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幸せになりたいだけだった、君と  作者: あーちゃん


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19/25

“家族になりたい”なんて、思う日が来るなんて

“家族”という言葉が、

ずっと怖かった。


壊れるもの。

失うもの。

一人になるもの。


そう思っていたのに。


あなたといると、

初めて願ってしまう。


帰る場所になりたい、と。

年末が近づいていた。


街にはクリスマスソングが流れ、

駅前には大きなツリーが飾られている。


玲司と出会う前の美桜なら、この季節は少し苦手だった。


幸せそうな人たちを見るたび、

自分だけ違う場所にいる気がしたから。


でも今年は違う。


隣に玲司がいる。


その事実だけで、冬の景色が柔らかく見えた。


「寒い」


玲司が白い息を吐く。


「玲司さん、マフラーしないんですか」


「邪魔なので」


「子どもみたい」


美桜が笑うと、玲司は少し不満そうな顔をした。


「じゃあ今度選んでください」


その言葉に、美桜の胸が少し熱くなる。


“今度”。


玲司は自然に未来の話をする。


以前の美桜なら、そのたびに怖くなっていた。


でも最近は、“その未来を見てみたい”と思ってしまう。


「何色がいいですか」


「美桜が好きなの」


「それ一番困るやつです」


玲司が笑う。


その笑顔を見るだけで安心する。


好きだ。


何度確認しても足りないくらい。


二人はスーパーで買い物をしていた。


玲司の部屋で鍋をする約束だった。


白菜。

豆腐。

肉団子。


カゴへ食材を入れながら、美桜はふと思う。


まるで夫婦みたいだ。


その瞬間、自分で驚く。


以前の美桜なら、“夫婦”なんて言葉を考えただけで逃げたくなっていた。


結婚。

家族。

未来。


全部怖かった。


でも今は違う。


怖い。


それでも、“玲司となら”と思ってしまう。


それが何より怖かった。


「美桜?」


玲司が覗き込む。


「どうしました?」


「……なんでもない」


美桜は慌てて笑った。


玲司は少し不思議そうにしながらも、それ以上は聞かなかった。


玲司はそういう人だ。


無理やり踏み込まない。


でも、ちゃんと待ってくれる。


その優しさが、美桜には救いだった。


部屋へ戻る。


鍋の準備をしながら、二人で並んでキッチンへ立つ。


「玲司さん、切り方大雑把です」


「食べられればいい派なので」


「だめです」


そんな会話が楽しい。


こんな普通の時間が、

どうしてこんなに幸せなんだろう。


鍋を食べながら、玲司がふと呟く。


「年末どうします?」


「仕事ですか?」


「三十一日夜勤」


「最悪ですね」


玲司が笑う。


「美桜は?」


「三十日は仕事です」


「じゃあ年越しできないですね」


その言葉に、美桜は少し寂しくなる。


以前なら、こういう感情も隠していた。


でも今は違う。


「……寂しいです」


小さく言う。


玲司が少し目を丸くした。


「言ってくれるようになりましたね」


「最近ちょっとだけ」


玲司が嬉しそうに笑う。


「俺も寂しいです」


その言葉だけで胸が温かくなる。


好きな人に“寂しい”と言われることが、

こんなにも幸せだなんて知らなかった。


食後。


二人でソファへ座る。


玲司は疲れていたのか、美桜の肩へ寄りかかってきた。


「重い」


「ひどい」


眠そうに笑う玲司。


その姿が愛しくて、美桜はそっと玲司の髪を撫でた。


玲司は目を閉じる。


安心しきった顔。


その表情を見るたび、美桜は思う。


この人は、自分の前では少し力を抜いてくれている。


それが嬉しかった。


「……美桜」


玲司が目を閉じたまま呼ぶ。


「はい」


「最近、家帰るの楽しみなんです」


その瞬間、美桜の胸がぎゅっと締めつけられる。


「美桜いるから」


涙が出そうになる。


そんなふうに言われる日が来るなんて思わなかった。


「俺、一人暮らし長かったので」


玲司は静かに続ける。


「誰かがいる部屋って、こんな安心するんだなって」


その言葉が痛いくらい優しい。


美桜は昔から、“帰る場所”がわからなかった。


家にいても、どこか気を張っていた。


母を困らせないように。

空気を悪くしないように。


だから、“安心して帰れる場所”なんて知らなかった。


でも今は。


玲司の部屋へ帰ると落ち着く。


「おかえり」と言われるだけで泣きそうになる。


「……私も」


美桜は小さく言った。


玲司が少し顔を上げる。


「玲司さんいると、安心します」


その瞬間、玲司が少し笑った。


「じゃあ、お互い様ですね」


お互い様。


その言葉が胸に残る。


支えられるだけじゃない。

自分も玲司を支えられている。


その感覚が嬉しかった。


夜。


玲司は先にシャワーへ行った。


美桜はソファでぼんやりテレビを見ていた。


スマホが震える。


母からだった。


『年末、一緒にご飯どう?』


そのメッセージを見て、美桜は少し考える。


以前なら、断っていたかもしれない。


でも最近、少しだけ母と話せるようになっていた。


『行けそうなら連絡する』


返信する。


その時だった。


浴室のドアが開く。


「美桜、タオル忘れた」


玲司が困った顔をしている。


美桜は思わず笑ってしまう。


「子どもですか」


「急いでたので」


タオルを渡す。


玲司が「ありがとう」と笑う。


その瞬間。


美桜の胸に、ある感情が浮かんだ。


ああ。


こういう日常を、

ずっと続けたい。


その感情に気づいた瞬間、少し怖くなる。


でも逃げたくなかった。


玲司と出会ってから、美桜は少しずつ変わっている。


“失う怖さ”だけじゃなく、

“隣にいたい気持ち”をちゃんと見られるようになってきた。


シャワーから戻った玲司が、ソファへ座る。


髪が少し濡れている。


「乾かしてください」


「自分でやってください」


「疲れました」


玲司が美桜の膝へ頭を乗せる。


最近の定位置だった。


「ほんと甘えますよね」


「美桜には」


その言葉が嬉しい。


自分だけに見せてくれる顔がある。


それが愛しかった。


ドライヤーをかけながら、美桜は小さく言った。


「玲司さん」


「はい」


「……私、最近ちょっと怖いです」


玲司が目を閉じたまま聞く。


「何が」


「幸せすぎて」


その瞬間、玲司が少し笑った。


「なんですかそれ」


「だって、こんな普通の毎日がこんなに幸せだと思わなかったから」


声が少し震える。


「失ったらどうしようって思っちゃう」


玲司は静かに目を開けた。


そして、美桜の手をそっと握る。


「失うこと考えるより」


玲司は小さく言った。


「今、幸せだって思っててください」


その言葉に、美桜は息を止める。


「未来って、怖いことばっか考えるとキリないので」


玲司は優しく笑う。


「だから今は、“美桜と一緒にいられて幸せ”でいいと思う」


その瞬間。


美桜の胸がいっぱいになる。


どうしてこの人は、

こんなにも欲しかった言葉をくれるんだろう。


「……ねえ、玲司さん」


「はい」


「私、ちゃんと家族になれると思いますか」


その問いは、自分でも驚くほど弱かった。


玲司は少しだけ目を見開く。


でもすぐ、優しく笑った。


「なれますよ」


即答だった。


「だってもう、帰りたい場所になってるので」


その言葉を聞いた瞬間、美桜は涙が出そうになる。


家族。


その言葉はずっと怖かった。


壊れるもの。

失うもの。

一人になるもの。


そう思っていた。


でも今は違う。


玲司となら、

帰る場所を作れるかもしれない。


そう思ってしまった。


「……怖い」


美桜は泣きそうになりながら笑う。


「でも、なりたいです」


玲司は静かに美桜を抱き寄せた。


その腕の中は温かい。


安心する。


「俺も」


玲司が小さく言う。


「美桜と、ちゃんと一緒に生きていきたいです」


その瞬間。


美桜の中で何かが静かに変わった。


恋愛じゃない。


もっと深い場所で、

この人と生きていきたいと思っている。


それが怖い。


でも。


それ以上に、

嬉しかった。

第19ページを読んでくださりありがとうございました。


今回は、美桜が初めて“家族になりたい”という感情を自覚する回でした。


壊れるのが怖かった“家族”という言葉。

でも玲司といると、その未来を少しずつ信じたくなっていきます。


恋愛から、“人生を一緒に歩きたい”という想いへ変わっていく二人。


次のページでは、そんな二人に大きな転機が訪れ、“未来を選ぶ覚悟”が試されることになります。

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