第13話:『せいまも』書籍化決定! ネットは大炎上!?
「――よし。……それじゃあ、今日はお前らに大事な報告がある」
夜22時。ミーチュの配信開始ボタンを押した俺の指先は、微かに震えていた。
同接数は開始30秒ですでに2万人。もはや俺の配信は、「個人の趣味」の域を完全に超えている。
画面右側のコメント欄には、期待と不安が入り混じった文字列が、今日も光の速さで駆け抜けていた。
【コメント欄】
::待機!
::大事な報告……? 引退じゃないよな?
::まさか、アニメ化とか言わないよなw
::なれの日間ランキング、今日も1位独走中だな。
「引退なわけねーだろ。……いいか、一回しか言わねーぞ。
俺たちの『せいまも』……書籍化、決定だ。
出版社は『カドカワレ』。……さらには、コミカライズの同時展開も決まった」
一瞬、コメント欄が止まった。
そして次の瞬間――爆弾が落ちたかのような勢いで、虹色のスパチャと、それを上回る「呪詛」が画面を埋め尽くした。
【コメント欄】
:[軍師]:【¥50,000】おめでとう。計画通りだな。
:[ござる]:「【¥10,000】祝・天下布武! 綴殿、ついに成し遂げたでござるな!!」
::古参A:きたあああああ! 買うわ! 3冊買う!
::新参B:おめでとう! 綴ならやってくれると思ってた!
ここまでは予想通りだ。
だが、その背後から、これまで身を潜めていた「アンチ」と「懐疑派」が、鋭い刃を突きつけてきた。
【コメント欄】
::は? 魂売ったのかよ。
::早すぎだろ。どうせ出版社の工作だったんだな。
::どうせ書籍化で修正入って、聖女のクズ描写もマイルドになるんだろ?
::『なれ』で尖ってた作品が書籍で死ぬパターン。もう飽きたわ。
::商業化おめでとう(笑) さよなら、面白かった頃の『せいまも』。
「……あー、やっぱりな。そう来ると思ったよ」
俺は高性能マイクの前で、わざとらしく鼻で笑った。
アバターの銀髪イケメンは、不敵な笑みを浮かべている。
「おい、アンチども。……そして、不安がってる腰抜けの読者ども。
一言言っておいてやる。……お前ら、俺と、この『円卓の騎士』たちを誰だと思ってる?」
【コメント欄】
:[剣呑]:おい綴、言ってやれ。
:[剣呑]:【¥10,000】俺がこの作品の『毒』を薄める許可を出すわけねーだろ。
「さっき、修正でマイルドになるって言った奴。
……残念だったな。担当編集の『一条』さんは、お前ら以上の狂人だ。
さっき届いた修正指示、何て書いてあったと思う?
『第1話のアルベルトの自傷シーン、もっと生々しく。女王への辱めは3倍濃く。』……だぞ?
……商業化して、さらに『毒』を増強しようとしてる奴がどこにいるんだよ!!」
俺が叫ぶと、コメント欄の空気が一変した。
罵詈雑言を吐いていた連中が、困惑と、それ以上の「期待」に飲み込まれ始める。
【コメント欄】
::……は? 修正でさらにエグくなるの?
::一条って……あのラノベ界の女帝の一条か? 狂ってるだろ。
::マイルドどころか、劇薬マシマシじゃねーかwww
::カドカワレ、正気かよ! 最高かよ!!
「いいか。俺は魂を売ったんじゃない。
……商業という巨大なステージを使って、この地獄を日本中に『感染』させることにしたんだよ。
本屋の棚に、アルベルトの血と涙が染み込んだ本が並ぶ。
何も知らないリア充や子供たちが、それを手にとって、絶望に叩き落とされる。
……想像しただけで、ゾクゾクしねーか?」
【コメント欄】
:[軍師]:……ふふ。悪趣味だな、綴。
:[軍師]:だが、それが正解だ。
:[親衛隊]:【¥50,000】先生、素晴らしい演説ですわ。
:[親衛隊]:わたくしたちは、世界を『せいまも』という病に沈めるための軍隊。……書籍化は、そのための第一歩ですわね?
「その通りだ、親衛隊!
だから、お前らも覚悟しろ!
書籍化するからって、お前らとの『製作会議』をやめるつもりはねえ。
むしろ、ここからは『プロの会議』だ。
アンチも、不満があるなら案を出せ!
『ここがヌルい』『もっとこうすれば絶望が深まる』……その声こそが、俺のガソリンだ!!」
俺の咆哮に呼応するように、コメント欄が再び熱狂の渦に包まれる。
お祝いムードを冷やそうとしたアンチたちは、いつの間にか「もっとエグくするための案」を議論し始める集団の中に飲み込まれていった。
「よし……。じゃあ、今夜の議題だ。
書籍化にあたって追加する『書き下ろし短編』の内容を決める。
テーマは……『王太子マクシミリアンが、魅了にかかる前のエレオノーラへの劣等感』。
……どうすれば、救いようのないクズの心理を完璧に描写できる?
軍師、剣呑、お前らの『汚い知識』を貸せ!!」
【コメント欄】
:[軍師]:……フッ。劣等感、か。
:[軍師]:自分より成績も剣技も上の婚約者。周囲の期待という重圧。そこに聖女という名の『逃げ道』が現れる。
:[剣呑]:『彼女が完璧であればあるほど、俺は惨めになる』……その呪いを一万文字くらいで書き連ねてやろうぜ。
:[ござる]:「ぬおおお! 精神的自傷でござるな! 拙者、筆が乗るでござる!!」
::モブ読者:この配信、まじでブレーキねーなw
::新参1:書籍化してもこのノリのままなの、安心したわww
深夜。
俺の部屋の温度は、エアコンを最大にしても追いつかないほど上昇していた。
炎上すらも「演出」に変え、敵を「共犯者」に変え。
銀凪綴という怪物は、ついに現実の世界という底なし沼へと、その巨大な足を踏み出したのだ。
「……見てろよ、世界。
……俺たちが、本物の『物語』ってやつを教えてやるからな!!」
タイピング音が、再び部屋を支配し始める。
それは、世界を絶望で塗り替えるための、不吉なカウントダウンだった。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




