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幸せになりたいだけだった、君と  作者: あーちゃん


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21/25

“結婚したい”って、あなたが言った夜

恋人でいるだけでも、

十分幸せだった。


それなのにあなたは、

もっと先の未来をくれようとする。


怖いはずなのに。


どうして私は、

その言葉を聞いた瞬間、

泣きそうになるほど嬉しかったんだろう。

クリスマスイブの夜だった。


街はどこを見ても光で溢れていた。


イルミネーション。

恋人たち。

笑い声。


昔の美桜なら、この空気をどこか遠く感じていた。


“幸せそうな人たちの世界”だと思っていたから。


でも今年は違う。


玲司が隣にいる。


その事実だけで、世界の見え方が少し変わっていた。


「人すごいですね」


玲司が苦笑する。


「みんなクリスマス好きなんですね」


「玲司さんは嫌いなんですか」


「嫌いじゃないですけど、救急めちゃくちゃ増えるので」


その返答が玲司らしくて、美桜は笑ってしまう。


「夢ない」


「現実主義なので」


そんな会話をしながら、二人は駅前を歩いていた。


玲司は夜勤前だった。


本当なら会えない予定だった。


でも玲司が、「少しだけでも会いたい」と言ってくれた。


その言葉だけで、美桜は一日中嬉しかった。


「寒くないですか?」


玲司が聞く。


「大丈夫です」


そう答えた瞬間、玲司がマフラーを美桜の首へ巻き直す。


その手が優しい。


美桜の胸が静かに熱くなる。


好きだ。


今でも、会うたびに。


「……玲司さん」


「はい」


「最近、幸せすぎて怖いです」


気づけばそう呟いていた。


玲司が少し笑う。


「またそれ言ってる」


「だって本当に」


美桜はイルミネーションを見上げる。


綺麗だった。


でも、綺麗なものほど消えてしまいそうで怖い。


「前まで、“どうせ終わる”しか思えなかったのに」


声が小さくなる。


「今は、“終わってほしくない”って思うから」


玲司はしばらく黙っていた。


それから静かに言う。


「じゃあ、終わらないように頑張ります」


その言葉に、美桜の胸が締めつけられる。


“絶対終わらない”じゃない。


“終わらないように頑張る”。


玲司らしい言い方だった。


誠実で、

現実的で、

でもちゃんと優しい。


「……ずるいです」


美桜は小さく笑った。


「何が」


「そういう言葉」


玲司は少し照れたみたいに笑う。


「美桜、すぐ泣きそうになるので」


図星だった。


最近、美桜は本当に涙もろい。


嬉しくても泣きそうになる。


安心しても泣きそうになる。


それはきっと、

“幸せ”に慣れていないからだ。


カフェへ入る。


窓際の席。


外では雪がちらついていた。


「ホワイトクリスマスですね」


美桜が言う。


「本当だ」


玲司は少し目を細める。


その横顔を見るだけで、胸が苦しくなる。


好きだ。


こんなにも。


「玲司さん」


「はい」


「去年のクリスマス何してました?」


玲司は少し考える。


「夜勤明けで寝てました」


「寂しい」


「今年は?」


「今年は美桜いるので」


その一言が嬉しすぎて、美桜は目を逸らした。


こんなふうに、当たり前みたいに“隣にいてほしい”と言われることが、今でも信じられない。


「……私」


美桜は小さく言った。


「昔、クリスマス嫌いだったんです」


玲司が静かに聞いている。


「家族で過ごす日って感じだったから」


声が少し震える。


「うちは、あんまりそういう感じじゃなかったので」


父がいなくなってから、クリスマスは静かだった。


母は仕事。

コンビニのケーキ。

一人で見るテレビ。


だから美桜は、“幸せな家族”を見るたび少し苦しかった。


玲司は静かに美桜の手を握る。


「じゃあ、来年からは楽しい日にしましょう」


その瞬間。


美桜の胸がぎゅっと締めつけられる。


来年。


また一緒にいる前提。


その未来が、以前より怖くない。


むしろ、嬉しい。


「……うん」


小さく頷く。


玲司が優しく笑った。


その笑顔を見ていると、未来を信じたくなる。


カフェを出る頃には、雪が少し積もっていた。


白い街。


冷たい空気。


玲司は仕事へ向かわなければならない。


その現実が少し寂しい。


「もう行かなきゃ」


玲司が時間を確認する。


美桜は小さく頷いた。


「気をつけてくださいね」


「はい」


以前なら、ここで不安が押し寄せていた。


事故。

搬送。

帰ってこない未来。


でも今は少し違う。


もちろん怖い。


でも、“帰ってくる”を信じたいと思える。


それは玲司が、何度も「ちゃんと帰る」と伝えてくれたからだ。


駅前。


人混みの中。


玲司がふと立ち止まる。


「美桜」


「はい?」


玲司は少しだけ真剣な顔をしていた。


「……俺、ちゃんと考えてます」


その言葉に、美桜の胸がざわつく。


「何を」


玲司は少しだけ緊張したみたいに息を吐いた。


そして、静かに言う。


「美桜と、これから先のこと」


その瞬間。


世界の音が遠くなった気がした。


「俺」


玲司はまっすぐ美桜を見る。


「ちゃんと、一緒に生きていきたいです」


胸が苦しい。


嬉しくて、

怖くて、

泣きそうになる。


玲司は続けた。


「まだすぐじゃなくていいです」


静かな声。


「でも、いつか」


玲司が少し笑う。


「結婚したいって思ってます」


その瞬間。


美桜の目から涙が溢れた。


自分でも驚くくらい、一瞬だった。


玲司が少し焦る。


「え、なんで泣くんですか」


「だって……」


声が震える。


「そんなこと言われると思わなかったから」


玲司は困ったように笑う。


「俺、結構前から思ってましたよ」


「……え?」


「美桜と一緒にいると、“帰りたい”って思うので」


涙が止まらない。


帰りたい場所。


それを、玲司も同じように感じてくれていた。


「……怖くないんですか」


美桜は震える声で聞いた。


「結婚とか、家族とか」


玲司は少し考える。


「怖いですよ」


即答だった。


「でも」


玲司は静かに美桜を見る。


「怖い以上に、一緒にいたいので」


その言葉が胸に深く刺さる。


美桜はずっと、“怖いから逃げる”を繰り返してきた。


傷つかないように。

失わないように。


でも玲司は違う。


怖くても、

ちゃんと向き合おうとしている。


「……私」


美桜は泣きながら笑った。


「前まで、“家族”って言葉嫌いだったんです」


玲司が静かに聞いている。


「でも今は」


涙が止まらない。


「玲司さんとなら、作ってみたいって思う」


その瞬間。


玲司の目が少し潤んだ気がした。


「……やばい」


玲司が小さく笑う。


「普通に嬉しい」


その顔が愛しくて、美桜はまた泣きそうになる。


「まだ怖いです」


美桜は正直に言った。


「幸せになればなるほど、失うの怖くなるし」


玲司は小さく頷く。


「うん」


「でも」


美桜は玲司の手を握り返した。


「玲司さんとなら、ちゃんと頑張りたい」


その瞬間。


玲司は優しく美桜を抱きしめた。


雪が静かに降っている。


街は光で溢れている。


でも美桜にとって一番温かかったのは、玲司の腕の中だった。


「……美桜」


玲司が小さく言う。


「はい」


「幸せにします、とかは簡単に言えないです」


その言葉が玲司らしくて、美桜は少し笑った。


「でも」


玲司は少しだけ強く抱きしめる。


「一緒に幸せになりたいです」


その瞬間。


美桜の中で、何かが静かにほどけた。


“結婚”。


その言葉はまだ少し怖い。


でも。


玲司となら。


この人となら。


その未来を、

ちゃんと見てみたいと思った。

第21ページを読んでくださりありがとうございました。


今回は、玲司が初めて「結婚したい」という未来の想いを美桜へ伝える回でした。


怖い。

でも、一緒にいたい。


その気持ちが、二人を少しずつ“恋人”から“人生を共にする存在”へ変えていきます。


次のページでは、美桜が“幸せになってもいい”と初めて心から思える瞬間が訪れ、二人の関係はさらに大きく進んでいきます。

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