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第38話:海外ニキ・ネキ参戦!「絶望」の輸出

「……あー、今日も今日とてコメント欄が騒がしいな。特に英語、スペイン語、フランス語……。お前ら、時差はどうした? 眠れねえほど俺の毒が回ったか?」


 2026年5月後半。同時接続数はついに50万人の大台に乗りかけていた。

 一条が現実の『教会(聖法正教連盟)』の口を封じたことで、逆に『せいまも』の存在は「禁じられた真実」として世界中に爆発的に広まっていた。


【コメント欄】

:[USA_Gamer]:Tsuzuru is a Madman! But why can't I stop reading? (綴は狂ってる! でもなぜ読むのを止められないんだ?)

:[EU_Citizen]:アルベルトのやってることは「同意のない精神改造」よ! これは愛じゃない、暴力だわ!

:[Foreign_Niki]:Is this some kind of Japanese torture porn? Explain the philosophy! (これは日本式の拷問ポルノか? 哲学を説明しろ!)


 「まてまて、お前ら。今翻訳してやる……はぁ?『哲学』だぁ? ……いいか、海外のインテリ気取りのニキたち。お前らが信じている『純愛』なんてのは、相手が自分の思い通りに動くことを前提とした、綺麗にラッピングされたエゴだろ?」


 俺は画面にプロットの断片を叩きつける。


 「アルベルトがやってるのは、そのラッピングを剥ぎ取って、生身の、汚くてドロドロした『執着』をそのまま相手の脳に叩き込む作業だ。……これを暴力と呼ぶなら、お前らが子供に強いている『教育』や『道徳』だって、立派な精神改造じゃねえか」


【コメント欄】

:軍師:……綴、面白い指摘だが、海外勢がキレているのはそこじゃない。

:軍師:彼らは『物語が自分たちのコントロールを離れること』を恐れている。ルナの翻訳精度が高すぎて、彼らは自分たちの依って立つ文化的基盤(宗教的価値観)が、お前の筆一本でハックされる恐怖を感じているんだ。

:親衛隊:ふふ……。左様でございますわね。

:親衛隊:今、海外のいくつかの配信プラットフォームが、先生のチャンネルを『テロリズム的扇動』として再停止しようと動いています。……ですが、既に彼らの役員会の過半数には、私の息がかかった投資家を送り込んでおきました。

:親衛隊:彼らにはこう伝えてあります。『銀凪綴を止めることは、世界中の若者の情熱という名の巨大市場をドブに捨てることだ』と。……彼らは今、倫理と利益の間で血反吐を吐きながら、先生の配信を「容認」していますわ。

:剣呑:ハッ! 利益で釣って、魂を売らせたわけか。一条、お前が一番の『悪徳教主』だぜ。

:剣呑:綴! 海外ニキたちが「愛とは何か」なんて青臭いこと言ってる間に、次の展開で奴らの脳を物理的にフリーズさせてやれ!


 「……よし、わかった。……ルナ、準備はいいか?」


:ルナ:……いつでも。……Sensei.

:ルナ:今、海外の「アンチ・アルベルト」を標榜するコミュニティのリーダーたちのPCに、36話の『先行試読権』をウイルス経由で送りつけておいたわ。……彼らがそれを読んだ瞬間、彼らの『正義』がどんな音を立てて壊れるか……見ものね。


【小説内パート:『せいまも』第36話「絶望の輸出」】

 聖域の最深部――『至聖所』。

 アルベルトは、半ば廃人と化したエレオノーラを抱き寄せ、教会の心臓部へと足を踏み入れていた。

 そこには、世界中の信者から集められた「祈り(魔力)」を処理するための、巨大な水晶の演算機が鎮座している。


 「……これが、お前たちの神の正体か。……ただの、巨大な感情集積回路サーバーじゃないか」


 アルベルトの嘲笑に対し、虚空からソフィアの声が響く。


 『――不浄なる者よ。その少女を放しなさい。彼女はもはや、神の一部。貴方のような塵が触れていい存在ではありません』


 「神の一部? ……笑わせるな。……彼女は、俺の『一部』だ」


 アルベルトは、自らの指先を水晶に突き立てた。

 瞬間、全世界の教会に張り巡らされた「聖なるネットワーク」に、アルベルトの絶望的なまでの独占欲が逆流し始める。


 (……世界中の信者が、エレオノーラ様を通じて『浄化』を願っているのか。

 ……なら、その『願い』のすべてに、俺のノイズを混ぜて返してやる)


 聖地で祈りを捧げていた数万の信者たちが、一斉に悲鳴を上げて倒れ伏した。

 彼らの脳内に流れ込んできたのは、聖なる啓示ではない。


 「一人の女を愛し、壊し、独占したい」という、アルベルトのあまりに人間臭く、あまりに醜い『執着』のイメージだった。


 「……ああ、……あああああぁぁぁっ!! 汚れる! 私の中の『神様』が、……知らない男の愛で、真っ黒に染まっていくぅぅ!!」


 純潔を誇っていた信者たちが、自分たちの内側に湧き上がる「他人を支配したい」という禁忌の欲求に、悶え苦しみ始める。

 

 救済のネットワークは、今や「絶望の感染経路」へと成り果てた。


【コメント欄】

:[Foreign_Niki]:Holy sh*t! Alberto is hacking the believers' minds directly!? (嘘だろ! アルベルトが信者の精神を直接ハックしてるのか!?)

:[USA_Girl]:これはもう、愛とかじゃない。テロよ。……でも、……どうしてこんなに胸が熱くなるの?

:[軍師]:……綴、術式の接続を確認した。……小説内のアルベルトのハッキングと同期して、今、現実の教会の公式サイトが『アルベルトの独白』で埋め尽くされている。……これはもはや、現実との境界が崩壊した『メタ・ざまぁ』だ。

:[ござる]:「ぬおおおおお!! 拙者のサーバーも限界突破でござる! 世界中から『アルベルトのノイズ模様』の布地に注文が殺到! 拙者、寝る暇もないでござるよ!!」

:[クロエ]:……綴。……今、描いた。……数万の信者が絶望する中、その中心で、エレオノーラにだけ「甘い毒」を囁くアルベルトの顔。……これは、世界を敵に回した者だけが浮かべる、最高の笑顔よ。


 「……あー、……聞こえるか、海外のお前らども。……これが俺の『哲学』だ」


 俺は画面を睨みつけ、不敵に笑う。


 「正義なんてのは、大人数で共有できる程度の、薄っぺらい幻想だ。……だが、絶望と執着は、たった一人を焼き尽くすほどの熱量がある。

 ……俺の物語に触れたなら、お前らの綺麗な幻想は、全部アルベルトが書き換えてやるよ」


 「……今日の配信はここまでだ。……次は、聖域が物理的に崩壊する様を見せてやるぜ。……一条さん、後処理頼みます。」


【コメント欄】

:親衛隊:……承知いたしました、先生。

:親衛隊:先生を『テロリスト』と呼んだメディア各社には、今から「愛のノイズ」を含んだ訴状を送り届けておきますわ。……ふふ、明日の朝刊が楽しみですこと。


 配信を切った俺の背中に、夜明け前の静寂が降りかかる。

 だが、俺の耳には、まだ世界中から届く「絶望の悲鳴」が、心地よい音楽のように鳴り響いていた。



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