第26話:神絵師vs漫画家。アルベルト解釈違いレスバ発生!
「……おいおい、マジかよ。……夜中の2時だぞ?」
配信画面の同接数は、騒ぎを聞きつけたリスナーが戻り、再び8万人を超えていた。
事の発端は、第25話のアルベルトの「反撃シーン」のビジュアル解釈だった。
画面には、クロエが急遽描き下ろしてアップした「書籍版準拠のラフ」と、テツ(クロガネ)が以前から温めていた「漫画版(なれ版)準拠のラフ」が並んでいる。
【コメント欄】
:[クロエ]:……テツ。貴方の描くアルベルトは、ただの『暴力者』だわ。
:[クロエ]:アルベルトの怒りは、もっと静かで、氷のように透き通ったものでなければならない。……汚れのない絶望こそが、彼の美しさなのよ。
:[鉄]:……甘ぇんだよ、クロエ。
:[鉄]:アルベルトは聖女リリカルに中身をグチャグチャにされてんだ。その反撃が、そんな綺麗な顔で済むわけねーだろ。
:[鉄]:俺が描きたいのは、血管がブチ切れて、白目が血走った、人間の『剥き出しの憎悪』だ。……漫画には、その『汚さ』が必要なんだよ。
「……あ、あの、二人とも? 落ち着けって。……お前ら、日本を代表するクリエイターだろ……?」
綴の制止も虚しく、コメント欄は二人の信奉者たちも巻き込み、空前の「解釈違い戦争」へと発展した。
【コメント欄】
::クロエ先生の言う通り! 儚いからこそ、アルベルトの絶望は美しいんだ!
::いや、テツ先生の『地獄感』こそが、せいまもの本質だろ!
::これ、どっちが正解とかあるのか……?
:[軍師]:……フッ。最高に不毛で、最高に贅沢な喧嘩だな。
「……よし、決めた」
綴は、エナジードリンクを一気に飲み干し、マイクに向かって宣言した。
「クロエ、テツ。……そしてお前らリスナー!!
今から、この『アルベルトの表情』を巡る【クリエイター頂上ディベート】を開始する!!
クロエは『書籍・光の絶望』、テツは『漫画・闇の絶望』を代弁しろ。
俺が……いや、リスナーたちが最後、どちらの解釈を『正解』とするか、アンケートで決める!!」
【コメント欄】
:[鉄]:……上等だ。俺のペンが、その綺麗な幻想をブチ壊してやるよ。
:[クロエ]:……いいわ。……私の描く『真実』が、どちらにあるか分からせてあげる。
【第一ラウンド:『美しさ』か『生々しさ』か】
「まずはクロエ。……お前が、なぜあの『透き通った表情』にこだわるのか、聞かせてくれ」
【コメント欄】
:[クロエ]:……書籍版は、綴が一条さんと共に磨き上げた『完成された物語』よ。
:[クロエ]:読者は文字を読みながら、自分の中で最高のアルベルトを想像する。挿絵はその『きっかけ』でしかない。
:[クロエ]:あまりに生々しい怒りを見せてしまえば、読者の想像力はそこで止まってしまうわ。
:[クロエ]:……絶望とは、沈黙の中にこそ宿るもの。アルベルトが涙も流さず、ただ静かに聖女を見つめる……その瞳の奥に広がる深淵こそが、読者を一生縛り付ける毒になるの。
「……なるほど。読者の想像力の余白を残すための『静寂』、か。……テツ、お前はどうだ?」
【コメント欄】
:[鉄]:……正論だな、クロエ。だが、漫画は『引き算』じゃねーんだよ。
:[鉄]:一コマ一コマで読者の脳をぶん殴って、次のページをめくらせる『引力』が必要なんだ。
:[鉄]:アルベルトが毒を飲み、舌を噛み切り、狂いそうになる。その瞬間、顔の筋肉がどう歪み、どれだけの汗と血が流れるか。
:[鉄]:……その『汚い真実』を突きつけられて、初めて読者は『自分事』として絶望を味わう。……お上品な絵じゃ、俺の読者は満足しねえんだよ!!
【第二ラウンド:『媒体』の戦い】
「……媒体の違いか。……軍師、お前はどう見る?」
【コメント欄】
:[軍師]:……面白い対比だ。
:[軍師]:クロエの絵は『永遠』を、テツの絵は『瞬間』を切り取っている。
:[軍師]:書籍は『保存される毒』、漫画は『血管に直接流し込まれる劇薬』。
:[軍師]:綴……お前がさっき言った『光と闇』。……これは、どちらかが間違っているのではなく、役割が違うだけではないか?」
「軍師、それは分かってる。……だが、今俺たちが決めなきゃいけないのは、『漫画版のアルベルトが、クロエの美学を継承すべきか、それともテツの独自路線で行くべきか』だ!!」
綴の言葉に、配信画面の熱量がさらに上がる。
クロエとテツ、二人の巨頭は、お互いのラフをじっと見つめ合っていた。
【コメント欄】
:[クロエ]:……テツ。貴方のラフを見て、一つだけ認めるわ。
:[クロエ]:その『血走った瞳』……それは、私が描けなかった、アルベルトの『人間としての執着』かもしれない。
:[鉄]:……クロエ。お前の描く『無表情の深淵』も、癪だが認めざるを得ねえ。
:[鉄]:その静かさが、逆に『コイツ、もう手遅れなんだな』っていう絶望を際立たせてる。
「……お互いを認め始めたか。……だが、アンケートはやるぞ!!」
綴は、渾身の力でアンケートボタンを生成した。
【議題:コミカライズ版アルベルトの『絶望の描き方』、どっちを支持する?】
選択肢1:クロエ流(静寂と美学。書籍版のイメージを死守する)
選択肢2:テツ流(剥き出しの暴力と汚辱。漫画独自の闇を突き進む)
選択肢3:……第三の道
投票開始。
8万人のリスナーの意思が、激しく火花を散らす。
40%:40%……。完全に互角。
「……お前ら、迷ってるな。……当たり前だ。どっちも最高なんだから。
……クロエ、テツ。……最後に、俺から提案していいか?」
綴は、自分の脳内にある『せいまも』の真実を、言葉に込めた。
「アルベルトはな、……聖女の前では、クロエの描く『美しい人形』でなきゃいけないんだ。
……でも、その心臓の裏側では、テツの描く『汚ねえ化け物』がのたうち回ってる。
だったら、漫画版はこうしよう。
引きの構図、聖女の視点では、どこまでも美しく、クロエの美学を貫く。
……だが、アルベルトのアップ、彼の主観、そして彼が舌を噛み切るその一瞬だけは……テツ!! お前の『暴力』を全開にしろ!!
『綺麗なアルベルト』という仮面を、一コマごとに『汚ねえアルベルト』が内側から食い破る……!!
クロエの光を、テツの闇で汚染し続けるんだ!!
……これこそが、俺たち三人の……そしてここにいる8万人の共犯者たちの『答え』じゃねーのか!!」
一瞬の沈黙。
そして、アンケート結果が、一気に動いた。
【結果:第三の道 98.4%】
【コメント欄】
::……それだ!!
::クロエの美学を、テツが蹂躙する……!!
::なにその贅沢な使い分け。……最高すぎるだろ。
:[クロエ]:……ふふ。……私の美しさを、テツに汚されるのは癪だけど。
:[クロエ]:……いいわ。その『仮面が割れる瞬間』、私がテツに原画を提供してあげてもいい。
:[鉄]:……おいおい、マジかよ。神絵師とのコラボか。
:[鉄]:上等だ。お前の綺麗な線を、俺の筆で最悪の『泥』に染め上げてやるよ!!
:[鉄]:綴。……お前、最高のディレクターだな。
「……よっしゃあああ!! 合意だ!! 全員、腹落ちしたな!!」
綴は椅子から立ち上がり、喜びを爆発させた。
大の大人たちが深夜にレスバをし、ディベートを戦わせ、最後は一つの「究極の形」へと辿り着いた。
それは、単なるコミカライズを超えた、クリエイターたちの魂の融解だった。
【コメント欄】
:[軍師]:……完璧な着地だ。
:[親衛隊]:……先生。
:[親衛隊]:今夜の配信を見て、確信いたしましたわ。
:[親衛隊]:書籍も、漫画も……そしてこれから始まるアニメも。
:[親衛隊]:わたくしたちは、人類がまだ体験したことのない『多層的な地獄』を完成させることができますわ。
夜は、もはや静寂とは無縁だった。
窓の外、少しずつ明るくなり始めた空の下で、綴は確信していた。
クロエの光、テツの闇、そして自分とリスナーたちの毒。
それらが全て混ざり合い、『せいまも』という巨大なウイルスは、もはや誰にも止められない変異を遂げようとしていた。
「……さぁ、お前ら!!
解釈違いは解消された。……次はいよいよ、コミカライズ第1話の公開だ!!
……世界中に、トラウマを植え付けにいくぞ!!」
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