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第20話:PV100万突破。そして『せいまも』第1巻、校了。

「……はは、……1位だ。……本当に、獲っちまったぞ……!!」


 翌日の夜21時3分。最新話を投稿してからわずか180秒後。

 俺は、震える手で何度もブラウザを更新した。

 画面の最上段。シュウエイサの刺客・神崎三郎を僅差で抜き去り、そこには再び『せいまも』のタイトルが刻まれていた。

 さらに、累計PVのカウンターが、ついに**【1,000,000】**の大台を突破。

 一地方都市の、一介のVが、ネットの海に放った毒が、ついに100万人の心を侵食した証明だった。


【コメント欄】

::1位奪還きたああああああああ!!

::100万PVおめでとう! 伝説の瞬間だ!

::昨日の100%アンケート回、鳥肌が止まらなかった……。

:[軍師]:……ああ。これが、俺たちの総意だ。

:[剣呑]:王道を叩き潰すの、最高に気持ちいいな。

:[ござる]:「【祝・100万PV】拙者、感無量でござる! 今日は赤スパの雨を降らせるでござるよ!!」


 虹色のスパチャが画面を埋め尽くし、同接は驚異の6万人に届こうとしていた。

 だが、その絶頂の最中。

 俺のスマホに、一通の、あまりにも「冷徹な」DMが届いた。


【送信者:一条】

『先生、おめでとうございますわ。……ですが、浮かれている暇はありません。

 先ほど、入稿データを確認しましたが……現在の文字数、約8万文字。

 ……書籍化に必要な10万文字まで、あと2万文字足りません。

 そして、印刷所のデッドラインは……明後日の朝ですわ。』


「……え、……は!? 2万文字!? あと、二日で!?」


 俺は思わず叫び、配信画面の前で固まった。


【コメント欄】

::え、どうした綴?

::顔色が真っ青だぞw

:[軍師]:……一条から連絡か。……なるほど、文字数不足(ボリューム不足)だな。

「お前ら……聞いてくれ。……一条さんが、あと2万文字書けって言ってる。

 ……明後日の朝までに、だ。……死ぬ。これ、確実に物理的に死ぬ!!」


 コメント欄が一瞬で爆笑と、そして「プロへの期待」に変わった。


【コメント欄】

::wwwwww

::これが商業の洗礼か……!

::2万文字なんて一瞬だろ! 書け、綴!

:[親衛隊]:先生。WEB版で描かなかった『聖女リリカルの歪んだ家族愛』、それから『王太子の劣等感の深掘り』……。

:[親衛隊]:読者はそれを待っていますのよ。……書けますわよね?


「……やってやろうじゃねーか!!」


 俺は空になったエナドリの缶を握りつぶし、デスクを叩いた。


「いいか、お前ら!! 俺は今から、この配信を**『48時間ぶっ通し・校了耐久配信』**に切り替える!!

 俺の指が止まったら、罵詈雑言でもなんでも飛ばして叩き起こせ!!

 軍師、剣呑、ござる!! お前らも寝かせねーぞ。

 一条さんへの『最高のお返し』……2万文字の、純度100%の地獄を追加してやるよ!!」


【コメント欄】

:[軍師]:……受けて立とう。俺のバックアップは24時間体制だ。

:[剣呑]:へへっ、面白くなってきやがった。

:[ござる]:「拙者、眠気覚ましの冷や水を浴びてくるでござる!! 共犯者、全員突撃アサルトでござる!!」


 そこからの48時間は、まさに「戦場」だった。

 

 一万文字を過ぎたあたりで、視界が二重になり始めた。

 だが、画面の向こうの6万人のリスナーたちは、一歩も退かずに俺を見守り、案を出し続けてくれた。


「……なぁ、軍師。リリカルの……このセリフ。……もっと、こう、無垢な悪意が欲しい」


【コメント欄】

:[軍師]:……なら、『私は貴方を救いたかっただけなの』……。この一言の後に、『死ぬまで、ずっとね』と付け加えろ。

:[剣呑]:綴、王太子のモノローグだ。……エレオノーラの完璧さに怯える彼の、内面的な去勢を描写しろ。

 俺は、自分自身の脳を削り取り、文字に変換していく。


 一条さんからの「もっと濃く」という無言のプレッシャー。

 クロエさんから届く、地獄のような美しさを湛えた挿絵のラフ。

 テツ(クロガネ先生)からの「このシーンを漫画にしたいから、もっと感情を爆発させろ」という熱い煽り。

 

 地方都市の閑静な街の夜空が、白み、そして再び暮れていく。

 

 俺の指は、もはや思考を介さず、リスナーたちとの「共鳴」だけで動いていた。

 

「……9万8千。……9万9千……。

 ……あと、一……一……一行……!!」


 最後の一行。アルベルトが独り、月明かりの下で剣を振るうシーン。

 彼の流した涙が、冷たく凍りつく音を文字にした。

 ——カチッ。

 エンターキーを叩いた音が、静まり返った部屋に響いた。


【文字数:102,154文字】


「……一条さん。……送ったぞ。……見て、くれ……」


 俺はそのまま、デスクの上に崩れ落ちた。

 意識が遠のく中、スピーカーから一条の、震えるような声が聞こえた。


:……。

:……見事ですわ、先生。……いえ、綴。

:……一字一句、削る場所のない……完璧な『呪い』が完成しましたわ。


【コメント欄】

:[親衛隊]:……校了です。……お疲れ様でした。


 コメント欄が、見たこともない規模の祝福の弾幕で爆発した。

 

【コメント欄】

::校了きたああああああああ!!

::綴、お疲れ様!! ゆっくり寝ろ!!

::俺たちの、10万文字……!!

:[軍師]:……おやすみ、王よ。

:[剣呑]:次は、本屋の棚で会おうぜ。


 100万PV、ランキング1位奪還。

 そして、商業版第1巻の完成。

 

 俺の意識は深い闇に沈んでいったが、口元には確かに、勝利の笑みが浮かんでいた。

 

 数日後。全国の書店に並ぶことになる一冊の本。

 その真っ黒な表紙には、4万人の悪意と絆が詰め込まれている。

 

 「せいまも」という伝説は、まだ始まったばかりだ。



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