男の脚に屈んだ黒装束の剣が宛がわれた。


「お――」

「なるほど」ヨウシアが頷いた。「魔法袋を、そう使うわけか」

「まだ差し込まなくても、直前で消すことができるわけだ」

「うん」


 頷いて剣を引き、クートは低くしていた姿勢を立て直す。

 それから袋に手を入れ、取り出した剣を大男に返却した。


「でも、秘密でお願い。今の呼吸が知られると、身を守りにくい」

「なるほど、相手を斬ろうと思い切り振り下ろした剣が途中で消えて空振りするるわけだからな、知らずに斬りかかったらまず助かる奴はいないだろう」

「まあしかし納得したよ、クートがあの四人に完勝した理由わけは。狩りの場合も、似たようなことをするわけか」

「そうだけど、詳しくは秘密」

「分かったよ」


 ヘンリッキに続いて、ヨウシアも何度も頷いている。

 苦笑で、年輩狩人は黒装束の肩を叩いた。


「あとはクートの命綱ってことだろうから、秘密で当然だわな。分かった、俺から他の奴らには言っとくよ。クートの腕は俺が見て納得した、詳しいところは秘密だってな」

「ありがとう」

「どうせそれが目的で、俺たちだけに見せたんだろう?」

「まあ」


 覆面の下で小さな笑みが浮かぶのが、年輩二人に見えた気がした。



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