第21話:小説内パート『せいまも:反逆の誓い』
「――アルベルト。貴方は、私の誇りよ」
聖女リリカルは、慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、俺の頬を撫でた。
その指先から流し込まれる【治癒】。
それは本来、傷ついた肉体を癒やす奇跡の業のはずだった。
だが、俺の神経を駆け抜けるのは、砂糖菓子を煮詰めたような、吐き気を催すほどの多幸感。
脳が、意識が、リリカルという麻薬に塗り潰されていく。
(ああ……心地よい。……憎しみなんて、いらない。全部、忘れてしまえば……)
「……っ、ぐ!!」
俺は、リリカルに見えないよう、口内で自分の舌を根元から噛み切った。
溢れ出す鮮血。鉄の味が口腔を支配し、激痛が「偽りの多幸感」を真っ向から切り裂く。
痛い。死ぬほど痛い。
だが、この痛みだけが、俺を『アルベルト』という人間に繋ぎ止める唯一の錨だ。
俺は血の味を飲み込み、恍惚とした表情を張り付かせたまま、その場に跪いた。
「……ああ、聖女様。貴女の光こそが……俺の、全てだ」
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ。
俺の心臓は、今この瞬間も、ドロドロとした黒い憎悪で脈打っている。
エレオノーラ。
彼女はこの国の誰よりも気高く、誰よりも民を愛していた。
それなのに、この『聖女』が現れた瞬間、世界は狂った。
王太子は彼女を『悪役令嬢』と呼び、民衆は彼女に石を投げた。
「アルベルト。次は、あの大聖堂へ行きましょう。
まだ私の光を知らない、哀れな子羊たちが待っているわ」
リリカルが背を向けた瞬間、俺の瞳から光が消える。
足元に転がっているのは、かつて俺を「兄貴」と慕っていた騎士団の部下たちの『成れの果て』だ。
彼らはリリカルの魔法によって、一切の苦痛を奪われた。
――そして、一切の『思考』も奪われた。
今や彼らは、リリカルが指を鳴らせば自らの腹を割くことも厭わない、生きた人形に過ぎない。
俺は、鞘の中で震える愛剣を握りしめた。
この剣は、かつてエレオノーラから授かったもの。
(エレオノーラ。……見ていてください)
俺は立ち上がり、リリカルの背中を追う。
俺の血管を流れるのは、聖女の魔法という名の猛毒。
俺の魂を焼き焦がすのは、この腐りきった世界への、底なしの殺意。
「リリカル。……お前を殺すのは、剣ではない。
お前が信じ切っている、その『愛』という名の毒液だ」
俺は心の中で、静かに誓いを立てた。
エレオノーラを悪役令嬢に追い込み、清廉なその瞳を悲しみに染めさせた連中を。
彼女の嘆きを歓喜の歌に変えて嘲笑った、この帝国の全ての連中を。
一人残らず、俺と同じ地獄へ引き摺り下ろしてやる。
俺は魔法の天才だ。
リリカル、お前の『治癒』の術式は、もう完全に解析し終えた。
幸福を、絶望へ。
治癒を、腐敗へ。
お前が世界に振り撒いた『慈愛』という名の種を、今夜、俺が『狂気』として開花させてやる。
帝国全土が、自分の肉体を食いちぎりながら笑い転げる……最高の祝祭を、俺がプロデュースしてやるよ。
「……アルベルト? どうしたの、急に立ち止まって」
リリカルが不審げに振り返る。
俺は、噛み切った舌の傷から流れる血を、最高の『艶』やかな微笑みに変えて、彼女に応えた。
「いいえ。……あまりに世界が美しくて、涙が出そうになっただけですよ。
……さぁ、行きましょう。
……今夜、この国は……本当の意味で、『一つ』になれる」
俺の手の中で、魔力が黒く、淀んだ輝きを放ち始めた。
それは希望ではない。
祈りでもない。
リリカルへの呪いで磨き上げた――
世界を終わらせるための、究極の【毒】だった。
【グループチャット:円卓の騎士(12人)】
:[軍師]:……。
:[軍師]:完成したな。……これが、神崎三郎には逆立ちしても書けない『回答』だ。
:[剣呑]:おい綴……これ、マジでヤベぇよ。
:[剣呑]:読んでて鳥肌が止まらねぇ。……アルベルトの憎しみが、モニターを突き抜けて俺の首を絞めてくる。
:[ござる]:「ぬおおおおおお!! アルベルト殿!! 拙者、お供するでござる! この国、まるごと焼き尽くしてやるでござるよ!!」
:[親衛隊]:……先生。
:[親衛隊]:わたくし、確信いたしましたわ。……この本が世に出た瞬間、日本中の『聖女もの』というジャンルそのものが、この毒で死滅いたしますわ。
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