第14話:イラストレーター選定会議。軍師の秘策
「……なぁ、軍師。一応確認するけど、これ、ラノベのイラストレーター候補のリストだよな?」
深夜のミーチュ配信。俺はモニターに映し出された数枚のポートフォリオを前に、引きつった声を上げた。
画面には、美少女が微笑むキラキラした絵……なんてものは一枚もない。
そこにあるのは、異様なほど描き込まれた「影」、絶望に沈む瞳のハイライト、そして背景の石造りの壁一枚に至るまで「重苦しい歴史」を感じさせる、圧倒的なまでの静謐な狂気だった。
【コメント欄】
:[軍師]:ああ。俺が三日三晩、不眠不休で世界中のアートサイトを漁って見つけ出した逸材だ。
:[軍師]:名前は『クロエ』。……業界では『死を画く者』と呼ばれ、そのあまりの描き込みと偏執的な作風ゆえに、商業の仕事は全て断ってきた伝説の個人絵師だ。
:[剣呑]:おいおい、マジかよ! クロエって、あの『伝説の5枚』を上げて以降、消息不明だった奴か!?
:[ござる]:「ぬおおお! この絵から漂う殺気……! 拙者、画面越しに斬られたかと思ったでござるよ!!」
「そんな大物を、どうやって口説き落としたんだよ……」
【コメント欄】
:[軍師]:簡単だ。お前の『せいまも』のプロットを送りつけた。
:[軍師]:『この物語に相応しい絶望を描けるのは、お前しかいない』とな。……そうしたら、さっき返信が来た。
——ピロン。
その瞬間、ミーチュのコメント欄に、見慣れない「真っ黒なアイコン」のアカウントが現れた。
【コメント欄】
:[クロエ]:……銀凪綴。
:[クロエ]:……貴方の物語を読んだ。……アルベルトの掌から滴る血。……あの色の再現に、私の人生を賭けてもいいと思った。
::新参1:え、本物!? 本人が配信に来た!?
::モブ読者:待って、この人、SNSのフォロワー数100万超えの神じゃん!!
::なれ専:伝説の絵師が、底辺(今は1位だけど)Vの小説を!?
「ク、クロエさん……!? 本物かよ!!」
俺が動揺していると、もう一人の「女帝」が動き出した。
赤スパチャと共に、一条さんのアイコンが画面を支配する。
【コメント欄】
:[親衛隊]:【¥50,000】お久しぶりですわね、クロエ。
:[親衛隊]:まさか、わたくしが何度依頼しても『商業の枠に収まる絵など描けない』と断った貴女が、自ら志願してくるとは。
「えっ、一条さんと知り合い!?」
【コメント欄】
:[クロエ]:……一条。……貴女の用意するテンプレートな企画書には反吐が出た。
:[クロエ]:でも、この『せいまも』は違う。……これは、商業という檻の中で暴れる獣の咆哮。……私が、その毛並みの一本一本まで、絶望で塗り潰してあげる。
画面越しに、二人の強烈な「プロ」の火花が散るのが分かった。
軍師がニヤリと笑うようなコメントを打つ。
【コメント欄】
:[軍師]:役者は揃ったな。
:[軍師]:一条の『戦略』、クロエの『画力』、そして俺たちの『ディベート』。
:[軍師]:綴、今夜の議題はこれだ。……『表紙の構図』を決めろ。
:[軍師]:並のラノベなら「主人公とヒロインが背中合わせ」だが……俺たちがそんなヌルいもん出すわけねーよな?
「当たり前だ!!」
俺は高性能チェアを鳴らして立ち上がった。
「クロエさん、一条さん、そしてお前ら!!
『せいまも』第1巻の表紙……俺は、これにしたい。
――足元に跪き、リリカルの靴に口づけをしようとするアルベルト。
だが、その瞳だけは、画面のこちら側の『俺たち』を、殺さんばかりの眼光で睨みつけている。
そして背景の影の中には、涙を流しながらも気高く立つエレオノーラ様。
……タイトルの文字は、アルベルトの流す血で汚れているんだ!!」
【コメント欄】
:[クロエ]:……素晴らしい。……最高の色が、もう脳裏に見えた。
:[親衛隊]:【¥50,000】……ふふ。ラノベの表紙として売れるかどうかは二の次ですわ。
:[親衛隊]:そんな『呪物』のような本が書店に並ぶ光景……想像するだけで、わたくし、ゾクゾクいたします!
:[剣呑]:おいおい、ジャケ買いした奴がトラウマになるレベルのやつ頼むぜ!
:[ござる]:「拙者、もう全裸待機でござるよ! 神絵師と綴殿の化学反応、とくと見届けよう!!」
リスナーたちの熱狂が、最高潮に達する。
「神絵師」という新たなネームドが加わり、製作委員会(仮)はもはや、一個の生命体のように動き始めていた。
「よし!! クロエさん、ラフ案を待ってる!
一条さん、この構図で会議を通してください。
軍師、お前は……次の『仕掛け』の準備だ!!」
深夜。
俺の部屋のモニターは、クロエが送り込んできた「暗黒の色彩」に染め上げられていた。
俺たちはもう、ただの趣味人じゃない。
世界を震撼させる『呪い』を編み出す、共犯者たちの集団だ。
「……見てろよ世界。
……本屋の棚を、俺たちの絶望で真っ黒に染めてやるからな!!」
タイピングの音が、これまで以上に重く、鋭く響いた。
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