“ずっと一緒にいたい”が、怖くなくなっていった
“永遠”なんて信じられなかった。
どうせ人は変わる。
どうせ最後は離れていく。
そう思っていたのに。
あなたといると、
不思議なくらい自然に思ってしまう。
明日も、
来年も、
その先も、
隣にいてほしい、と。
年末が近づくにつれて、仕事はさらに忙しくなっていった。
式場には毎日のように打ち合わせが入り、スタッフルームは常に慌ただしい。
「年末婚ってなんでこんな多いんですかね」
莉子が資料を抱えながらぼやく。
「冬のイルミネーション綺麗だからじゃない?」
美桜が言うと、莉子はじっとこちらを見た。
「美桜さん、最近ほんと柔らかくなりましたね」
「またそれ?」
「前はもっと、“仕事以外いらないです”みたいな顔してました」
否定できない。
以前の美桜は、本当に仕事しかなかった。
恋愛より仕事。
寂しさより仕事。
誰かに頼るより仕事。
そうやっていれば、自分を保てたから。
でも今は違う。
仕事が終わったあと、帰りたい場所がある。
玲司の部屋。
「お疲れさま」と言ってくれる声。
疲れた顔で笑う玲司。
その存在が、美桜の日常を変えていた。
「で?」
莉子がニヤニヤする。
「年越しどうするんですか?」
「玲司さん夜勤だから」
「あー……」
莉子が少し残念そうな顔をした。
「でも、夜勤明けで来てくれるって」
その瞬間、莉子が固まる。
「……え、普通にめちゃくちゃ好きじゃないですか」
美桜は少し照れながら笑った。
好きだ。
苦しいくらい。
でも最近、その“好き”に以前ほど恐怖が混ざらなくなってきていた。
もちろん怖い。
失う未来を想像してしまうこともある。
でも、それ以上に。
玲司と過ごす“今”を大事にしたいと思えるようになってきた。
仕事終わり。
外へ出ると、冷たい空気が頬を刺した。
スマホが震える。
『終わりました?』
玲司からだった。
その文字を見るだけで、胸が温かくなる。
『今終わった』
すぐ返信する。
数秒後。
『迎え行きます』
その言葉に、美桜は少し笑った。
以前なら、“悪いから大丈夫”と断っていた。
でも今は違う。
会いたいと思ったら、ちゃんと会いたいと言える。
その変化が嬉しかった。
駅前へ向かうと、玲司がいた。
黒いコート。
少し眠そうな目。
美桜を見ると、玲司は安心したみたいに笑う。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
自然に並んで歩く。
その距離感が、もう当たり前になっている。
「寒いですね」
美桜が言う。
「手、冷たいですか」
玲司が聞く。
「ちょっと」
次の瞬間、玲司が当たり前みたいに手を繋いだ。
その温度に、美桜の胸が静かに熱くなる。
好きだ。
今でも、何度でも思う。
「今日泊まります?」
玲司が聞く。
「……うん」
その返事も、最近は自然だった。
玲司の部屋へ帰ることが、“帰宅”みたいになっている。
それが少し怖くて、
でも幸せだった。
コンビニへ寄る。
玲司がカゴへアイスを入れる。
「またですか」
「冬のアイス好きなので」
「完全に美桜の影響です」
そんな会話をしながら、美桜はふと思う。
こういう普通の時間を、
ずっと続けたい。
以前の自分なら、そんな未来を考えるだけで怖くなっていた。
でも今は。
“怖い”だけじゃない。
玲司の部屋へ着く。
「ただいま」
自然に言う。
玲司が笑う。
「おかえり」
その一言だけで、胸がいっぱいになる。
こんな言葉が、
こんなにも嬉しいなんて知らなかった。
ご飯を食べたあと、二人でソファへ座る。
テレビでは年末特番が流れていた。
玲司は少し疲れているみたいで、美桜の肩へ寄りかかってくる。
「眠いですか?」
「ちょっと」
玲司の声が低く掠れている。
「最近忙しすぎません?」
「年末なので」
「倒れないでくださいね」
玲司が少し笑う。
「美桜、最近そればっかり」
「心配なので」
その言葉を聞いた瞬間、玲司が少し静かになる。
「……嬉しいです」
その声が優しくて、美桜は胸が締めつけられる。
「俺、誰かに“帰ってきて”って思われるの、久しぶりなので」
その言葉に、美桜は息を呑む。
玲司も、一人で生きてきた人なのだ。
強そうに見えても。
平気そうに見えても。
ちゃんと孤独を知っている。
「……私も」
美桜は小さく言った。
玲司が顔を上げる。
「帰る場所できたの、初めてかもしれない」
その瞬間。
玲司の表情が少し変わった。
優しくて、
でもどこか切ない顔。
「美桜」
玲司が静かに名前を呼ぶ。
「はい」
「一緒に住みます?」
世界が止まった気がした。
美桜の呼吸が止まる。
一緒に住む。
その言葉が、胸の奥へ重く落ちていく。
嬉しい。
本当はすごく嬉しい。
でも同時に、怖い。
同棲。
生活。
毎日一緒。
それは、“恋人”よりもっと近い未来だ。
「……怖い?」
玲司が小さく聞く。
美桜は正直に頷いた。
「うん」
玲司はその答えを否定しなかった。
「そっか」
静かな声。
「でも、嫌じゃないです」
美桜は震える声で続けた。
「むしろ……したいって思いました」
その瞬間。
玲司の目が少しだけ揺れる。
「でも怖いんです」
美桜は涙が出そうになりながら笑った。
「こんなに幸せになっていいのかなって」
玲司はしばらく黙っていた。
そして、そっと美桜の手を握る。
「美桜」
「はい」
「幸せになるのって、そんな悪いことじゃないですよ」
その言葉が胸に沁みる。
「怖いなら、一緒に怖がればいいので」
玲司は少し笑った。
「俺も普通に怖いです」
「玲司さんも?」
「当たり前です」
玲司は視線を落とした。
「大事な人できると、失うの怖くなるので」
その言葉に、美桜の胸が熱くなる。
同じだ。
玲司も、
ちゃんと怖がっている。
でも、それでも一緒にいたいと思ってくれている。
「……ねえ、玲司さん」
「はい」
「私、前よりちゃんと未来考えられるようになりました」
玲司が静かに美桜を見る。
「前は、“どうせ終わる”しか思えなかった」
声が震える。
「でも今は、玲司さんとなら、その先見てみたいって思う」
その瞬間。
玲司は優しく笑った。
「俺もです」
その笑顔を見るだけで、泣きそうになる。
どうしてこの人は、
こんなにも安心させてくれるんだろう。
夜。
ベッドへ入る。
玲司が後ろから美桜を抱きしめる。
温かい。
安心する。
以前の美桜なら、“依存してしまいそう”で怖かった距離。
でも今は違う。
一緒にいることで、自分が弱くなるんじゃない。
ちゃんと“安心”を知っていく感覚だった。
「美桜」
玲司が小さく呼ぶ。
「はい」
「来年も、その先も、ちゃんと一緒にいたいです」
その言葉に、美桜の目が熱くなる。
以前なら、“ずっと”なんて怖かった。
でも今は。
怖くないわけじゃない。
それでも。
玲司となら、
その未来を信じてみたいと思った。
「……私も」
小さく答える。
玲司の腕が少しだけ強くなる。
その温度を感じながら、美桜は静かに思う。
“ずっと一緒にいたい”。
そんな言葉を、
こんなにも自然に思える日が来るなんて、
昔の自分はきっと信じなかった。
第20ページを読んでくださりありがとうございました。
今回は、“一緒に住む”という未来の話を通して、美桜が少しずつ“ずっと一緒にいたい”という感情を怖がらなくなっていく回でした。
失う怖さはまだ消えない。
でも、それ以上に“隣にいたい”という気持ちが大きくなっている。
二人の関係は、恋愛から“人生を共にする覚悟”へと変わり始めています。
次のページでは、ついに玲司が美桜へある大切な想いを伝え、二人の未来が大きく動き始めます。




